第1029話 宣戦布告ですってよ
さて、エルフっ子の少女カリュリアちゃんと知り合い、今後の予定を頭の中で立てる。まずはウーラスト先生に話を通して、それから……
……女子寮へと向かっている、そんな時だ。
「おい、待て! そこの黒髪女!」
「黒髪」
「女?」
聞こえた声に、足を止める。別に私たちが名指しされたわけじゃないけど、その特徴は明らかに私たちを指したものだ。
そのため二人同時に振り向く。
……そこに立っていたのは、赤い中に茶色が混ざった髪色の男の子。大きな目だけど鋭さもあり、なにより右目に引っかき傷のようなものがある。目は閉じられてないけど。
その眼光が私たち……いや、私を睨みつけている。
「私たちになにか用?」
「お前だけだ、そっちの……エラン・フィールドだな!」
おおう、威勢がいいじゃないか。
同級生にこんな子いたかな、それとも上級生……いや、スカーフの色を見るに一年生だ。
見るからにオラオラ系の男が、私を名指しで指差している。人に指を差しちゃいけないんだぞ。
「そうだけど、なに?」
いいえ違います、とシラを切ってもいいんだけど……私は師匠から貰ったこの名前を気に入っている。
十年より前の記憶がなく……そんな私に『エラン』と名前をくれ、家を発つ時に『フィールド』の家名をくれた。
なので、この名前を否定することは、たとえ冗談でもしたくない。
「俺は、アレクレス・ルーランドだ!」
「あ、どうも。ええと……アキレスケンくん」
「アレクレスだ! 俺はあの、ルーランド家の長男アレクレスだぞ!」
「な、なんだって!? あのルーランド家の!?」
自信満々な男の態度に、私は驚いて見せる。
その反応が満足いくものだったのか、男は鼻を膨らませていた。
その様子に、こそこそとマヒルちゃんが耳打ちする。
「ねえエランちゃん、ルーランド家ってそんなに偉いの? あの子すごい自信だけど」
「知らん」
「え」
マヒルちゃんは絶句する。私の驚きように、ルーランド家とやらのことを知っていると思ったんだろう。
私は学んだのだ。あれはそう、ダルマスと会ったばかりの頃……あいつは自分のことを、『ダルマス家の長男』だなんだと吠えていた。
だけど私は、ダルマス家というものを知らなかった。
「似た経験があるんだよ。ダルマス家なんて知らない、ダルマ男……なんて言っていたら、ダルマスを怒らせて気分を悪くさせてしまったんだよ。
無知は罪だって思い知ったよ」
「それは家名を知らない無知に怒ったんじゃなくて、別のことに怒ったんだと思うけど」
自分がどうでもいいと思ってる相手の気分が悪くなろうがどうでもいいけど、怒らせて妙な因縁をつけられても面倒だ。
そのため、私は考え……そして編み出したのがこの技だ。
秘技……"とりあえず驚いておく"!
「自分は◯◯家だ偉いんだ、って言うような奴は、とりあえず家柄をアピールしたいんだから、「さすがー、すごーい、そうなんだー」と驚いておけばいいよ。それで奴らの自尊心は満たせるから」
「なんかとんでもないこと言ってる」
ちなみに「知らなかったー」はこちらの無知さをバカにされるので、使い所には要注意だ。
そして自尊心が満たされつつあるアキレスケンは、自分を親指で差す。
「俺こそ、この魔導学園の頂点に立つ男だ!」
「「さすがー」」
「なんせ、今年の入学時一年生一位の実力だからな」
「「知らなかったー」」
「すでに、一年生を纏め上げる実力は見せつけちゃったって感じ?」
「「すごーい」」
「てめえらバカにしてんだろ!」
……だめでしたか。
それにしても、入学時一位の実力か。こんなところで嘘をつく必要はないし、事実だとしたら相当な実力者なはずだ。
と、考えてみたけど。私たちの場合、秀でている者は発表されたけど、誰が一番だなんて発表はされなかったなぁ。
……こいつ盛ってる? それとも、一年生同士で競い合ったのか……それとも願望か。
「まあどっちでもいいか」
「なにごちゃごちゃ言ってやがる。はっ、ルーランド家のでかさに驚きすぎて声も出ねえか」
こいつ見てると、昔のダルマス思い出すなぁ。
ルーランド家がどれほどのものか知らないけど、有力な貴族なんだろう。
それはそれとして……
「権力を傘に偉ぶってる奴、私嫌いなんだよねー。権力に屈さない自分を目指してる」
「そ、そうなのね」
「あ、でも私が権力使って相手にわからせるのは好き。権力バンザイ、わからせ最高」
「最低なんだけどこの人!」
マヒルちゃん、いいツッコミしてくれるね。
一方、アキレスケンの側にいた男子生徒があわあわしていた。
「なあ、あの人フィールドだろ……あのグレイシア・フィールドの弟子の」
「はっ、知るかよ! フィールドっても、すごいのはグレイシア・フィールドだろ。こいつが偉いわけじゃねえよ」
おぉ、すげえ……師匠を褒めながら見事にブーメランかましているなんて。
師匠は私にとって父親みたいなものだし……そうそう、すごいのはキミのお父さんや先祖であって、キミがすごいわけじゃないんだよ。よくわかってるじゃないか。
……それにしても、なんかこの感じ懐かしいなぁ。今じゃみんな、私を魔導学園の狂犬だのやべー奴だの言って、こんな風に絡んでくる人いないからなぁ。
「というか、そもそもキミはなんのつもりで私に話しかけてきたのさ」
「はっ、決まってる!」
本題はいったいなんなのか。それを聞き出すと……彼は懐から、"魔導の杖"を取り出す。
それを私に向け、切っ先をカッ、カッ、カッ……と、三度点滅させる。
……この合図は、つまり……
「エラン・フィールド! あんたに、このルーランド家が長男アレクレス・ルーランドが、決闘を申し込む!」
にやりと笑みを浮かべて、彼は……私に宣戦布告をした。




