第1288話 水がおいしい
ルリーちゃんの隣に座ったナタリアちゃんが、なにやら気になる反応をしていた。
そして、気になることを言ったルリーちゃんに視線を向ける。
その視線に、ルリーちゃんは「しまった」というような顔をしていた。
「ルリーちゃん、今のどういうこと?」
「あ、えぇと……すみません、私……」
「いいんだよ、別に隠しているわけじゃないんだし」
ハッとした様子でルリーちゃんは口をふさぐけど、もう遅い。
つい口に出してしまった、って感じなんだろうな。言ってもいいことかわからなかったので、こんな反応になってしまった。
けれど、ナタリアちゃん的には隠すわけでもない話だったってことだ。気にする様子はなく、笑いながら首を振っていた。
「ナタリアちゃんとアルテミィミスさんの二人は、知り合いって話なの?」
「はは、会ったことがあるだけだよ。大したことじゃない」
「それって、知り合いでいいんじゃないの」
そして、なぜルリーちゃんだけがそれを知っているか。それは、ルリーちゃんとナタリアちゃんが同室だからだ。
エルフ族に対して偏見を取っていないナタリアちゃんは、ダークエルフであることを知ってもルリーちゃんと仲良くしてくれている。
だから、いろんな話をするのだろう。私とノマちゃんだって、二人だけの話をすることはいっぱいあるしね。
「それにしても、"七帝魔導士"と会ったことがあるなんて……」
「小さい頃の話だよ。ウチは、お偉い人たちと交流が多いから」
そう話すナタリアちゃんは、自慢げではなく淡々としている。
ナタリア・カルメンタール……ナタリアちゃんは本来別の家の子供だったけど、ナタリアちゃんの才能を欲したカルメンタール家が彼女を欲した。
そして、ナタリアちゃんの実家であるゼリシャンテ家は金を欲していた……結果として、ナタリアちゃんはカルメンタール家の人間になったのだ。
そこで、ナタリアちゃんの義祖父に当たるアルミル・カルメンタールは魔導のエキスパート。その立場から、偉い人と会う機会も多いのだろう。
その関係で、ナタリアちゃんも……ということか。
「会ったのは小さい頃、それに相手が偉大な魔導士だというのは聞かされていたけど当時はよくわかってなかったからね。彼女も、ボクのことなんて覚えていないよ」
「だとしても、私たちにとってはうらやましいことよ」
ま、ナタリアちゃんの性格ならそれを自慢するようなこともしないだろう。
それにしても、あんまり意識してなかったけど……そっか、ナタリアちゃんってお偉いの人と結構会ったことがあるのか。
ということは、つまり……
「ナタリアちゃんを介して、強い人と知り合うことができる?」
「なにか危ないこと考えてない?」
「言っておくけど、ボクにそんな"つて"はないからね」
私の考えていること、筒抜けかよ。恥ずかしいよりもう、なんでだよって気持ちしか出てこないよ。
やっぱり、そんなに分かりやすいってことなんだろうか。
「ま、向こうはボクを覚えてなくても、ボクはよく覚えているよ。あの頃見た、彼女の魔導はとても見事なものだった」
当時のことを懐かしむように、ナタリアちゃんは目を細めていた。
元々ナタリアちゃんは、魔導の才能があった。それに加えて、その目はエルフの眼だ。とある理由で、片目だけが。
そんなナタリアちゃんがすごいと言えるほどに、やっぱりすごい人なのか。
「へぇー、私も見てみたいものね」
「私もです」
それは、ナタリアちゃんから話を聞いたとしても本当のすごさまでは伝わらないだろう。当時の記憶は、ナタリアちゃんの頭の中にだけ残っている。
まあ、私はさっき力の一端を見たよ……とは言えない。空気ぶち壊しだ。
「この学園にいれば、その機会も来るだろうね。
それに、彼女は"七帝魔導士"の中でもこの国を中心に活動しているらしくて、以前はよくウチを訪れていたものだよ」
「その時、なにか変わったこととかなかったの? 魔導を教えてもらったとか!」
「そんなことはなかったよ。ただ、たまに魔導の助言をくれたりしたかな」
たまに助言……かぁ。おそらく、一人で鍛錬していたナタリアちゃんの姿を見て、アルテミィミスさんも応援したくなったんだろう。
小さな子供が頑張っていたら、つい助言したくなるものなもんね。
それからみんなでお話をしながら、昼食を食べ終える。
お腹ペコペコ状態だったけど、おかげで潤ったぁ。水を飲んで喉も潤すとしよう。
「ごくごく……はぁ、水がおいしい」
「おいしぃー」
私の真似をして、フィルちゃんがにこにこと笑う。
これで、午後からの授業も頑張れそうだな。とにかく今は、身体を動かしたい気分だ。
アルテミィミスさんとの実戦で気づいたこと……それは力の強さだけではなく、それ以外ももっと鍛えなきゃいけないということ。
それに、使い魔……クロガネとの絆も、もっと深める必要がある。
私はどこかで、クロガネはめちゃくちゃ強いし……単体でも充分な強さだし、これ以上はいらないと思っていたのかもしれない。
でも、そうはいられないってことだ。使い魔との仲を深めることを、もっとよく考えないとな。




