第1087話 助けてもらった
「名前聞いとけばよかったなぁー」
「なんの話ですの?」
空が暗くなってきたため、部屋に帰った私は……先ほどの光景を思い出していた。
出会ったのは、まるで生徒に見えるけど、それは学園の教師だった。初めて見る人だったけど。
他愛もないことを話して別れたけど、せっかくだし名前を聞いておけばよかったなと……後になって思ったのだ。
「いや、さっき会ったロリバ……教師の、名前を聞かなかったことをちょっと後悔してて」
「教師ですの?」
「うん。すっごくかわいかったんだよ!」
「かわいい……」
この魔導学園には、教師と言えば大人っぽい人が多い。だから、かわいいというのはピンと来ないのだろう。
といっても、直接見れば私の言いたいことがわかると思う!
私はベッドの上に半身を投げ出した。
「あぁー、ふかふかぁ」
「お疲れのようですわね」
そっと隣に腰を落とすノマちゃんが、優しく頭を撫でてくれる。
な、なんて包容力があるのだろう……!
「ノマママァ……」
「その言い方やめてくださいません」
まあノマちゃんの言うように、疲れがない……とは言えない。最近いろいろあったからなぁ。
こうしてぐっすり眠っても、実は身体の疲れが取れていないなんてよくあることだ。
とはいえ、私がやりたくてやっていることなんだから! 全然不満なんてない。
ちなみにフィルちゃんは上のベッドですやすや寝ている。
「そういえば、聞きましたか? あのお話!」
若干テンションが上がったノマちゃんが言う。うきうきなのかわいいね。
「あの?」
「えぇ! "七帝魔導士"が学園に来る、というお話ですわ! そういう噂を聞きましたの!」
「……」
それを聞いて、私は口を閉じてしまう。だってそれはまだ、正式発表されていないものだからだ。
生徒会の中で、私とリーメイがシルフィ先輩から伝えられて……そ、そこから漏れたのか? まさかリーメイが話しちゃった?
それとも、先生たちが話しているのを誰かが聞いたとか。さすがに先生たちなら知ってるだろうし、それを……
「へ、へぇー、そうなんだー」
この場合、どう反応するのが正解なのかわからない。なので、知らぬふりをしてみる。
だって、これはまだ噂の段階だ。そこで、生徒会メンバーである私が肯定してしまえば、それはもうほぼ真実になっちゃう。
まあおんなじ理由で、リーメイが聞かれたら……あの子素直に答えちゃいそうだけど。
「そうですか。フィールドさん、七帝魔導士についてはご存知で?」
「うん、知ってるよ」
私はわりと無知で通ってるからな。知らないと思われたんだろう。もしくは知っていても忘れていると思われたか。
なので、ここは正直に答えておく。
「ノマちゃんは、七帝魔導士に憧れとかあるの?」
「もちのろんですわ! 魔導を扱う者として、目指すべき指標ですもの! むしろ当然というもの!」
どん、と胸を張り自信満々に答える。大きな胸を張られると、余計に主張されるみたいだ。
う、羨ましくなんかないよ……
それにしても、声大きいよ。フィルちゃん起きちゃわないかな。
「指標かぁ」
「そうですわ! フィールドさんがグレイシア様を目標としているように、わたくしも目標となるお方がいますもの!」
私にとっての師匠……か。ふむ、それならわかりやすいかもしれないな。
やっぱ、目標となる人が居るとやる気も断然変わるよねぇ。
ノマちゃんは目をキラキラさせている。なんか、ただの憧れ……ってのとは、ちょっと違う気もする。
まるで、実際に会ったことがあるかのような……
「ノマちゃん、もしかして目標にしてる人って……直接会ったことがあったりするの?」
知っているだけの相手、にしては……なんだか、一個人を指しているような気がする。
「まあ、さすがはフィールドさん、鋭いですわね。そうなんですの、わたくし幼い頃、七帝魔導士のお一人と会ったことがありますの」
ノマちゃんは、どこか誇らしげだ。
上級魔導士の中でも、選ばれた七人。そのうちの一人と、ノマちゃんは会ったことがあるのだと言う。
それって結構すごいことなのかな。有名人と会ったことがあるのをすごいと感じるのは、まあわかる。
「幼い日、両親と出かけた先で魔物の群れに襲われて……護衛も倒され、絶体絶命のその時! その方は颯爽と現れ、私たちを救ってくれたんですの!」
どこか芝居がかった仕草で、ノマちゃんは話す。とはいえ、この話がまったくの作り話というわけではない。
かなりピンチな過去だけど、そう感じさせないのはノマちゃんの喋り方のおかげだろう。
自分たちが危ないところを、救ってくれたのか。そりゃ、憧れちゃうよね。
「じゃあその人が、自分は七帝魔導士だって名乗ったの?」
「いえ、私たちを助けて無事を確認した後、倒れた護衛たちを回復してくれて……去ろうとしていたのですが、お名前だけでも教えてほしいとわたくしが迫ったのです」
なるほど。七帝魔導士っていうくらい有名なら、個人名も広まっているはずだ。自分からわざわざ七帝魔導士だって名乗らなくても、名前を聞けばわかる。
以降、ノマちゃんはその人に強い憧れを抱いたのだろう。
「あの凛としたお姿……黒い衣装の中に光る彼女の輝き、今でも忘れられませんわ!」
「そうなんだ……その人の名前って?」
うっとりした様子のノマちゃんに、聞く。
するとノマちゃんは、待ってましたとばかりに笑う。
「よぉく聞いてくださいませ! その方の名前は、ビビアン・アルテミィミス様ですわ!」




