第1063話 下へ参ります
ダンジョン、その二階層に続く階段。
目の前には、地面にポッカリと、穴のようなものが空いている。それは下へと続く階段だ。下は、暗くて先が見えない。
これが、ダンジョンの……まだ見たことがない姿か。
「ここが、二階層の入り口だ。二階層にまでなら降りてもいいとはいえ、無理はしなくてもいいんだぜ?」
穴を覗き込む私に、ガルデさんが聞いてくる。
それは、単純に心配から来るものだ。
私にとって初めてのことだ、心配してくれるのは当然なのかもしれない。その心配がありがたい。
でも……
「ううん、大丈夫。私は平気だよ」
「リーもー!」
私は平気。その言葉の後に、リーメイに視線を向けた。
するとそれを理解したリーメイはにっこりと笑い、うんと腕を上げた。たはは、本当にわかっているんだか。
ともあれ、気合いは充分。ガルデさんもフェルニンさんも、それはわかってくれたようだ。
「先頭は私が行く。続いてエランちゃん、リーメイちゃん……最後尾はガルデだ」
「了解」
「オー」
「わかった」
まずはAランクの冒険者であるフェルニンさんが先頭。学園生徒の私とリーメイを挟むようにして、最後尾はBランク冒険者のガルデさんが歩く。
二人並んで歩く幅のない狭い通路の中では、前後に気をつければいい。そのため、場馴れしている二人に前後を任せる。
フェルニンさんは魔導の杖を取り出し、魔法で明かりをつける。やっぱり冒険者で魔導士ってかっこいいなぁ。
私が明かりをつけようかとも提案したけど、先頭だからこそ明かりは自分がつけたほうがいいらしい。
……慎重に階段を降りる。壁伝いに歩けば、転び落ちてしまうことはないだろう。
「わー、なんだか冷たいねェ」
リーメイの言うように、確かにちょっと肌寒い気がする。
石造りのダンジョンで、地下に潜っているからだろうか。コツコツと靴音が響く。
「この通路、モンスターや魔物が通ることはないの?」
ふと、気になったことを聞く。
ダンジョンではモンスターが自然発生するだとか、モンスターは魔石を食べると魔物になるとか……下の階層には、それらが闊歩している。
それが、こういう通路を通って上の階層に行くことがあるんじゃないのか。もしかして、本来居ないはずの一階層に魔物が居たのは、下の階層から上ってきたからじゃないのか。
そう思った。
「どういう理屈かはわからないが、モンスターや魔物は生まれ落ちたその階層から移動することはないんだ。
階層を上ることも、下ることもしない」
けれど、ガルデさんが答えてくれる。私の疑問は、あっさりと解消された。
根本的なことはわからないとはいえ、冒険者のガルデさんが言うなら間違いないだろう。そうか、モンスターや魔物は階層を移動しないのか。
ま、そんなことができるなら……以前一階層に現れた魔物に、ガルデさんたちが驚くこともないか。
「……」
あと、思った。モンスターは魔石を好み魔石を食べる。すると当然、魔石の数は減る。
魔石はダンジョン内で自然発生するとはいえ、頻度だって多くはないだろう。
ってことは、私が思ってるよりも魔石採取って簡単じゃないんだな。
本当に、モンスターや魔物の居ない一階層にあんなに魔石があったこのダンジョンが、特別なんだ。
そんなことを考え、暗闇を紛らわせるために会話して……そして、しばらく歩くと……
「……着いたようだ」
前を歩いていたフェルニンさんが、言う。
階段を終え、平面に降り立ったようだ。私たちに気をつけるように言い、周囲を見る。
私も、周囲を見た。
「おぉ……」
見た感じ、一階層目とあまり変わらない。洞窟の中なんだから、わかりやすい変化はないんだろうけど。
それでも、周囲を照らす魔石の明かりは、一階層より強い気がする。おかげで魔法で明るくしなくても良い。
リーメイ、ガルデさんも降り立った。
「ひっさしぶりだなぁ、ここに来るのも」
「ガルデさんは、来たことあるんだ」
「ずいぶん前にな。あの日の異変を見たのは俺たちだから、調査のためにもはじめのうちはしょっちゅうな」
あの日……私たちとダンジョンに潜った日か。
ガルデさんやヒーダさん、ケルさんも一緒だった。ということで、三人はちょいちょい呼ばれていたようだ。
なんせ、あの異変を見た数少ない冒険者だったのだから。
「……出来たばかりのダンジョンに、"魔死者"がいて……居るはずのない一階層目に魔物がいて……」
……"魔死者"は、人間が体内に魔石を取り込んでしまったことで発生する。そのほとんどは、死に至る。
魔石のたくさんあるこのダンジョンなら、そんなことが起こっても不思議ではない。もちろん、自分から魔石を食べようなんて人はいないだろうけど。
なんで、出現して間もないダンジョンに人が足を踏み入れられたのか。あの魔物は、いったいなんだったのか。
原因は、結局わかっていない。
「ここからは、モンスターや魔物が出てきてもおかしくはない。気をつけるように」
フェルニンさんの言葉に、私たちはうなずいた。
これまで、魔導学園の中でほとんど活動してきた。たまにこうして、ダンジョンにも入らせてもらうことや、国の外に出ることはあったけど。
なんだか、不思議な気分。背中がゾワゾワするような、血が冷たくなるような……そんな感覚がある。




