第1278話 自分の出せる力
「ゴォッ、ォオ……!」
自分の攻撃を、受け止める。そんな機会、なかなかないだろう。クロガネならなおさらだ。
クロガネの竜魔息は強力だ。魔術に匹敵するそれは、並のモンスターなら相手にはならない。
それを防がれるどころか、跳ね返されるなんて。そんな経験、果たしてクロガネの人生……いや竜生の中で、あったかどうか。
「グォ……ッドォオオォオ!」
それは一瞬の出来事だったかもしれない。でも、私にとってはとても長く感じた。
クロガネは勇ましい声を上げ、受け止めていた力を……上に流した。
まるでそれをぶん投げるように、上空へ。跳ね返ってきた竜魔息は、今度は天へと流されていった。
『ハァ、ハァ……』
「クロガネ、大丈夫!?」
『問題は、ない……』
「おぉ、すごいね。あれを流すとは。さすがに自分の攻撃だからか。
……けど、無傷とはいかなかったみたいだね」
上空を見るアルテミィミスさんは、ひゅうと口笛を吹いていた。
しかし、続く言葉は……どこか、不穏めいていて。
私も、確認する。竜魔息を受け止めていたクロガネの手は、その周辺に傷が残っていた。
「その黒い鱗は、並大抵の攻撃じゃ傷つかない。ただかっこいいだけじゃないね。
でも、自分の攻撃ともなるといくらか食らってしまうみたいね」
……もしかしてさっき、クロガネの足元を見たりスリスリしていたのは、鱗の強度を確かめるためだったのだろうか。そんな伏線回収あり?
それにしても、あの使い魔の蜘蛛……まさかクロガネの攻撃を防ぐどころか、跳ね返してくるなんて。小さいからって舐めてたわけじゃないけど……
正直、これまで見てきたどのモンスターよりも厄介だ。力押しではどうにもできない相手、みたいな感じだ。
「エラン・フィールド学生」
「!」
すると、アルテミィミスさんが話しかけてきた。肉弾戦を仕掛けていた方の私にだ。
その口調は柔らかで、穏やかな目をしていた。
「キミの力、もっと見せてほしい。まさか、この程度ではないだろう?」
「!」
……これは、小手先の攻撃なんかいらない。私自身の力を、見せろって言ってるのか。
そうか、そうだよね……ただ純粋に、今自分の出せる力を出せばいいんだよね。
私は、アルテミィミスさんから距離を取る。私とクロガネが居るのと、逆方向に。
分身した二人の私で、アルテミィミスさんを挟む形になる。そして、杖を構えて……息を整えた。
「爆炎で焼き尽くす豪火よ、天地をも焼焦す死火と成りて、すべてを灰燼と帰せ!」
「命の源よ、清らかなる水よ、天恵より与えられし大いなる水よ、其れは全てを呑み込みし千波となり、母なる海へと景色を変えろ!」
それぞれが、魔術詠唱を行う。その間、アルテミィミスさんはやはり妨害する様子はない。
分身魔法により二人に分かれた私の力は、本来の二分の一になっている。そのため、放つ魔法の威力ももちろん半分だ。
だけど、魔術は別だ。自分の魔力を使う魔法とは違い、大気中の魔力を使うのが魔術だからだ。大気中の魔力なのだから、自分の力が減少していようが関係ない。
「これが噂の、二重詠唱か」
どこでどんな噂を聞いているのかはわからないけど。あまり驚いた様子はない。
それとも、それを表に出していないだけだろうか。
……どっちでもいい。知ってようが知ってまいが、私は全力を尽くす!
詠唱が完了し、高ぶった魔力を練り上げ……準備は、できた!
「紅炎爆発!!!」
「大海水魔!!!」
放つのは、炎の魔術。そして、水の魔術。ゴルさんとの決闘でも使ったのと、同じものだ。
強力な炎が、水が、それぞれの杖から放たれる。
「普通、キミくらいの年なら魔術を一つ撃てればいい方……なのに、二つ。それも分身魔法と併用しての二重魔術なんて」
感心したように、あるいは楽しそうにアルテミィミスさんは言った。
余裕を見せてるけど、でもどうする。攻撃はしないと言っていた……いや、するとしても自分を挟むように放たれた魔術を防ぐ術なんて。
それに、さっきのクロガネの攻撃が魔術相当だとして……今回は、魔術二発だ! また蜘蛛の糸の盾で防ぐにしたって、さすがに二発分の威力は防げないだろう!
その前に、一方向だけ防いだって意味がない。
「すごいものを見せてくれるね。なら、私も……スティ」
アルテミィミスさんはその場で杖を掲げる。まっすぐと、天に向かって。
ただ、それだけではない。魔導の杖に、白い……蜘蛛の糸が、巻きついていく。先端部分を覆うように。
そして、まるで噴水のように糸が打ち上がり……それはやはり噴水のように、地面へと落ちていく。
そのままアルテミィミスさんを囲うように。ドーム状の……盾だろうか。
なるほどあれなら、一方向だけでなく全方向からの攻撃を防ぐことができる。でも、さすがにあんなもので……!
「!」
その時、私は気づいた。あの糸に、異様なまでの魔力が練り込まれていることに。
もしかして、あれ……使い魔のただの糸じゃなくて。使い魔と術者の力を組み合わせたものなんじゃ?
そう、考えを広げていく間もなく……私の撃った魔術は、二つともが同時に糸の盾に衝突した。




