第1話 「目覚め」
ーー冷たい。
最初に感じたのは、それだった。
「……ん」
背中から伝わる冷気に顔をしかめながら、シンはゆっくりと目を開く。
黒い岩肌がゴツゴツと不揃いに空間を覆っており、ジメジメとした空気と時折聞こえる水滴が落ちる音。
ここは洞窟だったのだ。
「……は?」
寝起きの頭が一瞬で覚醒した。
勢いよく身体を起こし、周囲を見回す。
「な、なんだよここ……」
映画のセットではない、本物の洞窟だ。
地面には苔が生え、岩壁には自然にできた亀裂が走っている。
そして――
「……なんだこれ」
足元に目を向けたシンは思わず息を呑んだ。
青白く光る巨大な円。複雑な紋様。見たこともない文字列。まるでゲームや漫画に出てくるような魔法陣が自分を中心に描かれていた。
「夢か……?」
頬をつねる。痛い。普通に痛い。夢じゃない。
昨日は確か自分の部屋で寝たはずだった。
夕飯を食べて。スマホを触って。
そのままベッドに入って――
そこから先の記憶がない。
誘拐?監禁?ドッキリ?どれもしっくり来ない。
「意味分かんねぇ……」
その時だった。
視界の端に人影が映る。
「……人?」
洞窟の奥。
古びた木椅子に、1人の老人が腰掛けたまま眠っている。
長い白髪。胸元まで伸びた髭。灰色のローブ。
まるで賢者のような姿だ。
しかし、なんでこんな場所に老人がいるんだ。
恐る恐る近づく。
「お、おい」
返事なし。
「おーい」
返事なし。
「じいさん」
肩を揺する。
するとーー
「むにゃ……あと300年……」
「長ぇよ……」
シンが思わず呟くと老人の目が薄らと開いた。
そして、ゆっくりとシンを見上げるその瞳は、綺麗な黄金色の瞳をしている。シンの顔を見ながら老人は首を傾げた。
「……誰じゃ?」
「それはこっちの台詞だ!!」
「ほっほっほ。確かに」
杖を手に取りながら、老人が立ち上がる。
意外と背が高い。平均的な身長のシンと比べて、頭1つ分大きい。
(デケェ、190センチくらいありそうだぞ……このじいさん)
改めてシンの顔を覗き込んだ。
「ふむ」
1歩近づく。
「ふむふむ」
さらに近づく。
「近い近い近い!」
「ほっほっほ。」
後ずさりするシンを老人は、ニヤニヤと顎髭を撫でながら顔を見ていたが、何故かその笑みは徐々に消えていった。
「ほっほ……待っておったぞ」
「え?」
「長かった」
老人は静かに言った。
「本当に長かったわい」
老人は魔法陣へ視線を向ける。そして小さく呟いた。
「スペスよ……約束は果たしたぞ」
「……スペス?」
シンが聞き返すが、その問いに返答はない。
数秒の沈黙をしーー
ーー老人、バルバ・ケウスは再び笑顔に戻った。
「さて!」
勢いよく杖を振り上げる。
「まずは飯じゃな!」
「は?」
「腹が減っては世界も救えんからの!」
「待て待て待て!!」
「説明は飯を食いながらじゃ!」
「先に説明しろーーー!!」
シンの叫びが洞窟中に響き渡った。




