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プレナ・オートマティック  作者: 右子


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第3話 「Waiting」

「ようこそ。アルカナ王国へ」


 バルバの言葉と共に、風が草原を駆け抜けた。

 シンは目の前の景色から目を離せない。

 巨大な城壁。

 空を飛ぶ見たことのない鳥の群れ。

 全てが現実離れしていた。


「本当に異世界なんだな……」


「今さらか」


「今さらだよ!」


 シンはため息を吐いた。

 正直まだ信じきれていない。

 だが目の前の光景が全てを否定していた。

 こんな場所、日本のどこにも存在しない。


「アルカナ王国って何なんだ?」


 シンは遠くの城壁を見ながら聞いた。


「このマグナ大陸最大の国家じゃ」


「マグナ大陸……」


 バルバは杖で王都を指した。


「人口はおよそ百万人」


「多いな」


「商人も職人も騎士も集まる大都市じゃ」


「へぇ……」


 少しだけ現実味が湧いてくる。

 本当に人が暮らしている世界なのだ。


「そういえば」


 シンはふと気付く。


「ん?」


「俺たち自己紹介してなくないか?」


 バルバが固まる。


「……」


「……」


「……完全に忘れておったわ」


 すると突然バルバが胸を張る。


「わしはバルバ・ケウス!」


「年齢は300歳じゃ!」


「3 ……300!?」


「趣味は昼寝と釣りと酒!」


「好きな食べ物は焼き魚!」


「嫌いな食べ物はスースクローファの肉!」


「……すー? すーくろ?」


「ちなみに初恋は初々しい17歳の頃での」


「その娘がまた美人でなぁ」


「銀髪での」


「胸も大きくての」


「わしに優しくての……」


「……じゃが振られた」


「それでわしは悲しみのあまり、夜な夜な涙の……」


「もういいよ!! 分かった!! 分かった!! 充分分かったから!!」


 バルバは満足そうに頷く。


「まぁそんな感じじゃ」


 シンは深くため息を吐く。


「で、お前さんは?」


「大和シン」


「ヤマトシン」


 バルバはその名前をゆっくり繰り返す。


「ふむ」


「良い名じゃな」


「そうか?」


「うむ」


「じゃあシンじゃな」


「好きに呼んでくれ」


 ーーしばらく話した後。


「なあ」


「なんじゃ」


「スペスはどんな奴だったんだ?」


 バルバは遠くを見つめる。


「馬鹿じゃったな、とんでもない馬鹿じゃ」


 そう言いながら笑っている。

 だがその笑顔には懐かしさが滲んでいた。


「無茶ばかりする」


「自分より他人を優先する」


「死にそうになっても笑っとる」


 バルバは肩をすくめる。


「救いようのない大馬鹿者じゃ」


「褒めてるのか?」


「もちろんじゃ」


「えらく知ってんだなスペスのこと」


 バルバの笑みが少しだけ薄くなる。


「親友じゃ」


「親友?」


「そうじゃ」


 シンは少し意外だった。

 てっきり勇者と賢者みたいな関係だと思っていた。


「会いたいのか?」


「会えたら一発殴る」


「は?」


「273年も待たせおって」


「それは確かに」


「それから酒を飲む」


「仲良いな」


「親友じゃからな」


 その声には少しだけ寂しさが混じっていた。

 ふと。

 シンは無意識にジャージの袖を引っ張った。

 少し大きめのサイズだったため、袖は指先近くまで隠れている。


 シンは右手を見る。

 そこには昔からある刻印。


『0』


 小さい頃からあった。

 気付いた時には既に。

 病院で診ても異常なし。

 親にもただの痣だろうと言われた。


「そういえば」


 シンは右手を見せる。


「これも関係あるのか?」


 その瞬間。

 バルバの動きが止まった。


「……」


「おい?」


「バルバ?」


 バルバはゆっくり近づく。


「その刻印……」


 声が震えていた。


「生まれつきか?」


「分からない」


「……分からない、じゃと?」


「気付いた時にはあった」


 バルバは深く息を吐いた。


「やはりか……」


「何がだよ」


「スペスも持っておった」


「……え?」


「同じ刻印じゃ」


 風が止まった気がした。


「この世界にはアルカナという力がある」


 バルバは静かに言う。


「魔法とは違う」


「魔法?」


「うむ」


 次の瞬間。

 バルバの指先に火が灯る。


 ボッ


「うおっ!?」


「驚くな」


 火は消え、今度は水球が現れる。


「これが魔法じゃ」


「本当に魔法かよ……」


「誰でも使える」


「誰でも?」


「才能は必要じゃがな」


 炎系の魔法が得意な人。

 水系の魔法が得意な人。

 風系の魔法が得意な人。

 他にも様々な魔法が存在する。


「じゃあアルカナは?」


 バルバの表情が変わる。


「選ばれた者だけが持つ奇跡じゃ」


 そして。

 シンの右手を見る。


「お前さんがここへ来たのは偶然じゃない」


「スペスはお前を待っていた」


 その言葉と同時に。


 ドクン


 右手の刻印が脈打った。


「っ!?」


 一瞬だけ。

 視界が白く染まる。

 ぼんやりとしてよく見えないが。

 傷だらけの青年。

 優しい笑顔。


『ようやく会えた』


 声が聞こえた気がした。

 しかし、次の瞬間には消えていた。


「今の……」


「どうした?」


 バルバは気付いていない。

 さっきの人物がスペスなのかは分からない。

 だが、シンだけは確信していた。

 自分とスペスは繋がっていると。

 なぜかは分からない。

 しかし、きっとこの右手の刻印が全ての鍵を握っている。

 シンは遠くに見えるアルカナ王国を見つめた。

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