第1046話 おせっかいエラン
「ええと、フィールドさんのお知り合いですの?」
私たちの反応を見て、ノマちゃんが察する。
優雅に水を飲みながら、近くに立つ男の子を見上げていた。
「まあ、知り合いっちゃ知り合いかな。ほら、さっき話した決闘の」
「……なるほど」
納得したように、ちびちびとコップを傾けている。
ただ水を飲んでいるだけの姿なのに、どうしてこうも優雅に映るのだろうな。
女の子らしいって、こういうことを言うんだろうなぁ。私は別に女の子らしさを目指しているわけじゃないけど、ちょっとはうらやましいと思ったりもする。
「ええと……アレクレス・ルーランドさん、でしたか」
「……覚えたんだ。すごい」
私は長い名前を覚えるのは、苦手だから……あだ名で呼んじゃうこともある。
「けっとう……あ、負けた人!」
「……」
フィルちゃん……それはさすがにストレートすぎる。
「あぁ? なんだこのガキ……」
案の定、額に青筋を浮かばせたルーランドは今にも怒り出しそうだ。
ま、初対面の女の子……それも明らかな子供にそんなことを言われたら、わからんでもないけど。
それでも……
「今のはフィルちゃんがごめんだけど、これでもキミの先輩だからね。ガキ呼ばわりはダメだよ」
「! 先輩ぃ?」
胡散臭そうなものを見る目をしている。まあ、うん……にわかには信じられないよね。
でも、私が嘘をついていないことは分かったのだろう。それ以上はなにも言わなかった。
ちなみにフィルちゃんは、先輩と呼ばれたことが嬉しかったのだろう。白髪を揺らし、どや顔で胸を張っている。
「フィルちゃん、初対面の相手に失礼なこと言ったんだから、ごめんなさいね」
「……ごめんなさい」
「……先輩……」
やはり疑わしそうな目で見てくる。
今制服を着ていれば、スカーフの色で判別できるだろうに。
「これでもフィルちゃんはすごいんだからね」
「すごいんだよ、私はっ」
「わかったよ、もうわかったから」
もうこれ以上突っ込むまい……という雰囲気が感じられる。
なんか今更だけど、フィルちゃんに対するこういう反応は久しぶりだなぁ。
入学したばかりの子からすると、こんなもんか。
「あ、二人は私のルームメイトね」
「ノマ・エーテンですわ」
「フィルだよ!」
「……どうも」
もしかしたら、ルーランドがこれまで会ったことがないタイプなのかもしれないな……この二人は。
少し迫力に押されているように見える。私と会った時のやつはどこ行ったんだ。
それから、視線を巡らせて……
「エルフ……」
小さく、けれど聞こえる声でつぶやいた。
それを聞いて、カリュリアちゃんの肩が小さく震えたのがわかった。
果たして、周囲が自分に対してどんな感情を抱いているのか……それを考えるのが、怖いのだろう。
「へぇ、初めて見た。……綺麗な髪してるんだな」
「え」
続いた言葉は、まったく予想していないものだった。
思わず声を漏らしたのはカリュリアちゃんだけど、私も声が出そうになった。
本人は、あっけらかんとしているけど……こ、こいつ! 初対面から口説いてきた!?
「まあ、初対面で女性の髪を褒めるとは。なかなか紳士な方ですわね」
「え」
ノマちゃんの反応に、今度は私が声を漏らしてしまう。
今のって、別に問題ない発言なの? セクハラとかじゃないの?
もしかして、女の子の髪を褒めるのって貴族の間で珍しいことではなかったりする?
「ぅあ、ぁ……ありがとう、ございます」
髪を褒められたカリュリアちゃんは、照れたように顔を赤くしている。
前髪が長く表情が読み取れないけど、照れているのはよくわかる。なんせ、耳が真っ赤なのだから。
貴族からすれば普通のことでも、平民からすれば普通のことではないんだもんな。
「アレクくん、キミ、カリュリアちゃんに好印象?」
「なにを当たり前のようにアレクと呼んでいるんだ」
じろり、と睨まれてしまった。
私なりに距離を縮めようと思ったんだけど、あだ名呼びはダメだったか。
まあ、幼馴染のカリナちゃんや憧れのダルマスしか呼ばないあだ名……とかなら、大切なものだし他の人には呼ばれたくないか。
「ルーランドくんは、カリュリアちゃんに好印象?
あ、カリュリアっていうのはこの子の名前ね」
「ど、どうもこんばんは……」
「あぁ」
やっぱり二人は初対面か……同じクラスだったとして、初日ではクラスメイトの顔は覚えられないだろう。けど、カリュリアちゃんのような特徴的な印象の相手は覚えてるだろうし。
「好印象……と言われてもな。別に、エルフだからって妙な偏見は持たないようにしているだけだ」
「ほほぉ……それは素晴らしいね。いい子いい子」
「舐めてるのか?」
エルフに対して、そんな普通の反応をしてくれるだけでも充分だよ。
特に、人目を避けて生きてきたエルフ自身そう感じるだろう。
ほら、カリュリアちゃんは嬉しそうだ。
「そっかそっか。なら、二人は今日から友達だ!」
「!?」
「なんでそうなる!?」
「……?」
「なんで俺たちの反応がおかしい、みたいな反応してるんだ!」
お互いに印象が悪くないなら、もう友達になるしかなくない?
それからルーランドは、はぁとため息を漏らした。
「あのなぁ、ダチってのは誰かに言われてなるもんでもねえだろ。誰とダチになるかは自分で決めるっつうの」
「……」
せ、正論……! なんてまっとうな正論なんだ!
というかこの子、こんな凶悪な顔して、とってもいい子だ……!
そっか、そうだよね。やっぱり私のおせっかいだったか。
「キミ、めちゃくちゃいい子だね……私、嬉しいよ……」
「母親かお前は!?」




