第1022話 変わらないクラスメイトたち
食堂で朝食を終えた私たちは、それぞれのクラスへと向かう。
今食事をしたメンバー全員が同じクラスだったらよかったのに……と思わなくはないけど、残念ながらそんなことにはならなかった。
この場にいるメンバーだと、私とフィルちゃん、クレアちゃんが同じ「ドラゴ」クラス所属だ。
「えぇと、教室はこっちだっけ」
「そうよ」
食堂から教室へ向かう毎度の動き。自然と身体が覚えているけど、ちょっとストップ。
なんたって、これから向かう教室は以前とは違う場所にあるのだ。
この度私たちは、二年生になった。なので、以前使っていた教室は新しく入ってくる一年生が使い、私たちは前二年生が使っていた教室を使うことになる。
「お、ここだね」
目的の教室を見つけ、扉を開ける。
中には、すでに何人か見慣れた顔が並んでいた。
学年は変わっても、クラスのメンバーまで変わるわけではない。
この魔導学園では、一年生で一緒になったメンバーと、卒業まで一緒のクラスで過ごすことになる。
学校というのは、クラス替えとか……そんなのがあると小耳に挟んだけど。元々この学園は、入学時の魔力によって各々が四つのクラスに分けられる。
それは、生徒の合計魔力が四クラスでほぼ均等になるように。ここには、クラスごとに切磋琢磨し、魔力を競えという狙いがある。
「みんなー、おっはよー!」
教室に入り、元気よく声をかける。
二年生になったことで、新たに魔力を測定してまたクラスごとに均等になるように配置することは、ない。
クラスごとに競うのだから、学年が上がる度に魔力が均等になるよう配置し直しては、意味がない。……ないのか?
まあ、競うって言っても血なまぐさいイメージではない。あくまで平和的なものだ。
「! エランさん、おはようございます」
私に一番に挨拶を返してくれるのは、カリーナ・レンブランドちゃん。
入学したばかりの頃、私をお茶会に誘ってくれて以降、仲良くなった子だ。
貴族と平民の差をできる限りなくしたい、と考えている、いい子だ。
「おっはよー!」
「相変わらず……いえ、いつも以上に元気ですね」
「そりゃもう! 今日から二年生で、後輩も入ってくるって言うんだから!」
起きたときから……いや、昨日からずっとワクワクしていた。
先輩は卒業しちゃったけど、新しく後輩が入ってくる。別れがあれば出会いもある、ってね!
まあ、クラスの面々は代わり映えしないけど……それも、嬉しい。せっかく仲良くなった子たちと、離れ離れになりたくないしね。
「一年生、確かに楽しみですわね」
「今から緊張してしまいます」
その後ろに立つ、ユージア・ワクニンちゃんとシルメィ・バンテンちゃんは、それぞれほっぺたに手を当てている。
私以外にも、楽しみにしている子は多いみたいだ。
さて、同じ教室で一年過ごせば、誰と誰が同じグループにいるか自然と決まってくるもの。
男子、女子、あるいは両方……いろんなグループがある中で、そのどれにも属さない男がいる。
「美しイ……」
例のごとく持参した手鏡を眺めている、ブラドワール・アレクシャン。私は筋肉男と呼んでいる、制服パツパツなのだ。
ちなみにだけど、美しいと見惚れているのはもちろん手鏡ではなく、手鏡に映った自分の顔だ。
あいつ、授業中もしょっちゅう手鏡見ては、自分に見惚れている。ナルシストなのだ。なのに、成績は良いんだよなぁ。
ちなみにアレクシャン家は、変人を輩出することで有名な貴族らしい。
「相変わらずだなぁ」
学年が変わっても、そこにいる人たちは簡単には変わらない。ただ一人、盛り上がる周囲もお構いなしに自分の席で自分を眺めている。
自分の顔をあんなに見て、飽きないのだろうか。まあ飽きないからあんなことしてるんだろうけど。
最初の頃は、その奇っ怪な行動にみんな様々な目を向けていたものだけど……そのうち慣れたのか、誰もなにも触れなくなった。
慣れって怖いね。
……ただ、そんな彼を見つめている子が一人いる。
「ロリアちゃん?」
「! エランさん、おはようございます」
「あ、うん、おはよう」
彼女……ロリア・サラメちゃんに話しかけると、とてもいい笑顔を向けてくれた。
元々平民だという彼女は、親の再婚で貴族になった。いろんな苦労をしてきたようだ。
入学してからも、自分の席を筋肉男に奪われるという不運に見舞われたりね。
「……あいつのこと見てたの?」
「えっ!? あの……た、たまたまですよ、ですよ……」
指摘すると、あからさまにロリアちゃんは顔を赤くする。
信じられない話だけど、ロリアちゃんはあの筋肉男に恋をしているのだ。どうしてそうなった。
人の恋路はとても面白いし、応援したい。だけど相手が相手だけに、素直に応援できない。
「ま、頑張りなよ」
「な、なんの話です!」
私の周り、恋してる子多いなぁ。まあ学生ってそういうものなのかもしれないけど。
私には、よくわからないものだ。恋とか愛とか……この国に来るまで友達もいなかったんだし。
自分の席に荷物を置くと、視界の端に印象的な赤毛が映った。
「あ、ダルマスじゃん。どしたのこっちじろじろ見て」
「! 別に、じろじろ見てなどいない」
指摘され慌てるのは、イザリ・ダルマス。目つきの悪いツンツンした赤い髪が特徴の男だ。
ダルマス家というのは、上級貴族らしく他の生徒からも一目置かれている。
初めて会った時は、後に友達になったルリーちゃんを虐めていたこともあり、印象最悪だった。
そして仮とはいえダルマスと決闘して、ボコボコにした。
そんなことがあり、微妙な距離感だったわけだけど……同じクラスで一緒に過ごすうち、彼の努力する姿を見て印象は変わった。
また、彼から私に対する印象も変わったように思う。
「そんなに慌てちゃって。えっちー」
「なっ……!?」
ダルマスがルリーちゃんを虐めていた事実は消えないけど……この学園、いや世界ではダークエルフという存在そのものが人々から嫌悪されている。
そして、ルリーちゃんこそがダークエルフの一人なのだ。ちなみにダルマスは、ルリーちゃん=ダークエルフだとは気づいていない。
認識阻害の魔道具のおかげで、正体を隠せている。
なのでダルマスの行為も、そういう"世界の常識"のせいでネジ曲がってしまったのだと考えると……
それを知ってからは、まあ、なんだ……ギリギリ嫌いになりきれないかなとは、思っていたわけで。
「なんだかんだあって、今じゃ普通に話せてるんだよね」
「なにをブツブツ言っているんだ」
なんだかんだ努力家なのはよくわかってるし……そういう子、嫌いじゃないよ。




