第1277話 余裕が見える
「てい! たぁ! とぅ!」
拳を、蹴りを、連続で叩き込んでいく。身体強化で向上した力と速さ、そしてフェイントも駆使して繰り出す。
だけど、対するアルテミィミスさんは……手を動かし、手のひらで私の打撃を受け止めていく。連続の打撃を、連続の動きで。一歩も動かず。
私は、魔導はもちろんだけど体術の鍛錬も欠かしたことはない。魔導士は魔導だけでなく、身体が強くてこそ一流になれる。
そんな師匠の言葉を胸に刻んでいるからだ。それなりに、強い自信はある!
けど……
「うん、その年でこの動き……凄まじいね」
感心したように呟くアルテミィミスさんは、手で受け止める。それも涼しい顔で。
さすがに手のひらに魔力強化はしているようだけど……それでも、私の動きを見切り、対応してくるなんて。
今回、彼女は攻撃はしないと言っていた。でも、もしこれが普通に決闘だったら……
「でゃああ!」
拳に渾身の魔力を集中させ、放つ。それをアルテミィミスさんは、受け止めるのではなく……避けた。
「……!」
「容赦なく顔を狙ってくるとは。その気合いも充分。ただ……少し、動きが直線的すぎる」
まるで軽く飛ぶように、ぴょんぴょんとその場で跳ねて……私から距離を取った。
こっちは息が激しくなっているのに、向こうは平然としている。必死で攻撃を当てようとしても、全然入らない。
これだけでもわかる。今の私と"七帝魔導士"に、どれだけの力の差があるのかを。
「キミの魔導も見たいな。黒竜くんも、ガンガン放ってきていいよ」
……そのつもりはないんだろうけど、まるで煽っているみたいな言い方だ。どうにか、一泡吹かせてやりたい。
なら……
「分身魔法」
私は分身の魔法を使い、二人に分かれる。
分身とは視界を共有している。そして、分身の数だけ力も減少する。だから、数が増えればそれだけ視界の共有は多くなり力は減少してしまう。
ゴルさんとの決闘以来、私なりに分身魔法の訓練もした。でもこれは、普通の魔法と違って鍛えて強くなるとかじゃなく……慣れの問題だ。
そして、今の私が自在にパフォーマンスが発揮できるのは、せいぜい三人だ。それも短時間。それ以上は、やっぱり頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「へぇ、精度の高い分身魔法だ。分身が二人ならば、その力は二分の一へと減少する……でも、それを感じさせない圧力を感じるよ」
「それはどうも」
二人のうち一人は、アルテミィミスさんに突撃。もう一人は、後方から魔法を放ち援護する。
さっき、分身魔法を使う前の私が体術を駆使してもダメージ一つ与えられなかったんだ。分身して力が減っている状態ではなおさら無理だろう。
でも、近距離の肉弾戦と遠距離の魔法攻撃。二つを兼ね合わせれば、相手の隙をつくことができるかもしれない。
「でりゃああい!」
走り、助走をつけた状態での跳び蹴り。身体強化魔法をかけているとはいえ、力は減少している。簡単に受け止められてしまう。
でも、片手を塞いだだけでも、良しとしておこう。
後方から、もう一人の私が複数の魔力弾を放つ。もちろん私に当てないようにコントロールもバッチリだ。
ただ、アルテミィミスさんはその場で余裕を浮かべて立っているのみで。
「スティ」
とつぶやけば、使い魔の蜘蛛が動きを見せる。
先ほどのように糸を放ち、それが盾となって魔力弾を防いでしまうのだ。直前、アルテミィミスさんが「盾糸」とつぶやいていた。
クロガネの攻撃を防いだ糸だ、大きさが違うとはいえ魔法程度じゃびくともしない。
「くっ……クロガネ! 構わずやって!」
「ゴギャアアア!!」
私はアルテミィミスさんに乱打を浴びせつつ、クロガネに呼びかける。
直後、クロガネから放たれるのは竜魔息だ。魔力弾を防ぐために張っていた盾を、一瞬で消し去っていく。
このままならアルテミィミスさんに直撃する。つまり近くにいる私にも当たってしまう。
そうなってしまう前に離れよう……そう思った時だ。
「スティ、反糸」
直後に、蜘蛛から糸が放たれる。また先ほどと同じく、攻撃を防ぐのか。
広がった糸は、やはり大きく広がり盾のようになった。それに、強力な魔力がぶつかる。
しかし、先ほどとは違った光景が広がった。竜魔息を受け止めたかと思われた糸……けれど、それは受け止めてはいなかった。
その糸は、竜魔息を受け止めるほどに固いのは間違いない。でも、受け止めるだけじゃなくて……糸がまるで伸びるように動き、受け止めていた竜魔息を跳ね返したのだ。
「う、嘘ぉ!?」
竜魔息を受け止めただけでも驚いているのに、跳ね返してきた!? なんだそりゃ、そんなのあり!?
「というか、攻撃しないんじゃなかったの!?」
「これは防御の一つだし、言ってしまえば反撃だ。反撃しないとは言ってないよ」
それは、確かに……って、感心している場合じゃあないか!
跳ね返ってくるクロガネの攻撃。それは魔術相当の威力を持っている。
もちろん、撃ったクロガネ本人にとっては、自分の攻撃に対処することなんていくらでもできるかもしれないけど……
「グォ……ォオッ……!」
自分の攻撃が跳ね返ってきた事実に反応が遅れ……強力な魔力の塊を、クロガネはその手で受け止めた。




