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プレナ・オートマティック  作者: 右子


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23/30

第23話 「最初の授業」

 翌朝。

 窓から差し込む朝日がシンの顔を照らした。


「……ん」


 ゆっくりと目を開ける。

 数秒、天井を見つめ——


「……」


 昨夜の出来事が脳裏によみがえった。

 思わず布団へ顔を埋める。


「くそぉ……ラクさん……会いずらいなぁ……」


 耳まで真っ赤になる。


「事故だ……事故だった……」


 そう自分へ言い聞かせながら何度も首を振る。


「……よし!」


 勢いよく起き上がる。


「今日から授業だ!」


 気持ちを切り替え、制服へ着替えた。


 ——一階食堂


 朝食を終えたシンは教室へ向かって歩いていた。


「ふぁぁ……」


 大きな欠伸が漏れる。


「眠そうですわね」


 聞き慣れた声だった。

 ルキナが隣へ並ぶ。


「まぁな」


 シンは苦笑する。


「ちょっと昨日色々あってさ」


「そう」


 ルキナは短く返事をする。

 その表情はどこか眠たげだった。


(ルキナも寝不足?)


 目の下にはほんの少しだけ疲れが見える。

 昨夜、何度もシンのことを思い出してしまい、なかなか寝付けなかったことなど本人しか知らない。


「ルキナも眠そうじゃね?」


「……少し寝不足なだけですわ」


「珍しいな」


「たまにはありますわ」


 ルキナは少しだけ視線を逸らした。

 そんな時だった。


「あ、おはようございます」


 前からラクが歩いてきた。

 今日も綺麗なメイド服姿。

 歩みに合わせて、胸元がふわりと揺れる。

 シンは何気なく視線を向け——


「……っ!」


 その揺れが目に入った瞬間、昨夜の出来事が脳裏へ鮮明によみがえる。


「!」


 一歩後ずさった。


「シ、シン様?」


 ラクも昨夜を思い出したのか、頬をほんのり赤く染める。


「お、おはようございます……」


「お、おはようございます!」


 二人ともどこかぎこちない。


「……?」


 隣にいたルキナが交互に二人を見た。


「何かあったの?」


「い、いや!」


「な、何でもございません!」


 二人の声がぴたりと重なる。


「……?」


 ルキナはさらに首を傾げる。


(何ですの、この二人……)


 ラクは照れ隠しをするように小さく微笑み、一礼した。


「今日から授業ですね。皆様、頑張ってください」


「は、はい!」


 ラクは静かに去っていく。

 その背中を見送りながら、シンは心の中で何度も自分に言い聞かせた。


(見るな俺……! 思い出すな俺……! 事故! あれは事故だからな!)


「……」


「本当に何もないの?」


 ルキナがじっと見てくる。


「な、何もない!」


「ふーん……」


 どこか納得していない様子だった。


 ——教室


「おはようネ!」


 メイリンが元気よく手を振る。


「おう」


「眠そうだね」


 ウルが笑う。


「昨日寝るの遅かった?」


「まぁな」


「私も少し眠いです……」


 ソフィアも口元を隠しながら軽くあくびをした。


「私はぐっすりだった」


 プルはいつも通り落ち着いている。


「……私はいつでも眠いぃ」


 クロエは机へ突っ伏した。


「シン! レディ達、おはよう!」


 フェリックスが爽やかに現れる。


「今日も皆、美しい!」


「朝から元気だな」


 シンが笑う。


「当然だ!」


 そんな会話をしていると——


 ガラッ


「おはよう諸君!」


 勢いよく扉が開いた。

 ピエトロ・カーニバルだった。


「おはようございます!」


 全員が席へ着く。

 ピエトロは教壇へ立つと、ニヤリと笑う。


「今日から授業が始まる!」


 教室の空気が少し引き締まる。


「まず一時間目は——」


 くるりと黒板の前へ回り込み、大きく書く。


「歴史学だ!」


 チョークを置き、振り返る。


「そして、担当教師は——」


 胸へ親指を向ける。


「この僕! ピエトロ・カーニバルだ!」


 ニッと笑う。


「校長先生なのに授業もやるんですか?」


 ウルが思わず手を挙げる。


「もちろん!」


 ピエトロは大きく頷いた。


「僕は校長だからね! 校長室で座ってるだけなんて退屈で仕方ない! だから一年生の歴史学は毎年、僕が担当している! よろしくね!」


「よろしくお願いします」


 生徒たちが頭を下げる。

 シンも慌てて続く。


(校長が授業する学校なんて初めてだ……)


 ピエトロは満足そうに頷くと、再び黒板へ向き直った。


「さて。歴史と言っても、全部話していたら3年あっても終わらない。だから今日は、魔剣士なら必ず知っておかなければならない3つの出来事を話そう。まぁ、この国で育った君たちは知っている内容ばかりだろうがね」


 そう言うと、黒板へ向かった。

 チョークを持ち、大きく数字を書く。


 596年前


 273年前


 100年前


「この三つの年代。これだけは魔剣士になるなら必ず覚えてもらう」


 シンも真剣な表情になる。

 ピエトロは最初の数字を指した。


「596年前。この世界へ最初の魔王が現れた」


 教室が静まり返る。


「当時、人類には魔王へ対抗する術はなかった。多くの命が奪われ、世界は滅亡寸前まで追い込まれた。そして、この危機を救ったのが、一人の旅人。勇者エト・ケトラだ」


 その名前に生徒達は静かに頷く。


「エトは魔王を討伐したあと、こう考えた」


『次に魔王が現れた時、人々が自ら戦える世界を作ろう』


「その答えとして生み出されたのが——アルカナだ」


 シンは無意識に右手の甲へ目を落とす。

 制服に隠れた”0”の刻印。


(俺の力も……)


「エトは22のアルカナを創り出した」


「そして旅の途中、小さな村へ立ち寄り、その村人達へアルカナを授けた。その村こそ、後のアルカナ王国となる」


(なるほど……)


 シンは静かに頷いた。

 続いて二つ目の年代へ移る。


「273年前。二度目の魔王が現れた。これを討伐したのが勇者スペス・グラディウス。彼は王国最強の部隊、『王立黄金騎士団』を率いて魔王へ挑み、見事討伐を果たした」


 ピエトロは一度言葉を区切った。


「しかし、その直後。勇者スペスは姿を消した。黄金騎士団の生き残りは国王へこう報告している」


『魔王は勇者スペスによって討伐されました。しかし、勇者スペスもまた姿を消しました』


「それ以来、勇者スペスの行方は誰にも分かっていない」


 シンは小さく目を見開いた。


(スペス……)


 ふと、洞窟での会話が蘇る。


『必ず少年が来る』


『この魔法陣から』


『来たら力を貸してやってくれ』


『どれくらい待った?』


『273年』


 バルバは確かに「勇者」と呼んでいた。

 そして、ピエトロの話でも273年前に姿を消した勇者の名は、スペス・グラディウス。


(……そうだ、絶対。バルバの言っていたスペスだ)


 だがそれ以上のことは分からない。

 なぜ姿を消したのか。

 なぜバルバの前へ現れたのか。

 なぜ俺を待っていたのか。

 疑問だけが、静かに積み重なっていった。

 シンは静かに話を聞いていた。

 誰も知らない。

 その真実が、今なお生き続けていることを。

 最後に、ピエトロは三つ目の年代を指す。


「100年前。魔王が再び復活した。世界中へ魔物が溢れ、この時代は『大侵攻』と呼ばれている。当時、多くの国が存在していた。だが、そのほとんどが滅びた。生き残った人々は唯一残されたアルカナ王国へ集まり、今のこの国がある。そして最後に——」


 ピエトロは笑みを浮かべる。


「エト・ケトラには、もう一つ有名な伝説がある」


 教室中の視線が集まる。


「彼は研究の末、不死の魔法を完成させ、自らへ施したと言われている。つまり——エトは今も、この世界のどこかで生きているという説がある」


「えぇっ!?」


 ウルが思わず声を上げた。


「もちろん伝説として扱う学者もいる。だが現在でも、不死の魔法を研究する者は後を絶たない。そして、エト本人を探す者もいる。しかし——」


 ピエトロは肩をすくめた。


「エトは姿を自在に変える魔法まで使えたとも伝えられている。だから今日まで、誰一人として見つけられていない」


 教室は静まり返っていた。


「……さて」


 ピエトロはチョークを置き、笑顔を浮かべる。


「これで歴史の授業は終わり!」


「次は魔剣士にとって最も重要な基礎——魔力学だ!」


 その言葉に、生徒たちの表情が一斉に引き締まった。

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