第1273話 見たい!
「はぁー……よかったわ、堪能した」
地面に寝そべり、両手を広げて満足そうな表情を浮かべているアルテミィミスさん。
本人も言っているように、実に堪能したらしい。満足してくれたならよかったけど。
最後のあたり、ただ見るだけに飽き足らず足に抱きついて鱗に頬擦りなんかもしてたからなぁ。
「こんな人だったんですね……」
「まあ……天才と変人は紙一重と言うしな」
一連の奇行を見ていたシルフィ先輩とサテラン先生は、散々な言いようである。聞こえないように配慮した声の大きさだけど。
「お疲れ様、クロガネ」
『あぁ……なにもしていないのに疲労を感じたのは初めてだ』
心なしか、クロガネもげんなりしているようだ。
クロガネにとって、初めての経験だったから……どう反応していいのかわからなかったのかもな。
すると、アルテミィミスさんは上体を起こした。
「ありがとうね、エラン・フィールド学生、黒竜くん。あ、黒竜はオスってことで合ってる?」
「う、うん」
まさかのくん付けとは。使い魔と契約し、術者が名前をつけることでそのモンスターの名前と成る。
けれど、使い魔の名前ってのはあんまり術者以外が呼ばないほうがいいらしい。なんでかはよくわかんないけど、契約した同士の特別な繋がりって感じだろう。
なので基本的に種族名で呼ぶんだけど、こんな呼ばれ方したの初めてだ。
「そう言えば、アルテミィミスさんも使い魔はいるんですよね」
ふと、気になった。私たちは、魔導学園の授業の一環として、使い魔召喚を教わるけど……魔導士の全員が全員、そうというわけではない。
まあアルテミィミスさんはこの学園の生徒ということなので、授業は受けているのだろうが。
「あぁ、居るよ。とびきりの相棒がね」
私が聞くと、アルテミィミスさんはにやりと笑った。
使い魔がいないと一流の魔導士になれない……ってわけじゃないだろうけど、やっぱり一流の魔導士の使い魔ってのがどんなのかは気になる。
それがよほど態度に出ていたのだろう。シルフィ先輩とサテラン先生からあきれたような雰囲気を感じる。
でもなにも言わないのは、止めても無駄だとわかっているのだろう。
それは正しい……だけど……
「二人とも、その態度はいただけないなー。いかにも、私のせいですみたいな。二人だって、アルテミィミスさんの使い魔興味あるくせに」
「それは……」
「……なくもない、が。確かに、アルテミィミス様ほどの人でも、使い魔まで有名というわけではないからな」
シルフィ先輩は言う。よほど使い魔と術者で活躍でもしていない限り、使い魔まで有名になることはないだろう。
なので、謎に包まれている。
「見たい?」
「見たい!」
即答。こういうのは勢いが大事だ。
学園じゃあ、使い魔を見る機会は多い。使い魔との絆を深めることも立派な訓練なので、みんな使い魔の世話をしたり話をしたり、また手合わせしてみたり。
なので、使い魔というものは珍しくない。でも、"七帝魔導士"の使い魔なんて見ようと思って見られるものじゃない!
「あんまり期待はしないでよ。エラン・フィールド学生の黒竜のように、ものすごいモンスターってわけじゃないんだから」
よいしょ、と立ち上がり、お尻を払いながらアルテミィミスさんは言う。
自分でハードルを上げないようにしているけど……そう言って、実はすごいモンスターが召喚されたりするパターンもあるんだよね。
クロガネのように珍しいものか、それとも伝説の生き物とか。さすがにヨルのように、人が召喚されることはないだろうけど。
「それじゃあ、行くよ。……おいで、スティ」
アルテミィミスさんはその場で、手のひらを広げる。そして、手のひらに魔法陣が出現したのだ。
青白く光り、魔法陣からモンスターが現れる。手のひらに乗るサイズ……ってことかな?
そして、魔法陣が消える……そこには、一体のモンスターが乗っていた。
これは……
「……蜘蛛?」
「そ。蜘蛛のスティだ、よろしくね」
じっと見つめると、手のひらに乗った蜘蛛がこっちを見返してくる。
普通の蜘蛛よりは大きいとはいえ、それでも小さいモンスターに変わりはない。よほど注意しないと見えないよな……
……あぁ、そうか。アルテミィミスさんの使い魔をみんな知らないのは、そもそも使い魔の姿が小さすぎて見えないからなんだ。
今だって、魔法陣から出てくるところを注意しないと、わからないくらいだし。
「なんていうか、普通……なんですね」
「言ったでしょ、期待しないで、って。別に自慢したいわけじゃないけど、がっかりされるとそれはそれでこっちもしょんぼりしちゃうから」
ニッ、と白い歯を見せて、アルテミィミスさんは笑う。
そう言うってことは、過去……使い魔を見せて、期待外れだとがっかりされた経験があるのかな。
まあ……期待外れ、って気持ちがないわけではないけど……
「特別なモンスターが使い魔じゃなくても、すごい魔導士になれるってことだよね! それってすごいことじゃん!」
「! ……やっぱりキミは、面白いね」
私は素直な感想を言ったつもりだ。なんか、意味深な笑顔が気になるけど。




