第1054話 頭隠して尻隠さず
「ふぃー、身体動かしたぁー」
結局あの後、他のクラスメイトともいくらか手合わせをして、授業を終えた。
結構魔力を使ったので、お腹ペコペコだ。
そんなわけで、私たちは今食堂に向かっている。
「一人であれだけの数よく相手にできるわね」
「ママすごーい!」
クレアちゃんが呆れたように言い、フィルちゃんが嬉しそうに笑う。
まあ、確かに……軽く手合わせするって言っても、魔力を使うんだ。疲れないはずがない。
それが複数人相手ともなれば、なおさらだ。
「いや、私だって疲れてるんだよ? 魔力も消費しちゃったし……ほら、ぐーぐーってお腹鳴ってる」
「人に聞かせるものじゃないでしょう、それ」
魔力を使えばお腹が減る。ご飯を食べるのは、魔力を回復させる以外にも単純にお腹が空いたからっていうのがある。
魔力は、まあ血液みたいなものだね。一気に抜けると気分が悪くなっちゃうし、空腹にもなる。
ただ、魔力の場合は慣れで多少は克服できるけど。
なんにせよ、いっぱい食べるぞー!
「あ、おしりだ!」
そんなことを思っていると、フィルちゃんが聞き捨てならない言葉を叫んだ。
そして、ビシッとある一方向を指さすのだ。
「こらフィルちゃん、そんな言い方下品で……お尻だ」
フィルちゃんを注意しつつ、指さした方向に首を動かすと……そこには、フィルちゃんの言った通りの光景があった。
ここは、外にある渡り廊下。校舎と校舎を繋ぐ廊下から見える景色の中に、なんせお尻があるのだ。
草むらから、お尻が生えている……だと!?
「! そ、そこに誰かいるんですか!?」
「おしりがしゃべった!」
私たちの気配に気づいたのか、お尻が動く。
スカートを履いたままふりふりと動くもんだから、見えそうで危ない。ここに男の子がいなくてよかった。
「いや、お尻がしゃべったというか……誰かがそこに上半身突っ込んでるだけでしょ」
「なるほどー」
クレアちゃんの冷静な分析。感心するフィルちゃん。
しかし、なにを思ってそこに上半身を突っ込もうと思ったのか……いや、なにも言うまい。
人には人の趣味が……いや、事情というものがあるのだから。
「それじゃ、私たち食堂行くんで……」
「待ってください! なんだか変な結論つけて去ろうとしないでください!」
黙ってここから去るのもなんだし、それとなく言ってから去ろうと思っていたんだけど……止められてしまった。
「いや、私たち別に、あなたの邪魔をしようとしてるんじゃないんだ。するつもりもない」
「あのっ、なんだか変な誤解してますよね!? 私が好きでこんな格好をしているとでも!?」
「違うの?」
「違います!」
そんなにお尻動かすと見えちゃうよ。ほら、スカートがひらひら揺れるもんだから、フィルちゃんがそれに誘われて近づいていっちゃった。猫かな。
さて、好きでそんなことをしているわけじゃない、と。ならばどうして、こんなことになっているのか。
というか、どこかで聞いた声だな。
「あなた、なにをしてるの?」
このままでは話が進まないと思ったのか、クレアちゃんが聞いた。
「たいしたことでは、ないんですけど……購買で買ったパンが、奥の方に落ちてしまって。それを取ろうとしたら……」
「こうなった、と」
「はい、そうなん……ひゃうん!?」
原因はわかった。確かにお昼の生命線が落ちてしまったら、どんなことをしても拾おうとするだろう。
その結果、こんな姿をさらすことになってしまった。頭隠して尻隠さずってね。
今は昼休憩になったばかり、遠くないうちに人が通るだろう。
私たちみたいな女の子だけならともかく、男の子に見られるのは恥ずかしすぎる。
今フィルちゃんがやっているみたいに、お尻掴んじゃうかもしれないし……
「って、なにやってんのフィルちゃん!?」
「やわらかぁーい」
「ぅひゃっ、ゃん!」
スカート越しではあるけど、しっかり鷲掴みにしている。
もちろん、フィルちゃんに下心はない。純粋な興味心だけだ。だからこそたちが悪い。
「あ、あの、誰が私の、おし、おっ……」
「心配しないで、触ってるのは女の子だから」
「女の子同士でも犯罪にはなるのよ?」
誰かわからない相手にお尻を触られるなんて、恐怖だ。だから私は、同じ女の子であることを伝える。
少しでも安心してくれればいいんだけど。
「ちょっ、やめっ……と、というか、さっきフィルちゃんって言いました!? じゃあ、そこにいるのはフィールド先輩!?」
「へ?」
お尻を揉まれている少女は、フィルちゃんの名前を聞いて……そこから、私のことを呼んだ。
まさか呼ばれると思っていなかったので、驚く。というか、先輩って言った?
……もしかして、この子……
「カリュリアちゃん?」
「は、はい……」
名前を呼ぶと、彼女は……しゅんとした様子で、うなずいた。まあ顔は見えないんだけど。
一年生のエルフ、カリュリアちゃん。まさか、こんなところで会うなんて……
知り合いにこんな姿を見られるなんて……私なら、顔を合わせることなんてできない。
……あ、これが頭隠して尻隠さず……ってね!
「は、早く助けてくださーい!」
そんな中、カリュリアちゃんの切実な叫び声がこの場に響いた。




