第1279話 違和感はあった
使い魔と術者の力を組み合わせたもの。それを、私は何度か見たことがある。
一度目は、ゴルさんがサラマンドラの炎を使って己を強化していた時。二度目は、フィルちゃんがその姿を獣のような姿に変化させた時だ。いや、獣人と言うべきだな。
そのどちらとも違うけど、今アルテミィミスさんが使ったのは間違いなくそれと同じだろう。術者と使い魔……その関係、絆が深まった時新しい力が生まれる。
そして、二発の魔術は……真っ白なドーム状の盾に、衝突した。
「くっ……」
ドォン……と激しい音を立てて、周囲に衝撃が走る。
まるで大気でも揺れているようにさえ感じる。実際には、私が勝手にそう思っているだけなんだろうけど。
煙が上がり、姿が見えなくなる。自分で言うのもなんだけど、二発の魔術をまともに食らったらただじゃ済まないだろう……って、この空間って結界とか、どうなっているんだろう。
訓練場なら、一定以上のダメージを受けてしまわないように結界が張ってある。でもここは、そもそも空間が違うって言うし……
「……」
まだ警戒は解かないまま、煙が晴れるのを待つ。
ひゅう、と風が吹く。こういう場所でも風は吹くんだなと、そう思っていた。
風により、煙が晴れていく。そして、明らかになるのは……そこに健在したままの、ドーム状の盾だった。
糸でできているはずのそれには、膨大な魔力が纏っている。
「いやはや、すごい威力だったよ」
姿は見えない、盾に隠れているから。でも、その中から聞こえたのは、アルテミィミスさんの声だ。
彼女は、無事。それどころか、あの攻撃で……糸の盾を壊すこともできないなんて。
私は、その場に尻餅をついていた。同時に、糸がほつれて盾が解除されていく。
「ふふん、この盾を壊すにはまだまだのようね。とはいえ、私もずいぶん魔力を消費させられたんだけど」
煙と糸が消えていき、隠れていた彼女の姿を映し出した。
その姿に……私は、開いた口が塞がらなかった。
「ち……」
「おや、尻餅なんてついて……それに、分身はもう終わりかな? 私はまだ、続けても構わないが……」
「縮んでるー!?」
「……ん?」
私が尻餅をついたのは、確かに魔術を防がれた驚きからだ。
でも、驚きはもう一つある……それは、アルテミィミスさんの姿にある。
さっきまでそこに居た彼女は、すらっとした、それでいてボンキュッボンの成人女性だった。
だけど、今そこに居るのは……明らかに、子供だ。
「おや……もしかして……」
しかも、彼女が身につけているものはぶかぶかだ。服も、そして帽子も。
彼女は、まるで自分の視界を確認しているような動きを見せる。そして、自らの手のひらを見つめた。
「おぉ……予想以上に魔力を使い過ぎてしまったようじゃな」
「って言うか、誰!?」
誰、とは言うけど、私はこの子に会ったことがある。それも、昨日のことだ。
カリュリアちゃんの訓練を終え、一人でゆっくりしていたところに現れた、ロリババアじゃないか……!
なんでここに……いや、もしかしてとは思っていたんだけど……
「アルテミィミス、さん?」
「おぉ、そうじゃよ」
あっさりと、認めた。短く切り揃えられた桃色の髪も、桃色の瞳も、左目にある泣きぼくろも。
その特徴は、一致していた。姉妹かとも思ったけど、泣きぼくろの位置までそっくりになるものか? そう考えていた。
考えていて、同時にまさかとも思っていた。二人が、同一人物なんじゃないかと。
「エラン・フィールド学生の魔術が思いの外強力で、想定以上の魔力を消費してしまったようじゃの」
それに、「エラン・フィールド"学生"」という呼び方。最初アルテミィミスさんに呼ばれた時は、なんだか違和感があると思っていたけど、こういうことか。
昨日会ったロリババアと同じ呼び方だったから、違和感があったんだ。
アルテミィミスさんは……魔法で、見た目を変化させていたってことか。そして、私の魔術を防いだ際に思っていた以上の魔力を使ってしまった。だから子供の姿になってしまったと?
「やれやれ、私としたことがのぉ。……さて、どうする? まだ続けるかの?」
「あ、いや……」
さすがに、私もこの状況で続けようとは思わない。
というか、まずは服をどうにかした方がいいんじゃ……
……そう思っていると、アルテミィミスさんは魔法で服のサイズを調整し、ちゃんと着た。
「言っておくが、この姿だからってお主に負けるつもりはないからの」
「う、うん……」
思わぬ形で、一段落となってしまった。
とはいえ、クロガネの攻撃も二重魔術も通用しなかったんだ。あれ以上続けたところで、たいした成果は得られなかっただろう。
……まあ、"アレ"ならどうなっていたかわからないけど。身体強化の魔法以上に諸々上昇する"アレ"だ。
まあ自分でも発動条件がはっきりしないし、こんなところで試せるものでもないかな。
「おー、二人ともこっちへ来い。終わったぞー」
アルテミィミスさんは、見物していたシルフィ先輩とサテラン先生を呼んだ。
二人は黙ってこの対決を見守ってくれていた。いや、対決ですらなかったな。
これが、上級魔導士の……"七帝魔導士"の力、か。私も少しは強くなったと思っていたんだけど、まだまだだな。




