第1055話 疑いのエルフ
「……た、助かりました。ありがとうございました」
上半身を茂みに突っ込んでいたカリュリアちゃんを解放した。
その手に、落としてしまったパンを持ち……しゅんとうなだれている。
その頬は、ちょっと赤い。
「気にしないでよー。あんな風になっちゃって恥ずかしいのはわかるけど、恥ずかしがらなくていいからさ」
「多分顔赤くしてるのは、さっきお尻触られたからだと思うけどね」
「やわらかかったー」
両手をにぎにぎしながら、フィルちゃんは満足そうだ。この子、遠慮というものを知らない。子供だし仕方ないけど。
それに、気持ちは……わからなくもないけど。
カリュリアちゃんは、指摘されたことが恥ずかしいのか、スカートを引っ張り脚を隠そうとしている。
ただ、その仕草がグッと来てしまうので、ぶっちゃけ逆効果だ。
「それで……この子が、例のエルフの一年生ね」
「!」
クレアちゃんは、カリュリアちゃんをじっと見つめた。
目を細め、じぃーっと見ているのだけど……
「クレアちゃん、そんな睨みつけたら怖がらせちゃうよ」
「睨みつけてないわよ、失礼ね!」
ガルルル……と唸るクレアちゃん。
その様子を、ぽかんとした様子でカリュリアちゃんは見ていた。
「あ、ごめんね。……どうかした?」
「え……あ、なんでもないです」
さっと顔をそらしたカリュリアちゃんは、ぎゅっとパンを掴んでいる。
はて、どうかしたのだろうか?
なんか、クレアちゃんをあからさまに注意しているような気がする。
「クレア・アティーアよ、よろしく」
「! か、カリュリアです……よろしくお願いします」
一歩近寄り、手を差し出すクレアちゃん。カリュリアちゃんはそれに応え、ぎゅっと手を握った。
うんうん、友達と友達が仲良くなるのって、なんだか嬉しいよね。
こうして友達の輪が広がっていくんだって思うと、なんだかニヤニヤしちゃうよ。
「あの、先輩方は……これから食堂、ですか?」
「うん。お腹ペコペコでねー」
お腹を擦る。今のやり取りで、食堂に向かう時間が遅くなってしまった。
だからといって、別にカリュリアちゃんを責めようってわけじゃない。困ったときはお互い様だ。
「で、でしたら、私はこのあたりで失礼して……」
口早に行って、カリュリアちゃんはこの場から去ろうとしているようだった。
あれ、これもしかしてお別れパターン?
いやいや……せっかく会ったんだ、そんなもったいないことはできないよ。
「ねえ、なんなら私たちと一緒に食べようよ」
「え?」
私の提案に、カリュリアちゃんの動きがピタッと止まる。
それは、まさに予想外……というものだ。私がこんなことを言うなんて、考えもしなかったのだろうか?
オロオロしながら、私たちの顔色を伺っているように感じる。
「えっと、その……い、いいんでしょうか?」
まるでぐるぐる目だ。ひどく緊張しているのがわかる。私から提案したのに、わざわざこんなことを聞いてくるなんて。
良くなければ、私から言わないって。
それに、別に購買で買った物を食堂で食べてはいけない……なんて決まりはないのだ。
「全然問題ないよ!」
「ですが……お、お二人にもご迷惑では……?」
「私は別に、構わないわよ?」
「私もー!」
本人の不安を払拭するようにクレアちゃん、フィルちゃんが答える。
あー……さっきカリュリアちゃんが聞いてきたのは、『食堂で購買のパンを食べてもいいのか』という疑問じゃなくて、『私たちと一緒に食べていいのか』というものだったのか。
本当に、自信のない子なんだから。
「ほら、二人ともこう言っているから。行こ!」
「……はい!」
カリュリアちゃんの手を取り、食堂へと歩き出す。
さっきのやり取りで時間が経っていたからか、周りには生徒が集まりだしている。
食堂へ向かい歩いていくと、カリュリアちゃんがそっと顔を寄せてくる。
「あの、先輩」
「なにかな?」
「その……アティーア先輩って、エルフ族と深い関わりがあったり、しますか?」
探るように、チラチラとクレアちゃんを見ている。
そのクレアちゃんはというと、フィルちゃんの相手をしているから気づいていないようだけど。
それにしても、エルフ族と深い関係なんて……なんでそんなことを……?
「……ぁ」
「ど、どうかしました?」
そこで私は、思う。クレアちゃんは、一度死んだ身……それを、ダークエルフの闇の魔術で生き返ったのだ。
そのため、エルフ族……ダークエルフと深い関わりがあると言ってもいい。
そのことだろうか。それも、エルフにとってダークエルフは許せない存在のはずだ。
ダークエルフそのものじゃなくても、ダークエルフの魔術に関わっていると知れたらどう思われるか。
「ま、まあ、クレアちゃんもラッへやウーラスト先生と仲良くしてるし……関わりがあると言えば、あるかな」
「……そうですか」
本人は納得しきっていないけど、とりあえずこの方向でごまかすしかない。
まあ相手がエルフだとか関係なく、明かすことのできない秘密なんだけど。
エルフには、勘付かれてしまうのかもしれない……気をつけないとな。
クレアちゃんにも、注意するように言っておこう。
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