第8話 「魔力」
シンが初めてアルカナの力を初めて発動してから、1週間が経とうとしていた。
修行の合間。
シンはふと疑問を口にした。
「なあ」
「何じゃ」
バルバが石を手に取る。
「前から思ってたんだけどさ」
「ほう」
「何で普通に言葉が通じるんだ?」
シンが言う。
するとゼノスが首を傾げた。
「共通語だからだろ?」
「共通語?」
「ヒノモト語だ」
「ヒノモト語?」
(なんか日本語を彷彿とするような名前だな……)
「今はみんな使うぞ」
「今は?」
その言葉に反応した。
ルキナが説明する。
「昔は違ったそうですわ」
「昔?」
「魔王が現れる前は、大陸ごとに言葉も文化も違ったそうです」
「――待て」
シンが手を上げる。
「ん?」
「今なんつった?」
「魔王ですわ」
「魔王!?」
「いるの!?」
「いますわよ?」
ルキナが不思議そうな顔をする。
「普通に?」
「普通にとは」
「だって魔王だぞ!?」
ゼノスが笑う。
「何だその反応」
「いや反応するだろ!」
「子供でも知ってる話だぞ?」
「マジかよ……」
シンは頭を抱えた。
「ちなみに今どこにいるんだ?」
「ヴォイド島ですわ」
「ヴォイド島?」
「マグナ大陸の外にある島です」
「島?」
「昔は複数の大陸がありましたの」
ルキナの表情が少し曇る。
「ですが100年前の大侵攻で滅びました」
「滅んだ?」
「多くの国が消えましたわ」
シンの顔から笑みが消える。
だが、ゼノスやルキナが修行している理由もそれなら合点がいく。きっと、魔王討伐のためなのだろう。とシンは思った。
「そんなにヤバいのか……」
「ヤバいぞ」
珍しくゼノスが真面目な声を出す。
「だからみんなアルカナ王国に逃げてきたんだ」
「それで今の国になったんだよ」
「……」
シンは言葉を失う。
ゲームの設定だと思っていた。
魔王。
勇者。
そんなもの。
だが。
この世界では歴史だった。
現実だった。
「なるほどな……」
シンは少し考え込む。
「で、言葉の話に戻るんだけど」
「あぁ、そうだったな。それでなんで、皆んな同じ言葉を使っているんだ?」
「生き残るために言葉を統一したそうですわ」
(なるほど……何故ヒノモト語が選ばれたのかは分からないが、この世界の事情は飲み込めてきたぞ)
「そんな歴史があったんだな」
「今では古い言語を使える者も少ないですわ」
「だから誰とでも会話できるんだな」
「そういうことです」
その時。
バルバが石を構えた。
「よし」
「じゃあ修行再開じゃ」
「待て」
「何じゃ」
「今の話終わり!?」
「終わりじゃ」
「お、おい! 待て」
ゴッ。
「ぎゃあああああ!!」
しかし――。
「たまには反撃してみろ!」
ゴッ。
「ぎゃあああああ!!」
「遅い!」
ゴッ。
「鼻ぁぁぁぁ!!」
「反応しろ!」
ゴッ。
「だから顔ばっか狙うなぁぁぁ!!」
「治癒治癒!」
いつも通りだった。
洞窟前。
地面に転がるシン。
「もう嫌だ……」
すると。
バルバが杖を突いた。
「よし」
「今日は別の修行じゃ」
「別の?」
シンの顔が少し明るくなる。
「石投げ終わり!?」
「今日はな」
「やったぁぁぁ!!」
シンは両手を上げて喜んだ。
そんなシンへ。
バルバは洞窟の壁に立て掛けてあった木剣を投げ渡した。
シンは慌てて受け取る。
「おっと、剣?」
シンは木剣を握る。
日本では触ったことすらない。
「再度魔力について説明してやる。よく見ておれ」
「まずは魔力を剣に流す」
バルバは杖を軽く振る。
すると。
杖の先に青白い光が纏った。
「おぉ!」
「これが魔力操作じゃ」
「かっけぇ……!」
少年のような目になるシン。
だが。
バルバは容赦なく言う。
「やれ」
「説明終わり!?」
「見たじゃろ」
「雑すぎる!」
ルキナが額を押さえた。
「本当に教えるのが下手ですわね」
「そう思うならお前が説明しろ!」
「仕方ありませんわ」
ルキナは前へ出る。
「魔力は体内を流れています」
「うん」
「それを剣へ移動させるのです」
「移動?」
「手へ集めるイメージですわ」
「手へ……」
「そして剣へ流し込む」
「なるほど」
「言うのは簡単ですけど」
「だろうな」
ルキナは木剣を持つ。
すると。
淡い光が剣を包み込んだ。
「おぉぉ……!」
シンの目が輝く。
「これが魔力纏いですわ」
「めちゃくちゃかっこいいじゃん!」
「基本中の基本です」
「マジかよ」
異世界の剣士すげぇ。
シンは素直にそう思った。
「じゃあやってみるか」
木剣を構える。
目を閉じる。
魔力を感じる。
胸の奥。
体の中を流れる何か。
それを腕へ。
手へ。
剣へ――。
「ぬおおおおおお!!」
数秒後。
何も起きなかった。
「……」
「……」
「……」
「んや、できねぇ!」
ゼノスが笑い始めた。
「がははははは!」
「笑うな!」
「気合い入れすぎだろ!」
「うるせぇ!」
ルキナも呆れている。
「力みすぎですわ」
「そうなの?」
「水を流すような感覚です」
「分かるか!」
だが。
何度も繰り返しているうちに。
ふっ――。
剣の先端が僅かに光った。
「あ」
シンが固まる。
「お?」
ゼノスも反応した。
「今光ったぞ!」
「本当か!?」
「本当ですわ」
ルキナも頷く。
「初日にしては上出来です」
「マジ!?」
シンの顔が明るくなる。
その瞬間。
ボンッ!
「うわぁ!?」
魔力が暴発した。
木剣が手から吹き飛ぶ。
「痛っ!」
額に直撃した。
「がははは! 何やってんだお前!」
ゼノスが爆笑する。
「うるせぇぇぇ!」
バルバも頷いた。
「才能はある」
「本当か!?」
「だが下手じゃ」
「どっちだよ!」
それから数時間。
シンは何度も繰り返した。
魔力を流し。
失敗し。
暴発し。
またやる。
そして。
ーー昼頃。
ついに。
木剣全体が淡く光った。
「できた……」
シンが呟く。
「できたぞ……!」
初めてだった。
自分の意思で魔力を操れた。
「おぉ!」
ゼノスが拍手する。
「やるじゃねぇか!」
「へへっ」
思わず笑みが零れる。
だが。
バルバは満足そうに頷いた後。
こう言った。
「では次じゃ」
「次?」
「身体強化じゃ」
「身体強化?」
(あ、ゼノスがこの間それで岩をぶっ壊してたな……)
「魔力を身体へ纏う」
「以上!」
「雑!」
ルキナが説明を引き継ぐ。
「剣へ流すのではなく、全身へ巡らせるのです」
「全身?」
「筋力、反射神経、身体能力を底上げできます」
「おぉ! 分かりやすい!」
「ゼノス」
「おう」
ゼノスが前へ出る。
「見せてやる」
次の瞬間。
ドンッ!!
地面が砕けた。
「は?」
シンの目が点になる。
ゼノスは軽く跳躍しただけだった。
なのに。
10メートル近く飛んだ。
「え?」
ズドォン!!
着地の衝撃で再び地面が沈む。
「これが身体強化だ」
「す、すげぇ」
「次は私ですわ」
「お、おう」
シンは頷く。
ルキナが前へ出る。
すると。
彼女の身体を薄い光が包んだ。
次の瞬間。
木々の間を高速で駆け抜ける。
残像すら見えた。
「速っ!?」
数秒後。
元の場所へ戻ってくる。
「こんな感じですわ」
「す、すげぇ!」
シンもやる気になった。
「よし!」
剣より簡単そうだ!
体の中に流すだけだし!
そして。
魔力を巡らせる。
腕へ。
脚へ。
全身へ。
「おおおおお!!」
走り出す。
次の瞬間。
ズシャアアアアア!!
盛大に転んだ。
「痛ぁぁぁぁぁ!!」
顔面から地面へ突っ込む。
ゼノスが笑い転げた。
「ははははは!!」
「何でだよ!」
「脚だけ強化してる!」
「え?」
「上半身が追いついてませんわ」
ルキナが冷静に指摘する。
「バランスが滅茶苦茶です」
「難しすぎるだろ!」
バルバはニヤリと笑った。
「だから修行なんじゃ」
夕方になる頃には。
剣への魔力纏い。
そして身体強化。
どちらもまだ未熟ながら形になり始めていた。
汗だくになったシンは地面へ倒れ込む。
「疲れた……」
「今日はここまでじゃな」
シンは空を見上げた。
この世界に来て1週間。
魔法。
アルカナ。
魔王。
そして修行。
まだ分からないことだらけだ。
だが。
少しだけ。
強くなれている気がした。
そんなシンを見ながら。
バルバは小さく笑う。
「……順調じゃな」
誰にも聞こえないほど小さな声だった。




