第1286話 憧れはある
それから少しの間生徒会室で過ごしたあと、私は教室に戻ることになった。
もう少し、アルテミィミスさんと話してみたい気持ちもあったけど……まあしばらくこの学園にいるなら、また話す機会はあるよね。
それに、あの後は理事長とか校長とかやってきて、むつかしい話は私にはよくわからないし。退散してきた。
で、教室に戻ってきたわけだけど……
「エランちゃん、ビビアン様に失礼なことしなかったでしょうね?」
教室に戻るなり、みんなから詰め寄られた。それは予想していたけど、そのほとんどが私がアルテミィミスさんに失礼があったんじゃないかというものだ。
みんな、私をなんだと思っているんだ。
とはいえ、ノマちゃんのようなことになっても面倒だし。なにもなかったと、ごまかしておいた。
「それにしても、うらやましいですわ。"七帝魔導士"様とお近づきになれるなんて」
「向こうは私のこと、あんまよく覚えてないかもしれないよ」
「エランさんほど印象的な方を忘れる人は、そうそういないと思いますけど」
「ねえねえ、どんな話をしたの? アルテミィミス様の好きなものは? どんな食べ物が好きかとか、どんな花が好きかとか」
「はぁー、一度でいいから直接お話してみたいわ」
「どんな匂いがしたんだ?」
と、クラスメイトから次々に質問が飛んでくる。そんなにいっぺんに聞かれても、答えられないよぉ。
すると、パンパンと大きな音が鳴った。
「おいお前たち、今は授業中だということを忘れていないか?」
それは、サテラン先生のものだ。先に教室に戻った後、授業を始めていたのだ。
みんながみんな席を立ち、私に詰め寄っている状況だ。今が授業中となれば、そりゃ苦々しい顔にもなるよね。
まったくみんな、落ち着きなよ。今だって我関せずの顔で座ってる筋肉男を見習って……いや、あれは見習わないでいいや。また手鏡見てるよ。
「そんなに興奮しなくても、近いうちにアルテミィミス様と会う機会はある。座れ座れ」
そうだよ、アルテミィミスさんがわざわざ学園に来たのは、いろいろ教えてくれるためだ。
彼女の教える授業というのは、どんなものなのだろう。座学かな、それとも実技かな。
考えただけで、ワクワクが止まらない。
「それじゃみんな、座ろうよ」
そんなわけで、ぞろぞろと席に戻る。
ようやくいつもの光景になったところで、サテラン先生は軽くため息を漏らした。
「まあ、"七帝魔導士"がこんなに近くにいるなんて、滅多にあることじゃない。気持ちはわかるがな」
「先生もやっぱり、憧れてたり?」
「あぁ、まあな。この年になっても、やはり憧れというのはある」
先生は何歳なんですか……なんて聞いたら怒られそうなので、やめておこう。
教室内が静かになったところで、授業が再開する。こうしていると、さっきまでの出来事が嘘みたいにいつも通りだな。
でも、ちゃんと覚えている。頭の中で、身体で。自分の力をぶつけて、全然敵わなかったことを。
まさか終始あんな涼しい顔でかわされるなんて。ゴルさんだって、私の二重魔術にはもっと驚いた顔してたぞ。
「……というわけで、使い魔の力は……」
ぐぅ〜……
「……」
「……ごめんなさい」
めちゃくちゃ大きなお腹の音が鳴ってしまった……は、恥ずかしすぎる!
私だって、乙女だからね! こんな風に、教室内に響くお腹の音なんて、恥ずかしいんだよ!
お腹を押さえても、時すでに遅しだ。
うぅ、さっきいっぱい魔力使って、魔術まで使ったから……お、お腹が……
「……とりあえずこの授業を乗り切れ。そうすれば昼食だ、たらふく食え」
「は、はい」
さっきまで行動を共にしていた先生なら、私の空腹の理由を知っているだろう。
ただ、それと同時に呆れもしているためか、なんともいえない表情をしている。
さすがに授業ほっぽりだして、ご飯食べに行くわけにはいかない。
それに……
「使い魔との絆をより深めていくこと。これが、一流の魔導士に必要なことだと言われている」
今やってる授業内容、とても興味深いもんね!
「それに、圧倒的に経験を積むことも必須だ。他者との交流が、自分にないものを伸ばしてくれるが……魔導士の中には、ダンジョンに潜り実戦を重ねていく者も少なくはない」
「先生、ダンジョンに入るには冒険者にならなくちゃいけないんですよね?」
「いや、必ずしもそういうわけではない。冒険者にならずとも、ダンジョンに入ることはできる。
ただし、その場合他の冒険者とパーティーを組むこと……そして、ダンジョン内で手に入れた魔石や武器など、それらはパーティー内の冒険者のものとなる」
ふむふむ……冒険者にならなくても、ダンジョンには入れるのか。でも、それには注意がある。
冒険者ではないんだから、当たり前とも言える。だってそうしないと、冒険者になる人いなくなるしね。
ってことは……本当に、実戦経験を積みたい人用の制度って感じだ。いくら授業とかで知識を蓄えても、やっぱり実際に戦いを経験するのとでは、違う。
私だって、師匠にいろいろ教わったけど、この学園に来ていろんな人と絡んで、得たものは多い。
冒険者からしたら、一時的にでも魔導士がパーティーに入ってくれるからありがたい……か。
なんともうまい具合にやったもんだなー。




