第1068話 ダンジョンの魔獣
ふいに、気配を感じる。先ほどまで感じていなかったけど……なんだろう、これは。
私たちは揃って足を止めた。気配に気づいたのは私だけではないようだ。冒険者の二人も、そしてリーメイも。
私たちは自然と、それぞれ顔を合わせた。そして小さくうなずき、ガルデさんが一歩前に出る。
「誰かいるのか?」
その気配に向かって、声をかける。
だけど、わかっている……その気配の状態が、人ではないことに。それでも、確定じゃない……だから確認のため声をかける。
しばらく待つけど、言葉は返ってこない。それどころか、不気味なほどの静けさが広がっている。
私たちは、全員警戒の姿勢を取る。周囲になにも見えなくても、だ。
「フェルニン……」
「わかっている。居るのはおそらく……魔獣だ」
ガルデさんに応え、フェルニンさんが言う。
魔獣……その単語に、私は驚きはしなかった。
だって、感じた気配は……魔物とよく似ていて。それに、これまでに何度か感じたことのあるものだったからだ。
魔獣は、魔物と似ているが……それとは比にならないくらい、とても重圧のある気配をしている。
静寂が辺りを包み込む……だけど……すぐに、足音が聞こえた。
ヒタ、ヒタ……という足音が。
「……?」
それはまるで、人の足の音。人が素足で歩いているときのような、そんな音だ。
そんなわけがないと、思い直す。今まで見てきた魔獣は、どれも獣のような姿をしていて……って、どれもってわけでもないか。
そんなことを考えながらも、視線は足音の方向へ。そしてついに、足音の主は姿を現す……
「……!?」
それは、不思議だった。魔石の光源のおかげで周囲は明るく見えているのに、まるでそこにいきなり現れたかのように出現したのだ。
だけど、驚いたのはそこだけではない。
現れたのは、人の姿によく似ていた。
だけど……
「ア、アァ……」
青黒い肌に、白濁の瞳。服は着ていないけど、生殖器のようなものは見当たらない。
人のようではあるけど、体毛もない。それどころか、普通の人間より一回りは大きいのだ。
身体はまるで腐っているよう。間違いなく人でないんだけど……この姿はまるで……
「ぞ、ゾンビみたい……」
今まで見てきた魔獣とは違った姿だ。
今までのものは、どこか怖さが勝っていた。でもこいつは、ただただ気持ち悪い……
「なんだ、こいつ……」
「こんなの、初めて見るぞ」
ガルデさんもフェルニンさんも、現れた異形に困惑している。
剣を引き抜き、構える。私もリーメイも魔導の杖を抜いて、構える。
あいつが魔獣なのは間違いないんだけど……ただの魔獣じゃあ、ないのかもしれない。
「……!」
と、まばたきをした一瞬だった。そこにいた魔獣は姿を消していた。
私はとっさに、みんなに浮遊魔法をかけて……その場から飛び退いた。
「わッ……」
いきなり身体が浮かんで驚くのはわかるけど、悪いけど説明している暇はない。
だって……
「グォオ!」
振り下ろされた拳が、私たちがさっきまで居た場所に激突していたからだ。
拳は地面を陥没させ、周囲にヒビを入れる。あんなの、まともに食らったらケガじゃ済まない。
うまく着地し、神経を研ぎ澄ませる。
まるで消えたように見えるくらい、速い。ゾンビってノロノロ動くのがセオリーじゃなかったの?
それとも、これは足で移動したと言うよりも、もっと別の……?
「ガルデ、魔獣と戦った経験は?」
「あるが……そりゃ冒険者の仲間とパーティー組んでようやく倒せた、ってところだ」
「そうか。私も似たようなものだ」
やっぱり、冒険者をやっていても魔獣と戦う経験はあるようだけど……ソロで倒したって経験は、Aランクの冒険者でもないらしい。
私だって、魔獣を行動不能にしたことがあるとは言え……ルリーちゃんとサテラン先生の援護あってこそだった。
ってか、あの時のことよく覚えてるなぁ。やっぱ学園で初めて遭遇した魔獣だからかな。普通学園で魔獣に遭遇することなんてないしね。
とはいえ、あの時トドメとなったのは魔術。ダンジョンで魔術の使用は控えたほうがいいからなぁ。
とはいえ……
「来ル!」
リーメイが叫び、魔獣が咆哮する。そして、叫びながら走って迫ってくる。
さっきみたいに、消えるように移動はしないみたいだ。それならそれで、落ち着いて対処できる!
私は魔力防壁を張り、拳を受け止める。ドシンッ……と重々しい音がなる。てか、実際に重……!
けれど……
「はぁあああ!」
「どぉおおお!」
防壁を展開し、魔獣の拳を受け止めたのと同時……ガルデさんとフェルニンさんは左右に跳んでいた。
そして魔獣の左右から同時に、剣で斬りかかる。先ほど魔物にやったのと同じ攻撃だ。さらにフェルニンさんは、火の剣だ。
急所を狙った一撃が、魔獣に炸裂して……
「っ!」
「硬っ……!」
ギィンッ……と鈍い音が響く。それは二人の剣が突き刺さったことを意味していた。
けれど、先ほどと同じように肉を斬り裂くことはできず。音を立てたはいいけど、そのまま止まってしまった。
元々魔獣は硬いけど……なんか、こいつ……
「グォオオオ!」
攻撃を受けながらも力を入れ、魔力防壁にヒビを入れる。おいおい、刃物食い込んでるのに……!
もしかして魔獣って……ダンジョン内だと、外よりもなんか諸々のステータス上昇するんじゃないのか!?




