第7話 「一投」
——2時間後
ゴッ
「ぎゃああああ!!」
——3時間後
ゴッ
「だから顔はやめろぉぉぉ!!」
——4時間後
ゴッ
「もう嫌だぁぁぁぁ!!」
——夕方
シンは地面へ大の字になっていた。
「もう無理……」
「まだじゃ」
「鬼か!」
バルバが石を拾う。
「最後の一投じゃ」
「絶対嘘だろ……」
疲労と諦めが交差する。
傷は回復されるが、体力と精神の限界だった。
「ほれ」
ブンッ!!
石が飛ぶ。
真っ直ぐ。
額へ向かって。
普通なら恐怖する。
避けようとする。
身構える。
だが——
(もうどうでもいい……)
その時だった。
スッ———
世界が静かになる。
風の音。
木々の揺れる音。
全てが遠くなる。
シン自身も気付いていない。
ただ心だけが妙に落ち着いていた。
飛んでくる石。
恐怖はない。
焦りもない。
何もない。
そして——
シンの『0』の刻印に淡い光が走った。
「!?」
バルバが目を見開く。
次の瞬間、シンの身体が勝手に動いた。
石を掴む。
踏み込む。
投げ返す。
全て一瞬。
本人の意思ではない。
まるで身体だけが最適解を知っているように。
ヒュゴォォォッ!!
「ぬおっ!?」
バルバの顔色が変わる。
直感で危険を察知した。
杖を構える。
しかし、遅い。
ドゴォォォォン!!
凄まじい衝撃と爆発音。
周囲には土煙が舞い上がる。
「師匠ぉぉぉ!?」
ゼノスが叫ぶ。
「なっ……!?」
ルキナも目を見開く。
土煙が晴れると、地面へめり込んだバルバの姿があった。
「いてててて……」
「生きてる!?」
シンが叫ぶ。
「生きとる……」
「今の何だ!?」
「わしが聞きたい」
「え?」
シンは自分の手を見る。
「俺……何もしてないぞ?」
「じゃろうな」
バルバがゆっくり立ち上がる。
そして、口元を吊り上げた。
「今のがアルカナの力じゃ」
シンの鼓動が速くなる。
「これが……俺の力……」
「いやはや、驚いたわい。ほんの一瞬じゃが、確かに発動した」
ゼノスが駆け寄る。
「すげぇじゃんシン!」
「いや俺も何が起きたか分かってねぇ!」
ルキナも近付いてくる。
「……確かに今のは異常でした」
「だろ!?」
「ですが」
ルキナは少しだけ微笑んだ。
「ようやく一歩前進ですわね」
シンは呆然と立ち尽くした。
だが胸の奥に確かな感覚が残っている。
あの瞬間、確かに何かが目覚めた。
この日は修行を終え、四人は洞窟へと戻った。
——洞窟内
「飯じゃー!!」
「待ってました!」
ゼノスが真っ先に走る。
「お前も来いよ!」
「言われなくても行く!」
——夕食
洞窟内はいつも通り騒がしかった。
ゼノスは山盛り三杯目。
バルバは上機嫌。
ルキナは呆れ顔。
そして、シンは——
「アルカナか……」
自分の手を見つめていた。
——食後の温泉
「生き返るぅぅぅ……」
「おっさんみたいな声出してるぞ」
——夜
ベッドへ倒れ込むシン。
「疲れた……」
瞼が重い。
すぐに意識が沈んでいく。
だが眠りに落ちる直前。
ふと思う。
(あの力……一体何なんだ……)
答えはまだ分からない。
けれど、確かなことが一つだけあった。
今日、自分は初めて、異世界で前へ進んだのだ。
そう考えながら、シンは静かに眠りへ落ちた。




