第2話 「実感」
バルバに洞窟の奥に案内をされ、奥にある扉の中に入ると、さっきまで薄暗い洞窟にいたのが嘘かのように快適な空間が広がっていた。
驚いたのがほとんど現代の代物と相違ない物ばかりなことだ。広さは6畳程で、4つの木椅子とそれの真ん中に木机。隣には鉄製のラックがある。何よりこの世界観で違和感しか無い物が、キッチンとコンロ、冷蔵庫がある。そして、床のフローリング、天井と壁はどう見てもクロス張り、それに加えてダウンライトもある。先程までの光景とのギャップが凄すぎる。
扉が複数あることから、他にも部屋がありそうだ。
シンが部屋をキョロキョロ見ていると、バルバがおもむろにコンロに火をつける。
「飯作るから、そこの扉開けっぱにしといてくれ」
シンは言われた通り、扉を開ける。
おそらく換気のためだろう。近くにあったドアストッパーのような物で扉を押さえておく。
木椅子に座り、バルバの料理を待つ。
「ふん♩ふん♩ふーん♩」
バルバは陽気に鼻歌を歌いながら、手元に集中している。
シンはどこか落ち着きがないようで、手遊びや貧乏ゆすりをしている。
ーー数分後。
「できたぞー!」
トレーに乗せられたご馳走は、木の器に盛られたスクランブルエッグ?のような物と謎のスープ、そして何か分からないお茶のような物を出された。
「いただきますじゃ!」
「……いただきます」
木の器に盛られたスープを口に運ぶ。
「……うまい」
「じゃろ?」
ーーしばらくして。
シンは改めてバルバを見る。
白髪。長い髭。賢者のような服装。
なのにどこか胡散臭い。
「……で?」
「ん?」
「なんで俺はここにいるんだ」
「分からん。呼んだのはわしじゃない」
「じゃあ誰だよ!」
バルバは少し黙った。
そして静かに言う。
「スペスじゃ」
「スペス?」
「今から何100年も前の男じゃ」
「何100年?」
「うむ」
「待て待て待て」
シンは頭を抱える。
理解が追いつかない。
何百年も前の人間が自分を呼んだ?
意味が分からない。
「ある日突然、この洞窟に現れた」
「スペスって奴が?」
「そうじゃ」
「何者なんだ」
「勇者じゃ」
「……勇者?」
洞窟内の光景とバルバの容姿を見るに、そういう話が出ても違和感はないが……
言葉を詰まらせていると、バルバの方が先に言葉を発した。
「あやつは必死じゃった」
『必ず少年が来る』
『この魔法陣から』
『来たら力を貸してやってくれ』
「それだけ言って消えおった」
「……」
「わしも最初は信じとらんかった」
「そりゃそうだろ」
「じゃから待った」
「どれくらい?」
「273年」
「長ぇよ!!」
「普通諦めるだろ!」
「何度も諦めた」
「じゃあなんで」
「暇じゃったからの」
「絶対嘘だろ」
シンは聞く。
「俺はどうすればいい」
バルバは少し考えた。
そして、
「まずは外に出るか」
と言った。
ーー洞窟を出た瞬間。
シンは言葉を失う。
目の前に広がるのは巨大な世界。
遥か遠くには空へ届くほどの城壁。
空には見たこともない鳥。
二つの月がうっすらと見えている。
そしてーー
空を横切る巨大な影。
翼を持つ生物。
「……ドラゴン?」
その咆哮が世界を震わせる。
シンは呆然と立ち尽くした。
夢じゃない。映画でもない。ゲームでもない。
ここは本当に別の世界だ。
「ようこそ」
バルバが笑う。
「アルカナ王国へ」




