第1281話 悲鳴が聞こえる
さて、アルテミィミスさんとのあれこれが終わり、私たちは訓練場を出たわけだけど。
そういえば、今って授業中だったっけ。私たちでアルテミィミスさんを学園案内してくれって話が、まさかこんなことになってしまうとはね。
気を取り直して、今度は校内に行くことにする。
場所の案内もそうだけど、普段の授業風景を見てもらうためだ。今は珍しく、どのクラスも外で授業してないしな。
「そういえばアルテミィミスさんって、普段はなにしてるんですか?」
「私に限った話ではないが、"七帝魔導士"として他国に行っていろいろな仕事をすることが多いのぉ。今回私がこの学園に来たのは、私がこの学園の卒業生じゃからじゃよ」
……そうか、"七帝魔導士"って別にこの国限定って話じゃないもんね。他の国や、もしかしたら他の大陸……それら全部含めて、選ばれた七人のことだ。
普段は、国を跨いで活動しているようだ。私なんて、魔導大会中の転移事件で魔大陸に飛ばされることがなければ、この国から出ることはなかっただろうな。他の大陸があるってことも初めて知った。
また行ってみたいと、思わなくもない。知り合いになった魔族もいるし。
ただ、魔力的な意味で……進んで行きたいとも思えないかな。環境が適していたダークエルフのルリーちゃんは、反対意見かもだけど。
「それで、この教室が……」
「ふむふむ」
……ダークエルフと言えば、"七帝魔導士"と呼ばれる人たちはダークエルフのことをどう思っているんだろう。
一般的には、恐怖、怒り……そういった負の認識が『呪い』として刻まれているみたいなんだけど。
うぅん、気になる。でも、変なこと聞いて変な空気になるのも嫌だしな。
「フィールド、どうかしたか?」
「! や、なんでもないですよ」
「……ちゃんと見ておけよ。お前一応は生徒会の副会長なんだから」
言いながら、サテラン先生はシルフィ先輩を指す。
大物を相手に緊張していたのに、今じゃ普通に話しているように見える。さすがシルフィ先輩。
そうだよなー、生徒会じゃシルフィ先輩を除けば私が一番の先輩なんだ。しっかりしないと。
「それにしても……」
そう言って、先生は周囲を見回した。
校内だけあって、人目を避けるのは不可能だ。しかも、ひと気の少ない所を歩いているわけでもないし。
つまり、生徒たちに見られているのだ。わーって感じでこちらに集まってこないのは良かったけど、それでも視線をひしひし感じるのだ、落ち着かない。
それに、自分を見られているわけじゃなく、一緒に居る人を見られて間接的に自分が見られている気持ちになる。
……あぁ、これがクレアちゃんたちが感じていた気持ちかぁ。入学当初は、黒髪黒目で物珍しい私の近くに居ることで苦労をかけたもんな。
「みんな、ちゃんと授業受けてるのは安心ですね」
「本当なら、すぐに囲みたいくらいだろうがな。だが、憧れの"七帝魔導士"の前でそんな醜態をさらすわけにはいかない」
先生は落ち着いて答える。
有名人が、手の届く距離にいる。話を聞いたり握手をしたりいろいろしたいけど、学園の生徒として規律正しい姿を見せたい。その境界で揺れているってところか。
まあ、貴族だからこそ正しくあらなければならないって考える子は多いだろうけど。
「これはまた、後で詰め寄られそうだ」
教室に戻った後のことを想像すると、なんとも言えない気持ちになる。
教室を案内していく。ほとんどシルフィ先輩に任せてしまっている気もしたけど、私だってただ突っ立っているわけじゃない。
私なりに先輩をフォローしてみたり、前に出てみたり。でも、こんなの慣れてないから緊張する。
二年生の階層を歩いていたところで、アルテミィミスさんは足を止める。
「少々お手洗いに行ってもいいかの」
「もちろん」
ということで、女子トイレに案内。私たちは外で待つことに。
さすがに案内人を任されたとはいえ、同性でもトイレの中にまで着いていけないよ。
彼女を見送ると、シルフィ先輩はどっと息を吐きだした。
「ご苦労だな、ドラミアス」
「いえ。しかし、さすがに緊張しますね」
表情には出していなかったけど、やっぱり疲れが出ているみたいだ。冷や汗も流れている。
これまでも、生徒会では目上の人ばかりだった。上級生に、王族まで。なので、肩ひじを張っていたという意味では同じ経験なんだけど……
言っても同じ学園の生徒で、一緒の空間で過ごしてきた相手。今日会ったばかりの凄腕魔導士と同列では考えられないよな。
「ごめんね先輩、私がもっとうまくできてれば」
「いや、お前に任せるとどんな失礼があるかわからないからな。今のままで充分だ」
「なんだとう!?」
先輩は、小さく笑っていた。本音かどうかわからないけど、少しでも気持ちが和らいでくれたならよかった。
ただ、このまま先輩に任せきるわけにもいかないよね。私だって、なんとか……
「うきゃあああぁあああぁあああ!?」
「!?」
そんなことを考えていた時、突然悲鳴が聞こえた。トイレの中から。
私たちは揃って、トイレの中に注意を向ける。明らかになにかが起こっている。
ただ、この声……アルテミィミスさんじゃ、ない!?




