第1069話 異常な魔獣
これまで、ダンジョンで魔獣と遭遇することなんてなかった。
そりゃそうだ、ダンジョンに潜った経験自体少ないんだから。その中で魔物に遭遇しただけでも、実は珍しいことだったりするのかもしれない。
だから、ダンジョン内での魔獣の動きなんて初めて体感する。ダンジョンは魔力が外よりも濃いから、その影響で魔獣が活発化する……なんてのも、なくはない話だ。
「どっちにしても……」
「グルォオオオ!」
「わっ!」
「ちっ!」
人の姿をしていながら一回りは大きい魔獣は、吠える。力を込めたせいか、斬りつけていたガルデさんとフェルニンさんが弾き飛ばされる。
筋肉が膨れ上がり、その衝撃で弾き飛ばされたのだ。
ダンジョン内でパワーアップしているのかはわからない。ただ、今目の前にあることだけが真実だ。
元からにしろパワーアップにしろ、私たちは今……この強さの魔獣を相手にしているのだ。
「っ、どうする! 逃げるか!」
「そうしたいところだが……」
弾き飛ばされてもうまく着地した二人。ガルデさんはフェルニンさんに声をかけ、フェルニンさんはチラリと私たちを見た。
意図せず魔獣と遭遇した。勝てる見込みがないならば、逃げるのも一つの手だ。
それは、私たちがいるのが大きい。私のことを持ち上げてくれているとは言っても、やっぱり学園の生徒を巻き込むわけにはいかないのだろう。
私は別に、気にしないけど……ま、リーメイを巻き込むわけにはいかないよね。
ただ……
「せっかく楽しく、ダンジョン探索してたのに……」
さっき魔物に囲まれたとはいえ、冒険者と協力して倒すことができた。これなら、他の生徒でも充分対処できると思う。
だけど、魔獣じゃあそうはいかない。逃げるしかない。
せっかく、安全確認のためにダンジョンに潜ったのに。魔獣が出てきたとなったら、またギルドとの合同授業が遠のくじゃないか!
「アァアア……!」
魔獣は呻き、白濁の目は……なぜか、私を見ているように感じた。
そして、まるで四足歩行の獣のように……その場から飛ぶ。私に向かって。
「なに!」
「エランちゃん!」
ガルデさんたちも、まさか直接攻撃してきた自分たちを無視して私を襲ってくるとは思わなかったのだろう。
大きく飛び、そして走って迫ってくる魔獣に、私は構える。
けれど、魔獣の動きが途端に遅くなる。
「えーイ!」
「リーメイっ?」
リーメイが手をかざし、魔獣の足下を水浸しにしていた。その影響で、魔獣の動きが鈍ったのだ。
いきなり水が出てきたことで、転ばないように気をつけている。その隙があれば、充分だ!
「せいや!」
イメージするのは電気。私のやろうと思っていることがわかったのか、リーメイは水を操り……水を、魔獣の全身に浴びせる。
私は杖を構え、その先端から雷を撃ち出す。
狙いは魔獣……の足がついている水だ。それに、電気を浴びせる。
電気は水に浸かっている足から魔獣の身体を伝うように、全身を覆い尽くす。バリバリと、激しい雷が見える。
剣が効かなくても、全身水浸しからの電撃はどうだ!
「グォオオオ!?」
魔獣の絶叫は、ダンジョン内に響き渡る。思わず耳を塞ぎたくなる。
けれど、それに構わず魔獣の後ろからフェルニンさんが向かっていた。
電撃で痺れている魔獣に触れれば、自分も痺れてしまう。だから、フェルニンさんが使うのは剣ではなく魔法だ。
「くらえ!」
先ほどは剣に纏わせた火。それを斬撃として、魔獣へと放つ。
炎を纏わせて斬撃として放つのは、ダルマスもよくやっていることだ。魔導剣士でもそうじゃなくても、考えることは同じらしい。
痺れている魔獣に火の斬撃が当たる。水、雷、火……異なる属性の魔法が魔獣の身体を襲った。
「グゴ、ガ……」
魔獣は棒立ちとなり、若干黒焦げになっている。
先ほどは剣すらも通らなかった身体だけど、魔法は通用した……ってことだろうか? 棒立ちのまま、動かない。
打撃には強くても、魔法には弱い。ないとは言えないし、そういうタイプの魔獣もいるのかもしれない。
そんなことを思い始めたとき……
「グルルル……!」
魔獣から、まるで唸り声のようなものが聞こえる。体勢はそのままに、声だけが低く響いている。
そして、変化が訪れる……魔獣の口が大きく開いたかと思えば、そこからなにかが出てくるのだ。大きななにかが。
それは、顔……口から、顔が出てきたのだ。信じられないけど、見たままに言うしかない。
「な、なにあレ……」
リーメイも、引いている。口から出てきた顔は元々の顔とまったく同じもので、まるで古い顔を捨てるかのように……新しい顔が生えた。
そして、立ち止まっていた身体が動き出した。ゆっくりと、足を動かしていく。
な、なんだあれ……ホントに、なんだ!?
「ぐっ……!」
私は、魔法を放つ。火の玉をイメージし、それを何発も放つのだ。
魔獣は防御する様子もなく、放った火の玉は直撃する。何発も、無防備な身体に直撃する。
直撃した衝撃で、煙が上がる……けど、歩みは止まらない。煙の中から、ゆっくりと姿を現すのだ。
黒焦げの身体に、ピカピカの顔という異常な姿で。




