第1038話 憧れの人
「アレクレス・ルーランドくん。キミ、生徒会に入らないかい」
こほんと咳払いをして、ぱちんと指を鳴らす。鳴らした意味はない、ただかっこよかったからだ。
そして、出来るだけのキメ台詞的な感じで、彼に言う。
「……生徒会?」
当の本人は、私の要求が予想外だったのか、ぽかんとしていた。
さっきまで偉そうな表情ばかりだったから、これは実に新鮮だ。
とはいえ、ぽかんとしているのは彼だけではない。
「え、エランさん……」
「本気?」
ルリーちゃん、それにクレアちゃんが口を開く。
けれど、これは別に私の気まぐれってわけじゃない。
彼と戦いを通して、わかったこと。
「この子、魔力の扱い方がとってもうまいんだよ。入学したばかりとは思えないくらい」
身体強化の使い方が、まさにそうだ。身体強化は魔法の基礎……だからこそ、その使い方で魔力の扱い方が見えてくる。
全身強化ができるほどには極めていなかったみたいだけど、部分強化の走らせ方がとてもうまい。
それに、魔導剣を魔剣として扱えるレベルなんて。すでに魔術を使える段階にあるってことだ。
正直な話、一年前のダルマスよりも長けている。
「生徒会に必要なのは、そういう人だと思うから」
「……なるほどね」
くすっとナタリアちゃんが笑う。その横で、マヒルちゃんはおろおろしているようだった。
「それで、どうかな」
まあ、なにをどうするにも本人の意思が重要だ。
「……どうもこうも、決闘に負けた以上こっちに拒否権はないだろ」
「アレクッ」
ふん、と顔をそらすルーランド。うーん、やっぱり目上への礼儀を躾けておけばよかったかも。
まあ、生徒会に入ればそういうのは追々正されていくだろう。特に、シルフィ先輩はそういうのに厳しいし。
それにしても、まさかこんな形で生徒会メンバーを獲得できるなんてね。
「ゴルドーラ様との決闘を思い出すわね……」
「ですね……」
「確か、エランちゃんと三年生だったゴルドーラって王子様が決闘をして……負けたエランちゃんが、生徒会に入ったんだっけ?」
「そう。ゴルドーラ様の要求に従ってね」
懐かしい話だなぁ。あれから一年かぁ……なんだかいろいろなことがありすぎて、一年以上経っているような気がするんだよなぁ。
それだけ濃い一年を過ごしてきたってことだよね。
それにしても……
「まさか、魔導剣士だったなんてね」
剣をしまうルーランドを見て、私は言う。
「ん、あぁ」
「剣はいつから?」
「……小さい頃からだ。ある人に憧れてな」
小さい頃から、魔導剣士になるための訓練を続けていた。それはとてもすごいことだな。
憧れている人に近づきたくて……か。私にも、なんとなく気持ちはわかる。
師匠に少しでも近づきたくて、がむしゃらに訓練していたもんな。
「そうなんだね。なら、キミみたいな有能な魔導剣士を生んでくれたこと……その人に感謝しないとね」
「……なんだそりゃ」
ふふふ、ちょっと照れているようにも見えるな。
普段生意気な子がふとした瞬間に見せる照れ……そこからしか得られない栄養素はあると思うんだよね。
そんな彼をチラチラ見ているのが、さっきから口をつぐんでいるカリナちゃんだ。
「そんな心配そうにしなくても、悪いようにはしないから」
「! べ、別に心配なんてしてないです!」
私の指摘に、顔を赤らめて背を向ける。
彼女は、幼馴染だって言っていたな。師匠とずっと暮らしていた私には、幼馴染なんてものはいないから……なんか、ちょっとだけ羨ましいな。
ま、記憶を失う前の私にそういう存在が居たのかもしれないけど。
「じー……」
「! な、なんです……?」
「いや……きれいな髪の色だなと思って」
燃えるような赤い髪。それと同じく真っ赤な瞳。
勝ち気な性格……なんというか、どこかダルマスを想像させるなぁ。
それに、ルーランドが魔導剣士ってのも、ダルマスとの類似点だし。
「そういえば、まだきちんと自己紹介してなかったね。エラン・フィールドだよ」
彼女の名前は成り行きで知っただけで、お互いに自己紹介を交わしたわけではない。
改めて自己紹介をして、手を差し出す。
「! これは、失礼しました。カリナ・ドーダンです」
カリナちゃんも名乗り、手を握ってくれる。
お互いに握手を交わす。この子は素直……まあ、ルーランドよりは全然素直な子だからよかった。
しっかし、ドーダンか。ダルマスとは関係なさそうだな。
「それじゃ、彼は決闘の決まりに従い生徒会に……そういうことでいいな?」
「はい、それでお願いします」
ウーラスト先生が私たちを見回し、確認する。
その後、諸々の始末のため先生は職員室に行ってしまった。
審判を務めた身として、いろいろやることがあるらしい。
「私たちも行こっか」
「はい」
訓練所を出る。ルーランドの生徒会入りについては、また改めて帳尻を合わせよう。
なんせ、ウーラスト先生は生徒会の副顧問だしね。
ししし、これでシルフィ先輩も驚くだろうなぁ。私だってちゃんとメンバー集めの仕事していたんだからね。
「今さらですけど、このバカがすみません。先輩にいきなり決闘を挑むなんて……」
「バカとはなんだ」
「いいのよ、エランちゃんだって似たようなことしてきたんだし」
「なぜクレアちゃんが答えるの」
なんか、カリナちゃんはすっかりなじんだようだな。ルーランドは相変わらずだけど。
それとも、女の子ばかりだから緊張しているのだろうか。
「それでは、私たちはここで……」
少し歩いたところで、カリナちゃんが言う。一年生と二年生では寮が違うもんね。
またおしゃべりしようと、約束してわかれようとしたところ……視界の端に、赤い髪を見つけた。
あれは……
「ダルマ……」
「イザリ兄上!」
そう、まさにさっきまで考えていたイザリ・ダルマスの姿だ。
その姿を見つけたカリナちゃんは、嬉しそうな表情をして……
……兄上? どゆこと?




