第1037話 魔剣極めし少年
彼の持つ魔導剣が、赤く輝いている。それは、ただ色が変わっているわけではないというのは、考えなくてもわかった。
おそらく、魔力を一点に凝縮したものだ。
彼は、魔力を火の力のように扱うのが得意だ。これまでの戦い方を見ていれば分かる。
だから、あの刀身にはかなりの熱が込められていて、爆発的な威力を持っているのだろう。
「こいつで、しめぇだ!」
というか……この姿、見たことがある。
「魔剣……火の型……!」
ぎゅっ……と、ルーランドは剣を強く握る。
魔導剣が魔術を纏ってその力を発揮するとき、それは『魔剣』と呼ばれるものへ昇華する。
この子、すでに魔導剣に魔術を纏わせる芸当までできるのか。それに、この技……
「炎天狼牙!!!」
……ダルマスが使っていたものと、同じだ。
燃えるように赤く染まる刀身……そして、燃え上がる魔力を一気に放出させて斬りかかる技だ。
炎を凝縮しているので、その威力は計り知れない。
この近距離で、防御も間に合わない……
「取った!」
今度こそ、ルーランドの剣は……"私"を斬り裂く。
横薙ぎの魔剣が、"私の"胴体を上下真っ二つにして……
「! 消えた……?」
斬られた"私"は……その場で、霧のように消えてしまう。
そう、私は……そこにはいない!
「爆炎で焼き尽くす豪火よ、天地をも焼焦す死火と成りて、すべてを灰燼と帰せ!」
「! いつの間に……!」
振り向くルーランドの視界の先に、私は居た。
けれど、そのタイミングで私の魔術詠唱は完成した。
先ほど私は、『分身魔法』を使い本体と分身で二手に分かれていた。ルーランドが斬ったのは、分身だ。
もっとも、分身の視界は本体と共有しているから、あの斬られた際の迫力も鬼気迫るものがあった。
いつそんな魔法を使ったかって? さっきの目くらましの時。
私の隙を突くつもりだったんだろうけど、残念だったね。魔術を使う隙はなくても、簡単な魔法なら使える。
「くっそが……!」
燃える魔剣を構えるルーランドだけど、遅い。
いくら斬撃による遠距離攻撃ができるとはいえ、すでに魔術詠唱が終わった私を止めることはできない。
彼が動きを見せるより先に……私は、杖の先端を彼へと向けて。
「紅炎爆発!!!」
魔術を、解き放った。
属性は火。彼が火を得意とするなら、同じ属性でやってみたくなったのだ。
後は単純に、師匠がよく使っていた魔術だから、私としても馴染みが深いんだよね。
「! これが……」
放たれた強大な炎に、初めてルーランドが引きつった表情を浮かべる。
それでも逃げ腰にならず、構えている。その姿勢は素晴らしいものがある。
すでに逃げると言う選択肢はなく、未だ魔術を纏う魔剣を構えて……
「おらぁああああああ!!!」
ここに居ても聞こえるほどの雄叫びを上げ、魔剣を振り抜いた。
炎を炎で斬る……そう表現した方がいいだろうか。縦一閃に斬り、私の炎は割れる。
ルーランドごと包み込むと思われた炎は、けれどルーランドだけを避けていった。
「はぁ、はぁ……」
まさか、魔術を斬ってしまうなんて。すごい腕前だ。
でも……
「チェックメイト、かな」
ルーランドの首元に、私は杖を突きつけた。
彼の性格を考えれば、魔術から逃げるとは思えなかった。むしろ、真っ向から対抗してくるんじゃないかと。
その考えは、見事に一致した。ルーランドは魔術に挑み、斬り裂いた。
だからこそ……魔術の後ろに身を隠して迫る私には、気付かなかったんだ。
「キミが魔術から回避行動を取っていたら、別の選択肢があったかもしれないけど」
「くっ……ちっ。降参だ降参」
しばらくにらみ合いが続くかと思いきや、わりとすんなりとルーランドは負けを認めた。
剣を手放し、お出上げのポーズだ。
「なんだよ」
「いや……あっさり引き下がったなって」
「はっ。喉元に得物突き付けられて抵抗するほど、往生際悪くねえわ。実際に、こっから対抗手段はないしな」
「決闘の勝者! エラン・フィールド!」
そこに、決闘終了の声が響く。
それはもちろん、審判のウーラスト先生のものだ。決闘の決着は、相手を戦闘不能までボコボコにするか、降参するか。
私は杖を下げて、いつも身につけている太ももに装着しているホルダーに差す。
「ふぅー」
「エランさーん!」
決闘が終わったことで、ルリーちゃんが真っ先に駆け寄ってくる。
結界もなくなったので、出入り自由だ。みんな、私のことを心配していた……という表情ではないな。
一方で、観客の一人カリナちゃんはルーランドへと駆け寄る。
「あんな大口叩いちゃって、負けるなんて情けない」
「やかましい」
……口ではああ言ってるけど、心配しているって表情が隠しきれていないな。
「それでは、ルーランドは決闘の勝者であるエランの要求に従うことになるが……」
あー……確か、『目上に対する礼儀ってもんを叩き直す』ってやつだったか。
「ちっ、しゃあねえがそれが決まり事だってんなら、俺は……」
「ちょっと待った」
私はそこに、ちょっと待ったコールをかける。
ルーランドもウーラスト先生も、みんなきょとんとした表情をしている。
……ただクレアちゃんだけ、『またなにかやらかしそうだなこいつ』と思ってそうだけど。
「あの、決闘の要求って、決めてたものと変えてもいいのかな」
「え……あー、あんまりそういう例は少ないけど。決闘相手が承諾したなら、それも構わない」
「なら私、別の要求をしたいんだけど」
「……別の要求?」
今、ルーランドと戦ってみてわかった。
戦う前は、力の分からないクソ生意気なガキって印象だったけど……戦って、かなりの力の持ち主だってことがわかった。
なにより、その野心。今まで会った中でも、かなり良いと思う。
「アレクレス・ルーランドくん。キミ、生徒会に入らないかい」




