第1089話 ボンキュッボン
たくさんの花火と共に現れたのは、"七帝魔導士"の一人であるビビアン・アルテミィミス。箒に乗って、空に浮いている女性だ。
その姿は、まさに……
「おぉ、魔女だ魔女!」
「お兄静かに!」
……あっちは盛り上がってるなぁ。
黒いローブに黒いとんがり帽子。そして箒で想像するのは、ヨルがめちゃくちゃ嬉しそうに魔女と呼ぶそれだ。
その人は、私の知ってる女の子とよく似ているけど……全然違う。あの人、すごくボンキュッボンだもん。
私、目がいいからちゃんと見えるんだもんね!
「お姉さんかな」
あの女の子のお姉さんというなら、説明はつく。見た目どころか格好まで同じなんて、よほどの仲良し姉妹なのだろう。
それと、あの人の名前って……確か、ノマちゃんが憧れているって人と同じ名前だ。
同じ"七帝魔導士"で同じ名前ってのはないだろうし、あの人が本人で間違いないだろう。
その本人を前に、ノマちゃんは……
「……!」
「な、泣いてる……」
見慣れたブロンドのドリルヘア。てっきりノマちゃんのことだから、本人を前にしたらわーきゃーとめちゃくちゃ騒ぐものだと思っていたけど……
ただ黙って、涙を流していた。それは、痛いとか悲しいとか、そんなのじゃなくて……感涙だ。見れば分かる。
あんなノマちゃん初めて見る……クラスの子もそうだろう。
それだけ、憧れの人と会えたのが嬉しいってことかな。
「あ、降りてくるぞ」
箒が地上へと降りていき、ある程度の位置でビビアン・アルテミィミスが飛び降りる。
その際、スリットの入ったスカート部分がふわりと舞い上がり、白い脚が見えた。なんて魅惑的な脚なんだ……ごくり。
彼女が降り立つと、周囲からは「おぉ」と歓声が上がる。
顔を上げた彼女は、にこりと微笑む。
「……泣きぼくろ?」
その左目に……泣きぼくろが見えた。
大人の女性、黒いローブに身を包んでもボンキュッボンなのがわかり、そして左目の泣きぼくろ……なんとも妖艶な雰囲気を出している。色気があるのだ。
でも、その泣きぼくろって……昨日会った子と、まったく同じ位置にあるような?
よく似た姉妹だからって、泣きぼくろの位置まで一緒なんてことがあるのだろうか?
「……改めて、本日は"七帝魔導士"であるビビアン・アルテミィミス様にお越しいただきました」
彼女を紹介するように、魔導学園校長である……ええと、ゼシリアス・マーマレンヒだっけ。が話す。
校長とか、あんまり見ないからなぁ……それでも名前を覚えていたのは、生徒会室に名前があったのを思い出したからだ。
それから、やたらと話があったけど……私たちの注意は、もはや校長にはなかった。
上級魔導士の中でも選りすぐりの七人。そのうちの一人が、今そこにいるのだ。興味が湧かないほうがおかしい。
それに、ナイスバディのお姉さん。男の子の中には、別の意味で目が離せない子もいるのだろう。
「……」
そんな中、生徒たちを見回す彼女と……気のせいだろうか、目が合ったような気がした。
それから、うっすらと微笑んだのだ。
「なあおい、今俺に笑いかけたぞ!」
「バカ俺だよ!」
「俺だっての!」
と、近くの男子生徒たちが騒ぎ出す。
その様子を見て、女子生徒はため息を漏らすばかり。
「バカねぇ、男子って」
「まったく」
それから校長の話が終わり、ビビアン・アルテミィミスが一歩前に出る。
わぁ、とっても綺麗な人だ。男子たちが釘付けになるのもわかるな。
正直、女として羨ましい……という気持ちすらわからない。ローブを纏っている、露出の少ない服なのにどうしてこうも刺激的に見えるのだろう。
いやぁ、見えないほうが逆に……って、そういうんじゃなくて!
「皆さんは一流の魔導士を目指す、いわば魔導士の卵。そんなあなたたちに少しでも力になることがあればと、私は今ここにいます」
透き通るような、美しい声。なんか聞いているだけでも気持ちいいな。
こんな声で耳元で囁いてもらいてぇ……
「これからしばらくの間、学園で皆さんに教えていくつもりですので、どうぞよろしくお願いします」
物腰丁寧な挨拶に、自然と拍手が起こる。
なんか、見惚れているのは男子生徒だけじゃないなぁ……教師たちの中にもちらほら。
そして、次は……
「それでは、生徒会長のシルフィドーラ・ドラミアス。副会長のエラン・フィールド、前へ来なさい」
「え」
突然名前を呼ばれ、きょとんとする。しかし、隣のクレアちゃんに脇腹を突かれ、生徒たちの間を割って前へ。
シルフィ先輩も表情には出していないが、驚いている様子だ。そりゃそうだ、なにも聞いていない。
「二人には、アルテミィミス様の学園案内を頼もうと思う。よろしいかね?」
よろしいかね、じゃないよ。断れるか! 断る気もないけど。
まあ、こういうことは生徒会の仕事だってのはわかるけど。マヒルちゃんやリーメイは加入したばっかだし、一年生は一年生だから呼ばれないのだろう。
……それにしても、近くで見るとますます似てるなぁ。これじゃああの子のお姉さんというより、まるであの子を成長させたかのような……
「よろしくね、シルフィドーラ・ドラミアスくん、エラン・フィールド学生」
「はい」
「はい……ん?」
なんだろう、今の呼び方。なんか引っかかるなぁ。




