第1056話 目立つ女はつらいぜ
さて、食堂に来て一緒にご飯を食べているわけだけど……
「なんだか視線を感じる……」
一つの席で、四人一緒に食べている。
いつものように優雅な時間を過ごしたいところだけど、なんだか視線を感じるのだ。これは、気のせいではないだろう。
「や、やっぱり私ですかね」
そう言って、パンをチビチビ食べているカリュリアちゃんは視線の原因が自分にあるのだろうと縮こまる。
金髪に白い肌、尖った耳……緑色の瞳は前髪で隠せても、他の特徴は隠せない。
この国にはエルフは、学園にいるラッへとウーラスト先生を除けば居ない。だから、物珍しいゆえに注目を浴びるのだ。
そしてそのほとんどが、学園に入学したばかりの一年生からのもの。
「大丈夫だって、悪意を持った視線は感じないし。珍しいから見ているだけだよ」
「そうよ。それに、視線の原因の半分はエランちゃんにあるわけだし」
「そうそう、原因の半分は私に……え?」
気にしないようにフォローするクレアちゃんの言葉に、私は思わず声を出した。
そんな私の様子を気にした様子は無く、クレアちゃんは食事を続けていく。
「私のせいなの!?」
「そりゃ、エルフと黒髪黒目の女が一緒にいたら目立つでしょ」
「目立つ目立つー!」
淡々と言うクレアちゃん、そしてそれを真似して楽しそうに笑うフィルちゃん。
その指摘に、私はハッとした。言われてみれば、視線を浴びているのは……カリュリアちゃんだけではなく、むしろ私にも突き刺さるものがある。
エルフと同じく……いやそれ以上に、黒髪黒目の人間は目立つ。
目立つ存在の二人が一緒にいれば、そりゃ倍掛けで目立ってしまうわけだ。
どこか懐かしい感じがするなー、と思ってたんだよ。入学したばかりの私が、まさにこんな視線を浴びせられていたっけ。
「今度は下級生から……か」
同級生や上級生は、もうある程度慣れているだろう。でも入学したばかりの一年生は、そうはいかない。
そのためか。物珍しい私を、ついつい見ちゃうんだ。
「目立つ女はつらい……ね」
「相変わらず太い神経してるわね」
まあ私はもう、この視線に慣れちゃったところはあるからね。
毎日のように視線にさらされていれば、いずれ慣れてくるものさ。それに、この見た目はどうしようもないんだし。
それよりも……
「ごめんねカリュリアちゃん、原因の半分は私みたいで」
気にしてしまうのは、カリュリアちゃんだ。私のせいで、余計に視線を浴びてしまっているのなら……それは申し訳ない。
「い、いえ、そんなことは……」
「なんなら、私は別のところに移るけど……」
「だ、大丈夫です! ここにいてください!」
力強く言われた。そこまで言うなら、離れてしまうのは逆によろしくない。
なので、この席に座ったままにする。
パクリ、と食事を続ける。
「ところで、魔力の扱い方がうまくいかない……そう聞いたけど?」
クレアちゃんが問いかける。
ぶっきらぼうな態度に見えるけど、実は相手のことを気遣うタイプなのだ。優しいのだ。
その問いに、カリュリアちゃんは小さくうなずく。
「エルフなんですけど、魔力の扱い方が下手で……」
「でも、この学園に入学できたってことは、まったくのダメダメってわけじゃあないんでしょ?」
「それは、はい。一応……人並みには使えるかと」
私も気になっていたことだ。魔導学園には、ちゃんと入学の基準がある。
実技試験に筆記試験。そのどちらも、基準を満たせば入学することができる。
入学できた以上、致命的なまでに使えない、なんてことはないはずだ。
「ただ、やっぱり……エルフとしては、全然ダメで……」
「それは、どうしてそんな風に思うの?」
「以前暮らしていた村で、私以外は……みんな、魔力の扱い方がうまかったので」
なるほど……暮らしていた場所で、か。
人ってのは、周りの環境によっていろいろなことが左右される。考え方だってそうだ。
周りができる人ばかりの中、自分だけうまくいかない。そんな環境にいれば、自分を必要以上に追い込んでしまうのだ。
「今日……は、もう時間がないけど。明日にでも見せてもらってもいい?」
「! いいんですか?」
「もちろん」
元々、相談された身だ。私じゃわからないこともあるだろうけど、今どんな具合なのか見るくらいならできる。
そのために……うーん、ラッへとか呼んどいてみようかな。記憶喪失とはいえ、なにかアドバイスできることがあるかもしれない。
カリュリアちゃんは嬉しそうに、パンを頬張っている。かわいいのぉ。
今日は……一応シルフィ先輩に、生徒会の新メンバーについて報告に行かなきゃいけないけど。
「なにか、他にも困ったことがあったら言ってね。相談に乗るから」
「はい!」
嬉しそうに笑っている。やっぱり女の子の笑顔はかわいいなぁ。
周りの視線にもある程度慣れたのか、それとも私たちとの会話で気にならなくなっていたのか。持っていたパンを完食し、水を飲んでいる。
私たちもそれぞれ完食し、お腹を擦る。はぁー、お腹いっぱい。満足満足だよ。
「それじゃ、明日……迎えに行くから、教室で待ってもらってていい? ちょっと遅れるかもだけど」
「いえ、そんな悪いです。私が……」
……お互いに相手のことを考えながら、明日の約束を取り付ける。




