第1078話 ただ興味本位で
冒険者ギルド、というかギルドマスターへの報告も終わったことだし、私たちはこれでお役ごめんかな。
そう思っていたんだけど……ギルドマスターのザルドゥスは、私に意味深な目を向けてきた。
私を、グレイシア・フィールドの弟子だと知っている。まあ師匠は有名人だし、私も学園の内外関係なく知られているらしい。
だから、私が師匠の弟子……ってことを知られていること自体に、驚きはない。
けど……
「……そう、ですけど」
ギルドマスターの問いに、私はうなずいた。
確実に、妙な胸騒ぎがする。それがわかっていても、私が師匠の弟子であることにだけは嘘は付けない。
すると、ギルドマスターが笑みを深める。怖いよ。
師匠は、Sランクの冒険者って話だ。Sランクってのは数いる冒険者の中でも一番ランクが高く、それだけでも私の師匠すげーって自慢に思える。
ただ、今回の場合……それが、非常に面倒な方向に進みそうなのだ。
「ほほう。あのグレイシア・フィールドの弟子……それに、実際に魔獣を倒した実力の持ち主か……」
「いや、魔獣を倒したのは私だけの力じゃあ……」
あぁ、だめだ、聞いていない。ああいうタイプは、のめり込むと人の話を聞かないのだ。
それからぶつぶつとなにかを言っている。
「学園での噂は耳にしてたが……なるほど、こいつは掘り出し物かもしれん……」
なに言ってんのぉ。なんか怖いよぉ。
「あの、ギルドマスター」
「ん? おぉ、悪い悪い」
フェルニンさんが困ったように彼を呼ぶと、正気に戻ったようだ。ちゃんとこっちの声届いてるんじゃないか。
けれど、私を見る目は変わらない。
それから、私とフェルニンさんを何度か見比べて……
「よし。嬢ちゃん、そこのAランク冒険者フェルニンと、手合わせをしろ」
「……へ?」
「は?」
ギルドマスターは、なんの躊躇もなくそう言い放った。
その言葉に、私もフェルニンさんも気の抜けた声を出してしまう。きっとガルデさんも同じ気持ちだろう。
リーメイだけは隣で「オー」と言っているけど。そもそも話わかってるのかな?
「あの、それは、いったいどういう……」
冷静さを保ち、フェルニンさんが聞く。私も同じことを聞きたい。
いったいなにがどうして、私とフェルニンさんが手合わせって話になるのか。
そりゃあ、冒険者にして魔導士のフェルニンさんと、戦いたくないって言ったら嘘になるけど……って、そうじゃなくて!
「そうです、理由を聞かせてください」
なんでそんなことを言い出したのか、気になってしまう。
私も続くように、問いかけて……
「なんでって……期待のお嬢ちゃんとAランク冒険者の戦いを、見てみたいからだ」
……言い切った。言い切ったよこの人、見てみたいだけだって言っちゃったよ。
その言葉に、誰も言葉を発することが出来ない。
……ん? 期待の……ってどういう意味だ?
「あの……もしかして、私のことスカウト……冒険者に勧誘しようとしてます?」
「もちろんだ」
即答! そしてまた言い切ったよ!
「冒険者は、危険な仕事でなぁ。常に人材は不足している。強力な人材を欲しているところだ」
「その危険な仕事に、子供を巻き込むと?」
「だからこそ、お前と手合わせさせるんだ。Aランク冒険者と戦える人材なら、生き残る可能性もぐんと上がる。
それに、俺ぁ大人だガキだで分けるつもりはねぇ。大切なのは実力があるかないかだ」
む、無茶苦茶だ、言ってること……でも、わりと間違ってもいない。
危険な仕事だからこそ、実力があれば生き残る選択肢はぐっと広がる。そのため、私がフェルニンさんとどこまで戦えるかによって、それが指標になる。
ただ……
「あの、私別に冒険者になりたいとは思ってないんですけど……」
単純な話だ。私は冒険者になりたいわけではない。
私が冒険者になりたいって話から始まったのならともかく、そんなことは全然ない。この人が勝手に話を進めているだけだ。
「……冒険者に興味はないか?」
「興味は、ありますけど……」
ギルドマスターは、なぜか意外そうな表情を浮かべていた。
確かに冒険者に興味はある。ただ、興味があるのとそれになりたいかっていうのは別の話だ。
それに……
「今は、魔導学園で自分を磨くことしか考えてないので」
将来、もしかしたら冒険者になる道もあるかもしれない。
学園を卒業した人が、冒険者に……なんて話も聞いたことはある。
でも、今は……まだ二年生になったばかり。
なのに今から冒険者になりたいだなんて、そんなことは考えられない。
「お話は、ありがたいですけど……」
「そんじゃ、もっと単純な話。フェルニンと戦いたくないか?」
「戦いたいです。ぁ」
つ、つい……つい、即答しちゃった。
フェルニンったら、すごく複雑そうな表情を浮かべている。ご、ごめんよぉ。
でも、この気持ちも嘘じゃないわけで。私は別に、戦闘狂じゃないけど……それはそれとして、ね。
「俺も別に、無理やり嬢ちゃんを引き抜きたいわけじゃない。実力があってもやる気のない奴は、死ぬだけだからな。
ただ……俺も単純に、興味があってな」
強面な顔で、凶悪ににやりと笑って……私とフェルニンさんを、見比べていた。
冒険者になるかは置いといて、フェルニンさんとの手合わせって話なら……私も……




