第1031話 全力のお前を潰す
「それで、カリュリアちゃんて言うエルフっ子なんだけど……魔力がうまく使えないらしくて、先生にどうにかしてもらえないかなって」
「なるほど……初日から、頼りにされているじゃないかエラン」
「なんでこの後決闘が控えてるのに、和やかに会話してるの?」
私たちは食堂で、ご飯を食べながら話していた。
この後の決闘に備えて、英気を養っておくためだ。魔力は、休息と食事で回復するからね。
まあ、お昼なんだからどっちみちご飯は食べないといけないんだけど。
「けれど、その子はエランに頼んできたんだろう? オレオレでいいのか?」
「それはそうなんだけど、運よく見つけたのが私ってだけの話だと思うし……それに、同じエルフのウーラスト先生に伝えておいて損はないでしょ?」
「確かに」
人に教えることさえうまくできるかわからないのに、エルフに教えることが果たして私にできるのか。そんなの、自信がない。
なので、こうして信頼できるエルフに伝えておくのだ。
悔しいけどウーラスト先生は、私よりいろんなことを知ってる。きっとあの子の助けになってくれるはずだ。
「それにしても、決闘相手はよくエランちゃんに挑んだわよね。エランちゃんのこと知らないのかしら」
「どうだろう……知ってるからこそ挑んだって感じだったし、多分友達の子が止めようとしてたけど「関係ねえ」って感じだったし」
一方、クレアちゃんとマヒルちゃんはこの後の決闘のことを話している。私のことだってのに、二人ともいい子だなぁ。
相手が私の名前を知っていた。その上で、挑んできたのだ。
なら、こちらとしても全力で答えないとね。
「元々他国の貴族なら、エランちゃんの功績は噂話でしか知らないんじゃない?」
「なるほど」
今年度から入学するためにこの国に来たのなら……私が実際になにをしてきたのか、その目で見たわけじゃないのか。
名前が一人歩きして、エランという二年生が強い……という話を真に受けて挑んできたと。
……強い、か。へへ……
「エランちゃん、たまに一人で笑うことあるわよね」
おっと、これは失敬。
「言っとくけど、本気で戦うんじゃないわよ」
「決闘なのに? 挑んできたのは向こうなのに?」
「それは、そうかもしれないけど……エランちゃんが本気出したら過剰権力すぎるというか……」
「けれど、それが決闘だ。両者にどれだけ力の差があろうと、決闘を申し込んだ以上相手はそれを覚悟しているはずだ。下手に手を抜くことは、そのまま相手への侮辱にも繋がる」
クレアちゃんの苦言に、ウーラスト先生が冷静に言葉を返した。おぉ、まるで先生みたいだ。
そりゃあクレアちゃんの言うことも、ウーラスト先生の言うこともわかる。わかるけど……これは決闘だ。
逆の立場……私がゴルさんに挑んだ時も、手加減してほしいなんて考えてもなかった。むしろ、本気を出させ、本気の彼を倒すことを第一に考えて。
……きっと……
「今回決闘を挑んできたアキレスケンくんも、同じことを考えてると思うよ」
「アレクレス・ルーランドくん、ね」
まあやるからには全力でやる。挑まれた立場だし、無様なことはできないもんね。
決闘では、使い魔を召喚してはいけないというルールはない。私だって、ゴルさんと彼の使い魔サラマンドラ相手に、奮闘したんだ。
なら私だって、黒竜のクロガネを召喚しても問題ないよね!
「あ、でも……訓練所でやるなら、クロガネ召喚して大丈夫かな」
訓練所も大きいけど、クロガネも大きいからなぁ。もしかしたら、召喚して建物ごとぶっ壊してしまうかもしれない……さすがに大丈夫かな。
「あの黒竜だけで並の魔導士じゃ太刀打ちできないのよ……それはもう戦いにすらならないんじゃない」
「なんならここに、"賢者の石"もつける」
今この場にはないが、"賢者の石"とは……以前前国王から貰った、魔導具だ。どうやら、国宝と呼ばれるものらしい。
その効力は、使用者の魔力量を倍増させる。とんでもない魔導具だ。
「決闘の取り決めで、魔導具は使用不可にしたほうがいいんじゃないかしら」
「どうせなら、使い魔召喚なしにもしてもらったほうが……」
確かに、決闘の際にそういうことを決めることはできる。これなら、ルール上の上で全力を出すって形になる。
もちろん両方使えなくても、私は負けるつもりはないけど……
「そんな縛りは不要だ。全力で来い!」
「!」
楽しい会話に、鋭い声が入り込む。
それは、さっき聞いたばかりの声……振り向くとそこには、決闘を挑んできた相手がいた。
「この俺相手に、手ぇ抜くことがあったら承知しねえぞ」
「アキレスケンくん……」
「アレクレス・ルーランドだ! いい加減名前を覚えろ!」
赤と茶が混ざり合った髪を揺らし、大きな目を鋭く細めた男子生徒が、そこにいた。
その少し後ろには、おどおどした少年もいる。さっきも、彼の近くにいたな。
ルーランドは、私を睨みつけたまま言う。
「俺は全力のお前を倒す! そうすりゃ、この学園で俺がてっぺんだ……てっぺん取るにゃ、そこを締めてる奴を叩くのが早いってな」
どうやら、私を倒すことで学園で一番強いと証明したいらしい。
私自身、学園で一番強いなんて自惚れるつもりはない。私以外にも、すごい人はいっぱいいる。
でも……そう思われている事実が、大事なんだろう。
「キミが、一年生の。
……キミは、魔導具を駆使して戦うのかい?」
「はっ、んなもん俺には必要ねえよ」
「なら、今回魔導具の使用はなしだ」
「あぁ!?」
ウーラスト先生の言葉に、ルーランドは見るからに不機嫌になる。ヤンキーかよ。
けれど先生は、その圧に怯むこともない。
「エラン、キミの持つ魔導具はおおっぴらに使うものではない。いいね」
……それは、国宝と呼ばれる魔導具。そんな大事なものを、いくら決闘とはいえおいそれと使うな……ってことか。
ま、そういうことなら仕方ないよね。
……ルーランドは、めちゃくちゃ不服そうだけど。




