第1051話 無詠唱魔術が撃ちたいな
無詠唱魔術というのは、憧れだ。
魔術を使うには詠唱が必要。精霊の力を借りる以上、必要な手順を踏むのは絶対のことだ。
だけど、中には……無詠唱で魔術を使うことのできる人がいる。
無詠唱で魔術を使えるなんて、実力もそうだがそれ以上によほど精霊との相性が良くなくては使えない。
精霊さんと仲が良いって自負してる私だって、無詠唱では魔術を使うことはできないんだから。
「……はっ!」
試しに、杖を振るう。もちろん、想像するのは魔術を使った自分。
だけど、なにも起こることはない。そりゃそうだ……魔術を使うときの、あの『ぶわっ』ってした感じがないんだもん。
魔法はイメージすれば、使える。もちろん一定の魔力を使うのは前提で。
だけど魔術は、そうはいかないようだ。イメージしても、使うことはできない。
そもそも、自分の魔力を使う魔法とは違って、大気中の魔力を使う魔術は……根本的に、違う。
なので、魔法を使う感覚で魔術を使おうと思っても、それは無理なわけか。
「難しいなぁ」
「なに難しい顔してるのよ」
「クレアちゃん」
どうしたら無詠唱で魔術が使えるようになるんだろう……と考えていたところ、クレアちゃんに声をかけられる。
ぶんぶんと杖を振っている私を見て、眉を寄せていた。
「なにしてるの? なにかの儀式?」
「いや……無詠唱で魔術使えないかなって」
「……やめなさいっ!」
私の答えにしばらく沈黙していたけど、顔色を変えたクレアちゃんが私の手首を掴んだ。
そのため、杖を振れなくなってしまう。
そんなに焦ってどうしたのだろう。
「なな、なに考えてるのよ! どうするのよ、もし魔術が発動したら!」
「大丈夫だって、ダメ元でやってるだけだから」
「ダメ元でもだめよ!」
……怒られてしまった。
「ごめんってぇ、ちょっとした出来心でぇ」
「出来心で魔術ぶっ放されることがあったらたまったもんじゃないってのよ、ったく」
私が杖をしまったのを見て、クレアちゃんはほっとため息を漏らした。
どうにも、クレアちゃんから私への信頼度が低い。主にトラブルメーカー的な意味で。
それから、私の頭から足まで見つめて……
「無詠唱魔術が使えるようになりたいの?」
そう聞いた。
「それは、もちろんだよ」
「魔術の使えない私たちからすれば、魔術を使える時点でエランちゃんはすごいのよ。そこに無詠唱魔術まで……高望みしすぎじゃない?」
高望み……その言葉に、ちょっとグサリとなにかが突き刺さる。
確かにそうかもしれない。
「そもそも、魔術は普通一発か二発撃てばそれだけでもうヘトヘトになるらしいのに……魔術を何発も撃ててるエランちゃんがこれ以上技術を得たら、追いつけようもないじゃない」
「クレアちゃん、私に追いつこうとしてるんだ?」
「……言葉の綾よ」
ふっ、とクレアちゃんは顔をそらした。
でもわかっている。これは、照れているから顔を見られたくないのだ。
まあ、クレアちゃんの言おうとすることもわかるけどさ。
「でも、魔導士たるもの……もっと上を目指したいじゃん!」
「……まあ、それを言われたら、そうねとしか言えないけど」
高望みしすぎかもしれないけど、だからダメだってわけじゃない。
それに、私は師匠を超える魔導士を目指しているんだ。できることの幅が広がるに越したことはない。
できることが多くなれば、それだけやれることも幅が広がるってもんよ!
「無詠唱魔術は、言うまでもないけど……詠唱にかける時間がカットされるから、素早く魔術を使えるんだ」
詠唱は魔術によって変わるが、どれだけ早口で言ってもやはり時間はかかる。
それにその間、無防備になる。魔術に集中しないといけないので、他のことに頭を使う余裕は少なくなる。
途中で詠唱をやめてしまえば、また最初から始めないといけないし。
「でも、エランちゃんの場合……魔術を効率よく使うための工夫はしていたじゃない」
クレアちゃんが言っているのは、多分……浮遊魔法中の魔術と、分身魔法を使っての魔術だ。
浮遊魔法で空中に飛び、相手の攻撃が届かない安全圏からの詠唱。
分身魔法で二人にわかれ、相手を翻弄している隙に詠唱。
「でも、これって初見殺しなところあるから」
「……浮遊魔法はともかく、分身魔法は早々対処されないと思うけど。それに、それぞれで別の詠唱をして別々の魔術を撃つなんて、どう対処するのよ」
懐かしいなぁ……分身魔法を使った時、片方ずつ別々の詠唱をして、それぞれ違う魔術を放った。
分身をA、Bとするなら、Aは炎の魔術、Bは水の魔術って感じでね。あれは初めての試みだったけど、うまくいってよかった。
要は、二重詠唱だ。二人それぞれ別の魔術を放つことで、相手の隙を誘える。
ま、これは別に別の魔術である必要はないけどね。分身一人一人で、それぞれ魔術を使えるってこと。
とはいっても、分身魔法も慣れないとキツい。分身すればそれだけ力は減少するのだ。二人なら本来の二分の一、三人なら本来の三分の一……
その上、視界も共有される。別々の場所で見ている景色をいっぺんに処理しなくてはいけないから、そんな状態で魔術を撃つのは……一回が限界だろうな。




