第1274話 私の目標
会ってからと言うものの、実は気になっていた……"七帝魔導士"の一人であるビビアン・アルテミィミスさんの使い魔。
その正体は、蜘蛛。その名前をスティと言うらしい。
どれだけインパクトのあるモンスターが出てくるのかと思っていたけど、ある意味でインパクトのあるモンスターだった。
でも、一般的なモンスターだからこそ……特に特別な力を持つモンスターではなくても、使い魔がどんなモンスターであろうと関係なく強くなれる……っていうのが証明されて、いいよね。
「とっても仲が良いなぁ」
「ふふ、そう見えるかな?」
自らの指先に蜘蛛を走らせ、微笑ましく見つめている。
まあクレアちゃんが見たら、卒倒しそうな光景だけど。こういう虫苦手そうだもんなぁ。
それはそれとして、術者と使い魔……お互いの絆はとても強く見える。
いや、私とクロガネだって負けてないけど……でも、ちょっと羨ましくも見える。私とクロガネじゃ、体格差がありすぎてあんな触れ合いはできないもんなぁ。
……こうして見ていると、普通の女の人だ。とても、凄腕の魔導士には見えないけど。
「キミはキミで、面白い女の子だと思うけどね」
じっと、アルテミィミスさんに見つめられる。
まるで私のことを観察しているようだ。きれいな人からそんな風に見つめられると、さすがに照れる。
それはそれとして……この、胸の奥に湧き上がる気持ちはなんだろう。熱い気持ちが、胸の奥で燻っている。
「……」
私は、ツバを飲み込んだ。そして軽く息を吐いて、アルテミィミスさんを見つめた。
「あの、アルテミィ……」
「おい」
口を開く。彼女に言いたいことがあったから。
でも、その言葉が出てくることはなかった。シルフィ先輩に止められたからだ。
腕を掴まれ、じろりと睨まれてしまった。あからさまになにかを疑っているような顔だ。
「な、なんです?」
「お前、まさかアルテミィミス様と戦ってみたいとか言い出すんじゃないだろうな」
勘弁しろよマジで……という言葉が聞こえてきそうだ。
この人、本気で私が誰にでも噛み付く女だと思ってやがる……私ってば信用がないのかしら。
「ない」
心の中にまでツッコミを入れないでほしい。そしてとても鋭いじゃないか。
「どうしたの、さっきなにか言いかけたようだけど」
「いえ、こいつは……」
「先輩、私は別に先輩が心配しているようなことを言い出すつもりはないよ。
今のはただ、一流の魔導士になるためになにが大切なことなのかを聞こうとしただけだよ」
「……へえ?」
こうして、凄腕の魔導士と対面する機会なんてなかなかない。そりゃ、学園の先生だってすごい人ばかりだけど。
この人は、それらとはまた次元が違う人なのだ。
私の言葉が聞こえたアルテミィミスさんは小さくつぶやき、それから口端を釣り上げて笑顔を見せた。
ただ、純粋な笑顔というわけでもない。
「なにが大切か、か。そうだねぇ……
キミのように、向上心があるのが一番かな」
「……気持ちの問題、ってことですか?」
「気持ち、大切だよ? ただぼんやりと強くなりたいと思っているより、明確な目標があることで自分の中の原動力にも繋がる
エラン・フィールド学生は、なにか目標はあるのかい?」
……明確な目標、か。確かに、それがあるのとないのとじゃ自分のモチベーションにも大きく関わる。
ぼんやりしたものより、しっかりとした目標。それが、私にはあるのか。
そんなの……決まっている。これだけは、私の中で自信を持って言えることだ。
「師匠を、超えること」
昨日今日できた目標、ではない。この学園に来て……ううん、その前から私の中にあった、明確な目標。
師匠と一緒に暮らして、魔導を教えてもらって……私にとっての、明確な目標が師匠の存在だ。
その言葉に、アルテミィミスさんの目が少し見開かれた……気がした。
「……キミの師と言うのは、確か……」
「グレイシア・フィールドです」
私はグレイシア・フィールドの弟子だと名乗っているし、師匠を超える魔導士になるっていうのも、もはや学園では周知の事実だと思っている。
でも、学外ではどうだろう。私の噂がいろいろ広まってるらしいけど、師匠の弟子ってことはどこまで伝わっているのか。
アルテミィミスさんの反応からは、そこまではわからない。同じ家名だし、どこか察していたところはあるのかもしれない。
そして……
「……そうか、この世界で一番とされる魔導士を、超えるか」
くくく……と笑うその姿は、どこか楽しそうだった。
この世界で一番というのは、別に比喩でもなんでもない。全ての魔導士の頂点に立つ、ただ一人の存在……"魔導賢者"と呼ばれるそれこそが、師匠なのだから。
全ての魔導士の頂点に立つ、とはつまり……"七帝魔導士"よりも上ということ。
「あ」
ってことは、今私……アルテミィミスさんに向かって「私はあなたを超えます」って宣言したようなものなのか。
それに気づいたけど、時すでに遅しとはこのことだろう。
さりげなくシルフィ先輩とサテラン先生を見たつもりが、二人ともあからさまに視線を……いや顔をそらした。
二人とも、なんかフォローしてくれよ……いや、私のせいなんだけどさ。




