第1086話 ロリババア
最近の放課後は、生徒会の活動か、お茶会か、カリュリアちゃんの訓練か……もちろんそれだけではないけど、大まかにはこんなところかなぁ。
たまになーんにもなくて、中庭に寝転がってのんびりすることもある。
それだけではない……
「すみません、私から頼んだことなのに……」
「いいよいいよ、用事があるなら仕方ないもん」
平謝りするカリュリアちゃんに、気にすることないと手を振る。
訓練の時間だったけど、カリュリアちゃんはこの後予定があるらしく……いつもより早めに切り上げて、帰っていったのだ。
そのため、暇になった私はこうして草の上に寝転がっているわけだ。遠くでは、騒がしい声が聞こえる。
いつもとは違って、校舎から少し離れたところだから……静かな時間を過ごすことができるな。はぁ、こういうのもいいな。
私は一人が好きというわけじゃない。むしろ、常に誰かと一緒にいるくらいだ。
でも、たまには……こうして、一人の時間も悪くないよね……
「おやや、先客のようじゃの」
ふと、声が聞こえた。かわいらしい女の子の声、それもどこか幼く聞こえる。
誰だろう。なんか、口調は先生みたいな感じだったけど……
私は起き上がり、声の方を見た。
「おやや、わざわざ起き上がらんでもよかったのに」
「……子供?」
そこには、生徒と思わしき女の子がいた。小さい。ただ、学生服は着ていない。真っ黒なコートを羽織っている。
それに、頭には黒のとんがり帽子。"いかにも"って感じの格好だ。
見た感じ私と同じくらいの年なんだけど、どこか貫禄を感じさせる。
桃色の髪は短く切り揃えていて、近所の元気な子供って感じの印象ではある。同じく桃色の瞳はキラキラ光っていて、とてもきれいだ。左目に泣きぼくろもある。
なんか黒ずくめの衣装なのがもったいないなぁ。
「ここ、座ってもいいかの?」
「地面だよ?」
「構わんよ」
隣に立つ彼女は、座っていいか聞いてくる。
別に私の私有地ってわけでもないのだし、好きにすればいい。
ゆっくりと腰を下ろし、彼女は帽子を取った。ピョコン、とアホ毛が立ち上がった。
「ふぅう、いい風じゃのー」
吹く風が、ふわりと髪をなびかせる。お手入れをしているのか、実にきれいな髪だ。
ノマちゃんが見たら、とても飛びつきそうでもある。
それにしてもこの子、何者だろう。生徒……って感じじゃないよな。制服じゃないし、なんか幼い感じなのに貫禄がある矛盾した感じだし。
「あの……あなたは? 教師?」
なので、聞いてみる。相手が年下だった場合、キミなんて言い方は失礼になっちゃうからね。
以前、初対面の男の子を年下だと思って接した結果、その人は実は先輩だったことがあった。小人族だから、小さく見えたのが原因だ。
なので、この人が学園の教師で、そういう種族だから幼く見えることもあるかもしれない。
この学園に一年居るけど、まだ知らない人だってたくさんいる。教師ならなおさらだ。
「んんー……ま、そのようなものじゃ」
なんかはっきりしないな……あぁ、もしかしてウーラスト先生みたいな、教育実習生とかかな。それなら、教師って言い切れないのもわかるし。
それなら、知らなくても無理はないと思う。
ただ、見た目が子供だから……生徒たちから舐められないか心配だ。
「それで、お主はここでなにをしておるんじゃ?」
……すげー訛ってるなぁ。
「んー、ちょっと訓練と言いますか」
「おやや、それは立派じゃのう」
パチパチパチ、と小さな音が鳴る。彼女が拍手をしているのだ。
訓練と言っても、私の訓練ではなく他の子の訓練に付き合っていたんだけど……まあいいか。
「そういうあなたは、ここでなにを?」
「わしは、ぶらりと散歩しとったんじゃよ。ちと、この学園を見ておきたくてのー」
……ふむ、学園を見ておきたい、と。もしかして、赴任してきたばかりの教師なのかな。
もしかして、そういう発表があるのかもしれない。もしくはあったのかもしれない。
もし私が聞いていないだけじゃないのなら、ここで彼女に会ったことは秘密にしておいたほうがいいかな。
「それにしても、学園はええのぅ。若者の血気盛んな声で溢れておる。元気をもらえるわい」
「なに言ってんですか。あなたも充分若いですよ」
ふへへ、この人が教師なら、今のうちにゴマをすっておこう……なんてね。
「おやや、おべっかが上手だのぅ」
……というか、お世辞でもないんだけどね。口調こそお年寄りみたいだけど、見た目は充分に若い。というか幼い。
これは……あれかな、噂に聞くロリババアってやつだろうか。
まあ本人に言うことじゃないので、やめておくけど。
「ここでのんびりするのも悪くないが、用事があってのぅ。ここいらで失礼するかの」
よいしょ、と立ち上がる。パンパンとお尻を払い、彼女は歩き出した。
案内しようかとも思ったけど、その足取りに迷いは見られない。
なんとなく、声をかけるのをためらっていると……彼女は足を止め、振り向いた。
「またの、エラン・フィールド学生」
うっすらと笑って、今度こそ言葉をあとにした。
私、名前言ったっけ……いや、この特徴だ。すぐにわかるのだろう。




