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プレナ・オートマティック  作者: 右子


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第5話 「温泉」

 夕食が終わった頃。

 シンは椅子にもたれかかっていた。


「食ったぁ……」


「だらしないですわね」


 ルキナが呆れたように言う。


「ここに来て、初日なんだぞ」


「関係ありません」


「厳しいな」


「はい」


 ルキナは紅茶を飲む。

 

「ところで、お前。どこから来たんだよ」


 ゼノスが問う。


「え? あぁ……」


 シンはバルバの顔を見る。

 こことは違う世界から来たと、正直に言っていいのだろうか。


「こやつは、別の世界から来たんじゃぞ」


 バルバは直球に答えた。


「えぇ! すげぇ! ん? ……別の世界ってどういことだ?」


 ゼノスはよく理解できなかった。


「外国の方ということでよろしいかしら」


 ルキナすら理解していない。


「あぁ……まぁ、そんなとこだ」


「そんなとこじゃ」


「ふーん」


 ルキナとゼノスが程よい返事をする。


(バルバめ、切り込んだくせに、適当にしやがって……)


 するとバルバが立ち上がった。


「さて」


「ん?」


「風呂じゃ」


「風呂!?」


 シンは思わず立ち上がる。


「あるのか!?」


「失礼ですわね」


 ルキナが眉をひそめた。


「文明人ですよ私たちは」


「いや洞窟だったからさ!」


「洞窟だからこそ必要なんじゃ」


(よかったぁ……てっきり川に水浴びにとかだと思った)


「先にどうぞ」


 ルキナが紅茶を飲みながら言う。


「分かった! 男ども! 行くぞ!」


 バルバはタオルを数枚肩に担ぎ、先導した。


「ついて来い!」


 ーー案内された場所には、天然の温泉があった。

 洞窟の奥から湧き出る湯が、石造りの浴槽に流れ込んでいる。


「おお……」


 シンは感動した。


「温泉だ……」


「温泉?」


「俺の故郷にもあるんだよ」


「へぇ」


 ゼノスは興味なさそうに服を脱ぎ始めた。


「よし入るぞ!」


「待て待て待て!」


「なんだ?」


「早い!」


 ゼノスは豪快に湯へ飛び込む。

 盛大な水しぶきが上がった。


「気持ちいいぞ!」


「お前猿か」


「ほっほっほ! 愉快じゃのお!」


 ーーしばらくして。


 風呂から上がったシンは髪を拭きながら廊下を歩いていた。

 その時。

 曲がり角から誰かが現れる。


「――っ」


「あ」


 ルキナだった。

 入浴後なのだろう。

 銀色の髪は少し濡れていて、普段より柔らかく見える。

 白い寝間着姿だった。


「……」


「……」


(やばい)


(近い)


(めちゃくちゃ近い)


 ルキナは不思議そうに首を傾げる。


「どうしました?」


「いや、別に」


「顔が赤いですが」


「風呂上がりだから!」


「そうですか」


 全然信じていない顔だった。

 そのままルキナは通り過ぎる。

 ふわりと花のような香りがした。

 シンはしばらく固まったままだった。


「……」


 ーー寝室へ戻ると。

 部屋には木製のベッドと机が置かれていた。


「おお……」


 思った以上にちゃんとしている。

 しかも新品だ。

 使われた形跡がほとんどない。


「シン」


 扉からバルバが顔を出す。


「どうじゃ?」


「普通に良い部屋だな」


「元々作ってあったからの」


「え?」


「いつか使う奴がおると思ってな」


「そのための部屋じゃ」


「俺のため?」


「さてな」


 そう言い残して去っていく。

 部屋に静寂が戻る。

 シンはベッドへ倒れ込んだ。

 今日一日で起きたことを思い出す。

 異世界。

 アルカナ。

 謎の刻印。

 スペス。

 そして。

 ルキナとゼノス。


「濃すぎるだろ……」


 そう呟きながら天井を見上げる。

 だが不思議と嫌な気分ではなかった。

 ここに来るまで感じていた孤独も、今は少し薄れている。

 目を閉じる。

 すると脳裏に浮かんだのは。

 傷だらけの青年の笑顔ではなく。

 銀髪の少女の姿だった。


「……寝よう」


 誰も聞いていない言い訳を呟く。

 異世界での最初の夜は、静かに更けていった。

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