第1071話 魔獣の魔石
魔獣の首元に、杖の先端を突き付ける。
もしもこれが人相手なら、これで決着……降参を勧めるところだ。
でも、相手は知性のない魔獣。その証拠に……
「グ、オァオオ……!」
呻き声を上げ、なにか行動を起こそうとする。
腕を動かす? 口から魔法を放つ? ……どっちでもいい。
そう、どっちでもいい。だって……
「さよなら」
自分の魔力を込め、生み出した風の刃で……放ったそれで、魔獣の首をぶった斬ったからだ。
「ッァ……!」
魔獣の声は、プツッと切れた。当然だ、声を発生させるための気管が、声を発生させるための部位と切り離されたのだから。
まるでボールが飛ぶように、首も飛ぶ。魔獣とはいえ、見た目だけは人に似ているのが質が悪い。
それは相応の重量を持っているため、すぐに落下し……ドンッと嫌な音を立てて地面に落ちた。
「……やった、か?」
ぽつりと、ガルデさんが呟いた。
ぶっちゃけそれはフラグなんだけど……そう言いたくなるのもわかる。なんせ、首を斬り落としたのだから。
相手は人ではない、魔物でもない。魔獣だ。知性のない、魔法を使う魔物……その生態は不明な点が多い。
だけど、それが生物である以上……首を落とされれば死ぬ。それは生き物としての証でもあると思う。さっき首が生えてきたけど、あれは口から生まれ出ていたし……
その証拠に……
「消えていく……」
フェルニンさんが呟く。その言葉通り、倒れた魔獣の身体が黒いもやとなって消えていくのだ。
魔物、魔獣は揃って、絶命するとその場から消滅する。だから解剖して生態を調べるとかは難しいのだ。
その代わり……と言っていいのかわからないけど、ちゃんと倒せたのかの判断はしやすい。
中には、死んだふりをしてこちらの隙を伺ってくる妙に賢いモンスターもいるから。
魔獣が消滅したことで、力がどっと抜け……その場に、座り込む。
「ふぅうー……」
「エラン!」
リーメイが心配した声で駆け寄ってくれる。ガルデさんとフェルニンさんも同様に。
揃って、みんな無事だ……魔獣を相手に、重傷者はなし。すごいや。
「すごいなエランちゃん、まさか魔獣を倒しちまうなんて!」
「いやあ、みんなの力があったからこそだよ……」
これは、本当にそうだ。魔獣を相手に、一人じゃこうはいかなかった。
今回こうもあっさりいったのは、手練れの冒険者が二人……そして水の魔法がすごくうまいリーメイがいたからだ。
それに……あの魔獣が、なぜか私に注視していたから隙ができていたのも大きい。あれのおかげで、魔獣に対して三人が自由に動けたもんな。
それにしても……
「変な魔獣だった……」
どっと息を吐く。あんな、ゾンビみたいな魔獣見たことないよ。
まあ魔獣なんて頻繁に見かける存在ではないから、探してみればそういうのもいるのかもしれないけど……少なくとも、魔大陸でも見たことのない個体だ。
とにもかくにも、勝てた。それが今は一番だ。
「さすがに、これ以上の探索は無理そうだな」
「そうだな。少し休憩したら、ダンジョンを出ましょうか」
「はーイ」
魔獣相手でも、魔術を使わずに勝てたのは良かった。魔獣を倒すために使って、みんなに被害が出ちゃったら大変だもんね。
少し休憩した私たちは、揃って一階層への階段を目指す。魔獣が残した魔石は、もちろん回収する。
魔物が落としたものより、一回り大きい。やっぱり、強ければそれだけ上質な魔石を落とすのか。
この件は、ギルドに報告するとのこと。
ダンジョンにどんな変化があったか、どんな生き物がいたか……特に目立ったものは、冒険者はギルドに話したほうがいいのだ。
道は覚えている。ゆっくりと、来るときと同じように……いや来るとき以上に警戒しながら、階段をのある場所へと戻った。
「よし。では、降りるときと同じように私が先頭を行く。ガルデは最後尾だ」
「わかってるよ」
フェルニンさんは、その一歩目を階段の段差に乗り上げる。それを確認して、私も一歩を踏み出そうとして……
……ポケットの中が、ざわついた。
「……!?」
とっさに私は、ポケットの中に仕舞っていた魔石を取り出し、投げ捨てる。
魔獣から回収した魔石だ。ガルデさんもフェルニンさんも、私が持っていていいと言ってくれたから持っていたのだ。
私の挙動に、三人の首が動く。魔石を投げ落とした音がダンジョン内に響いた。
「どうした、エランちゃん」
「いや……」
いきなり魔石を投げ捨てたことに、疑問を浮かべるのも当然だ。
私も、なんでそんなことをしたのか……と聞かれたら、うまく説明できる自信がない。
ただ……変だから。そうとしか言えない。
「……!?」
その時だ、魔石が光ったのは。それも、白く光ったわけではない……黒い光だ。それが魔石から出ている。
まばゆいとまでは言わないけど、光とわかるそれが。みんなの目は、吸い寄せられる。
そして……次なる変化は、誰もが言葉を失った。
「グォ、アォ……!」
「!?」
魔石の光がいっそう強くなり、かと思えば黒いもやが発生し……魔石を包み込む。
そして、もやが肉となり形を成して……声が聞こえた。唸り声が。
まるで魔石を核にするように……そこには、先ほど消滅したはずの魔獣と同じ姿の存在が立っていた。




