第1092話 これが私の使い魔
訓練場に居たはずが、いつの間にか周囲は見渡す限りの草原になっていた。
ここにいるのは、この空間を作り出したビビアン・アルテミィミスさん。そして、彼女を案内するため一緒にいた私、シルフィ先輩、サテラン先生だ。
まさか、景色を変えただけじゃない。別の空間に置き換えたと言っていた。
なんか、似たようなことが以前にもあったな。あれは、そう……エルフのウーラスト先生が尊敬している、ジルという人間のおじいちゃんが使っていたな。結界の中に、別の空間を作ると。
ウーラスト・ジル・フィールド。フィールドは師匠からだけど、ジルもまた人の名前を使っているのだ。
「やっぱあのおじいちゃん、すごかったんだ」
「ん?」
「いや、こっちの話」
エルフの先生が尊敬している相手だから、それだけでも実力の証明にはなっていた。
ただ、今はおじいちゃんのすごさを実感している場合ではない。
私に興味を持ってくれた、アルテミィミスさんに応えるのだ。ただしくは、私の使い魔に、だけど。
訓練場や、学園の敷地内でもクロガネを召喚するとちょっとした騒ぎになっちゃう。けれど、ここならその問題もない。
「じゃ、遠慮なく召喚しますよ」
「ぜひお願い」
「よし……あ」
魔導の杖を取り出し、使い魔を召喚するための魔力を練り上げる……ところで、ハッとする。
つい話を進めてしまったけど、先生的にはこれはアリなのだろうか。
そっと、先生を見た。
「そんな、「いいの?」みたいな顔をされても……アルテミィミス様が望まれたことなら、断る理由はない」
先生、本当は嫌そうだな。でも、"七帝魔導士"のお願いを断ることなんてできないよな。
シルフィ先輩も、同じ理由らしい。肩をすくめていたが、諦めている感じ。
ってことなんで……気にする必要はなし! そんじゃあ改めて……
「行くよ! みんな、離れてて!」
魔力を練り上げる。杖を振り、地面に魔法陣が展開される。
使い魔召喚のための、魔法陣。青白く光るそれから、迸る魔力。
そして、まるで地面の下から現れるように……魔法陣から、使い魔が出てくる。
「グルルル……」
それは、普通の大型モンスターよりもさらに大きなモンスター。いや、もはやモンスターというカテゴリーに当てはめて良いのかもわからない。
黒い鱗に巨大な翼を持つ、文字通りの黒竜。全身が黒く光ってて、とても綺麗だと思った。
私はこの子に、クロガネと名を付けた。
「……いつ見ても、迫力がすごいな」
ぼそっと呟くシルフィ先輩。正直、クロガネだけでも並の魔導士を倒せるだけの実力がある。
それに、使い魔契約を結ぶことで術者とモンスターの魔力は共有される。おかげで私は、クロガネの分だけさらに魔力アップすることが出来たのだ。
契約の利点は、もちろん他にもあるけど……
「おぉ……!」
高い声を出して目を輝かせるアルテミィミスさん。右から左から、あらゆる角度からクロガネを観察している。
ほとんどの場合、クロガネを初めて見た人は固まってその場から動けなくなるか、逃げ出してしまうのに……さすが、上級魔導士の中でも上澄みの人。
というか、この反応……
「アルテミィミスさんは、黒竜は見たことないの?」
「それはそうだよ。黒竜は、ベルザ王国どころかまずこの人大陸ですら生息しているかも謎なんだ。いくら私が"七帝魔導士"でも、簡単にお目にかかれるものじゃない」
ふむ、なるほど……まあ、すごい人だからってなにもかも知っているわけでもないしね。
なんだか、私としてはちょっと嬉しいかも。
「この黒竜とは、どこで……どんな経緯で、契約を?」
「えっと……出会ったのは、魔大陸で。そこで、ちょっとバトって、それから契約を」
「ひゃー!」
わぁ、懐かしいなぁ。ちょっとした事故で、別の大陸に飛ばされて……そこで、クロガネに出会ったんだ。
当時は、使い魔契約の存在こそ知っていたけどやり方は知らなかった。いずれ魔導学園で習うし、師匠もそのつもりだったから教えなかったのだ。
徒歩なら何日もかかっただろう道も、クロガネならすぐだ。飛んでしまえば人の足なんて遠く及ばない。
竜の生息地はよくわからないけど、飛べることで大陸横断できるほどに移動できる。一箇所に住んでいるのか、それともあちこち飛び回っているのか。
『……契約者よ、ずっと話を聞いていたが……この女、少し見過ぎではないか』
頭の中に、声が響く。それはクロガネのものだ。
使い魔契約をすることで、術者とモンスターの間には特別な絆が生まれる。術者は、使い魔の言葉をセリフとして、頭の中で聞くことができる。というか会話ができる。
それはクロガネも例外ではなく、こうして話しかけている。
それに、契約しているので使い魔には外の状況もわかっている。なので、今呼び出された理由もわかっているのだ。
「ご、ごめん。ちょっとの間辛抱して」
『むぅ……』
クロガネ自身、こんな視線向けられることに慣れてないだろうしなー。なんか、汗かいてるみたいな雰囲気がある。
その後、まさか数分にわたって……アルテミィミスさんの、クロガネ観察は続いた。




