第1021話 卒業した三年生
「みんな、おっはよー!」
準備を終えて、部屋を出た私たちは真っ先に食堂へと向かった。
朝早いとはいえ、そこそこの生徒で埋まっていた。けど、その中に見慣れた姿を見つけた。
そのため、私は元気よく声をかける。挨拶は元気よくなくちゃね!
「……おはよう、エランちゃん。朝から元気ね」
「おはよー、ラン」
席に座って食事をしているのは、同じ組のクレア・アティーアちゃん。桃色の髪が肩まで伸びていて、それは触り心地がよさそうだ。
なにより、私にとって初めての友達だ。今まで師匠と暮らしていた私には、友達どころかまともに話した人すらいない。クレアちゃんは、私がこの国に来て入った宿屋で知り合い友達になった。
そして対面に座っているのは、サリア・テンランちゃん。別の組だけど、クレアちゃんのルームメイトなため、こうしてちょいちょい話したりする。
今は絶滅した"鬼族"の末裔である彼女は、その力をわずかに宿している。また、エラン→ランと呼ぶなど特徴的な呼び方をする。
朝の食堂じゃあまり見かけない二人だから、珍しい。
「お二人とも、おはようございますわ。ご一緒してもよろしいかしら?」
「ん、もちろんいいわよ」
「わーい」
ノマちゃんの言葉にクレアちゃんがうなずき、フィルちゃんが喜びを全身で表現する。
席は確保しておいてもらい、朝ご飯を注文に行く。今日はなにを食べようかなぁ。
……注文するものを決め、列に並ぶ。生徒が多いから列も長いや。
「いいにおーい」
「そうだねー」
「ですわねー」
朝ののんびりした時間は、嫌いではない。
列の前後に並んでいる生徒も、見知った顔なので雑談をする。
ただ並んでいるよりも、こうやってお話している方が時間は早く過ぎるしね。
「……前々から思っていましたが、フィールドさんは顔が広いですわよね」
「え? そうかな……私、自分では小顔だと思ってたんだけど……」
「そういう意味ではありませんわ! 傷ついた顔をしないでください、心が痛みます!」
「なはは、冗談冗談」
顔が広い。……別に気にしたことはなかったけどなぁ。
話した子がいたら積極的に話しかけに行くし、話したことがない子だって仲良くなるために話しかけに行く。
「自分から積極的に話しかけてれば、自然と広がるものじゃない?」
「そう思うのはフィールドさんくらいですわよ」
「ノマちゃんもそういう考えだと思ってたけどな」
「言いたいことはわかりますが、実践するにはなかな難しいんですのよ」
……そうかなぁ。少なくともノマちゃんは、初対面の私に対しても普通に話しかけてくれたけど。
「誰とでも仲良くなれるなんて、うらやましいですわ。わたくしも、コーロラン様ともっと仲を深めたいですのに」
コーロラン・ラニ・ベルザ。ノマちゃんの片想いの相手にして、なんとこのベルザ国の第二王子である。
ノマちゃんのエーテン家は有名な貴族らしい。貴族と言えば、貴族と平民で区分けしている所もある。ノマちゃんはそういう子じゃないけど、親の考えまではわからない。
ともかくそんな貴族社会、相手が同じ貴族でなければ身分違いとして納得しない人もいるだろう。
けれど、コーロランは貴族は貴族でも王族。逆の意味で身分違いだ。しかもコーロランには婚約者もいるわけで。
第二王子に恋するなんて、大変だ。友達の恋だから応援したいけど、婚約者とも私は友達になっちゃったしな。
……そういえば、この間第一王子が国王になったんだから、いつまでも第二王子呼びはおかしいのか?
「誰とでも仲良く、なんてことはないよ。私だって、相容れない相手はいるもの」
今は、コーロランのことは置いておいて。
私は別に、話せば必ず相手と仲良くできるわけじゃない。その一例が、クラスメイトの筋肉男だ。あ、ブラドワール・アレクシャンだ。
あいつぜんっぜん人の話聞かないんだもん! あいつとだけは仲良くできない。
「ありがとうございますわ。やっぱり、人が少なくなったから人の回りも早いですわね」
列が進み、注文した料理を貰う。
クレアちゃんたちが座っている席へ向かう途中、周りを見た。
……朝だから混んでいるとは言っても、全体的に見れば生徒の数は休みの前に比べて少ない。少し寂しいな。
その理由は、三年生が卒業してしまったから。全生徒の三分の一がいなくなったのだ。
三年生は、この魔導学園を卒業した。今国王となっている、ゴルドーラ・ラニ・ベルザを含めて。
「三年生がいなくなって、ゴルさんが新しい国王になって……いろいろ変わってきているよね」
第一王子だったゴルさんだけど、学生が終わってすぐに国王の座についたのは、前国王が死亡してしまっているから。
本当なら、卒業後いろいろ教育を受けて、国王の座を授与していく形だったんだろう。それが叶わなくなり、こんな慌ただしくなってしまった。
幸いなのは、第一王子で生徒会長だったゴルさんは学園内だけでなく、学園外でも強い人気があったということ。
おかげで、彼が国王になることが正式に決まっても不満を言う国民は少なく、お城の人たちも彼を支えてくれている。
……若すぎる国王の存在に、まったく不満がないわけでもないみたいだけどね。
「あ、来た来た。早かったわね」
「うん」
この国がこの先、どう変わっていくのか。ゴルさんがきっと、いい方向に頑張ってくれるだろう。
そして、この学園も……今日、新たな入学者を迎え、これまでの生活が変わっていく。




