第17話 「クラスメイト」
シンは扉を見上げる。
『第一学年 魔剣士科A組』
金色の文字が刻まれていた。
「いよいよですわね」
「あぁ」
シンは小さく頷いた。
そして、扉を開く。
ガラッ
教室の中には既に何人か集まっていた。
「おぉ……」
シンは教室を見渡す。
薄紫色の髪の少女。
黒髪のお団子頭の少女。
赤髪のツインテールの少女。
金髪で上品そうな少女。
赤髪の男。
そして、先程出会ったクロエ。
「あ、シンくんだぁ」
クロエが手を振る。
「おう」
シンも軽く手を上げた。
クロエは嬉しそうだった。
黒板を見ると座席の絵と名前が書かれいる。
生徒達は黒板を確認してそれぞれ席に散らばった。
「隣ですわね」
「そうだな」
すると——
「ふふっ」
後ろから聞き覚えのある声。
振り返ると、クロエだった。
「やったぁシンくんの後ろだぁ」
クロエは嬉しそうに笑うと、そのままシンの真後ろの席へ腰を下ろした。
「よろしくねぇ」
「よろしく」
シンが軽く返す。
クロエは満足そうに頷いた。
「えへへ」
その様子を見ていたルキナは、小さく息を吐く。
「後ろでしたのね」
「そうみたいだな」
「……まぁ、後ろなら問題ありませんわ」
「何が?」
「なんでもありません」
そう言うと、ルキナは静かにシンの隣へ腰を下ろした。
鞄を机の横へ掛け、制服を軽く整える。
「改めて、三年間よろしくお願いしますわ」
ルキナは小さく微笑んだ。
「あぁ、よろしく」
シンも笑って答える。
すると——
「仲良しだねぇ」
後ろからクロエが身を乗り出し、ひょこっと顔を出した。
「いいなぁ」
「なんだよ」
「ううん」
クロエはふわりと笑う。
「これからはわたしも混ぜてねー」
その言葉にシンは少しだけ苦笑する。
「賑やかになりそうだ」
「その通りですわ」
ルキナも小さく笑ったが、その笑みはどこか固い。
「あの……あまり、後ろから話しかけすぎないでくださいね」
「え?」
クロエがきょとんとする。
「授業の妨げになりますし……それに」
ルキナは一瞬だけシンの方を見て、すぐに視線を逸らした。
クロエがにやにやと笑う。
「ルキナちゃん、もしかしてやきもち?」
「ち、違いますわ!」
即座に否定するルキナだったが、耳の先がほんのり赤い。
「ただ、節度の問題です」
「ふふっ、そっかぁ」
クロエは楽しそうに笑う。
「じゃあ、ほどほどにするねぇ」
「……そうしていただけると助かりますわ」
ルキナは小さく咳払いをして、姿勢を正した。
だがその後も、ちらりと後ろを気にする視線は隠しきれていなかった。
その時——
ガラッ
再び扉が開いた。
「やぁ!」
聞き覚えのある声。
全員が振り返る。
そこにいたのは。
先程まで入学式で話していた男。
ピエトロ・カーニバルであった。
「校長先生!?」
シンが思わず叫んだ。
そして、微笑みながらピエトロは教壇へ上がる。
「おっほん。さて諸君!」
両手を広げる。
「改めてようこそ魔剣士科A組へ! 私が担任を務める! ピエトロ・カーニバルだ!」
教室が静まる。
「え? 担任なんですか?」
シンが固まる。
「そうだよ」
「校長先生なのにですか?」
「そうだよ」
(校長が担任なんて聞いたことねぇぞ……)
ピエトロは教壇に両手を置きニヤニヤと笑っている。
「まぁまぁ! 細かいことは気にしない! 君達はたった8人しかいない。だから私が直接見ることにした!」
さらっと言ったが。
それは相当な特別扱いだった。
ルキナも少し驚いた顔をしている。
「それでは自己紹介だ!」
ピエトロは名簿を見る。
「前から順番! 長すぎる自己紹介は禁止!」
「校長先生みたいな感じですか?」
誰かが言った。
「そう!」
即答だった。
「では始めよう! スターートッ!」
ピエトロの合図とともに。
窓際の席から、一人の少女がゆっくりと立ち上がる。
薄紫色のショートボブ。
そして、左目を覆う黒い眼帯。
教室の視線が自然とそこへ集まる。
「プル・プルプラだ」
静かな声で名乗る。
眼帯に軽く指を添え、少しだけ笑った。
「気になる人もいると思うけど……これはただの飾りじゃない」
一瞬だけ教室が静まり返る。
「まぁ、その話はまた今度だな」
どこか肩の力が抜けたように笑う。
「本と甘いものが好きだ。3年間、よろしくな」
数秒の沈黙。
そして、ピエトロが満足そうに頷く。
「うん、100点! 謎を残して締めるとは、なかなかやるじゃないか!」
柔らかく微笑み、そのまま席へ腰を下ろした。
続いて、プルの隣。
黒髪のお団子少女が勢いよく立ち上がる。
「メイリンだヨ! 好きなものはご飯ネ! 嫌いなものはお腹が空くこと! 皆仲良くするヨ!」
ピエトロが頷く。
「素晴らしい! 人生で大事なことだ!」
「そうネ!」
メイリンは元気よく座った。
続いて、プルの後ろ。
小柄な少女が赤いツインテールを揺らしながら、立ち上がった。
胸を張っているが、座っている時とあまり身長が変わらなかった。
「ウル・イグニスだよ!」
元気よく名乗る。
「好きなものはお菓子! 嫌いなものは野菜!」
メイリンが嬉しそうに頷いた。
「仲間ネ!」
「仲間!」
なぜか意気投合していた。
「あと!」
ウルは人差し指を立てる。
「子供扱いは禁止だからね! 大事なことだからもう1回言うよ! 子供扱いは禁止!」
「誰もしてませんわ」
ルキナが言う。
「でも思ったでしょ!」
「思ってません」
「絶対思った!」
シンが思わず吹き出す。
「気にしてるんだな」
「気にしてない!」
ウルは頬を膨らませた。
そして、咳払いをする。
「まぁ8人しかいないし! 仲良くしてあげてもいいよ!」
少しだけ偉そうに笑った。
「よろしくね!」
そう言って座る。
ピエトロが満足そうに頷いた。
「うんうん! 元気があって大変よろしい!」
続いて、ウルの隣。
長い金色の髪を揺らし、一人の少女が静かに立ち上がった。
姿勢は美しく、どこか上品な雰囲気を纏っている。
丁寧に一礼した。
「ソフィア・ベルモントです。好きなものは紅茶と読書。夢は、誰からも尊敬される立派な淑女になることです」
そう言うと、少しだけ照れくさそうに笑う。
「平民なので、まだまだ勉強することばかりですが……」
一呼吸置く。
「この学園でたくさんのことを学びたいと思っています」
そして、教室を見回し、優しく微笑んだ。
「皆さん、これからよろしくお願いいたします」
綺麗に頭を下げる。
すると、ピエトロが満足そうに頷いた。
「実に素晴らしい! 礼儀も姿勢も100点だ!」
「ありがとうございます」
ソフィアは嬉しそうに微笑む。
そして、席へ戻ろうと椅子を引いたが、足が止まる。
「……」
ルキナを見つめていた。
「あ、あの……」
「はい?」
「すごく綺麗ですね!」
「あ、ありがとうございます」
ソフィアは顔を赤くし席に座った。
ルキナは小さく首を傾げていた。
そして、立ち上がる。
「ルキナ・アルテシアです」
綺麗なお辞儀。
「趣味は読書と剣術。よろしくお願いいたします」
簡潔。
だがそれだけで絵になった。
「綺麗……」
女子達の声が聞こえる。
ソフィアなど目を輝かせていた。
「まるでお姫様だね!」
ピエトロが言う。
ルキナの肩がぴくりと動いた。
それを見てシンが少し笑う。
「シン」
「なんでもないです」
即答した。
そして、シンは立ち上がる。
「ヤマト・シンです。好きなものは昼寝と食べること。よろしく」
簡潔だった。
「短くてよろしい!」
シンは頷きながら座った。
そして、赤髪の男が勢いよく立ち上がる。
バッと髪をかき上げた。
「あ、順番」
ピエトロが指摘しようとする。
流れでいうと次はクロエの番だが——
「初めまして、フェリックス・ルージュだ! こうして諸君と同じ教室になれたことを、とても嬉しく思う! 好きなものは強者! そして努力をする者! 私はそういう人間を見ると胸が熱くなる!」
熱量がすごかった。
「この学園にはきっと私より強い者もいるだろう! 私より才能のある者もいるだろう! だからこそ楽しみだ!」
フェリックスは教室全体を見回し頷く。
「諸君! いつか互いに剣を交えよう! 競い合おう! 高め合おう! 卒業する頃には! この八人全員が王国を代表する剣士になっている!」
フェリックスは力強く拳を握る。
「私はそう信じている! 三年間よろしく頼む!」
深々と頭を下げた。
教室が少し静まり返る。
すると、ピエトロが嬉しそうに拍手を始めた。
「素晴らしい!」
パチパチパチ
「実に熱い!」
「ありがとうございます!」
フェリックスは嬉しそうに笑う。
ピエトロは腕を組み、満足そうに頷いた。
「君はきっと、このクラスの空気を盛り上げてくれるね」
「お任せください!」
フェリックスは即答した。
「その期待、必ず応えてみせます!」
「うん!」
ピエトロは笑う。
「君は暑苦しいくらいがちょうどいい!」
「最高の褒め言葉です!」
フェリックスは胸を張った。
シンはそのやり取りを見て苦笑する。
「……なんかすげぇ熱いやつだな」
「ですわね」
ルキナも小さく頷いた。
フェリックスは元気よく着席した。
そして、最後にクロエが立ち上がる。
「はぁい」
気だるそうだった。
「クロエ・アビスだよぉ。好きなものは昼寝ぇ。嫌いなものは面倒くさいことぉ」
やる気がない。
だが不思議と目を引く。
「あとぉ」
クロエは教室を見回す。
そして、シンを見る。
「シンくんが好きぃ」
「は?」
教室が静まる。
ルキナが固まる。
フェリックスが立ち上がる。
「なんとぉ!?」
クロエはにこりと笑った。
ルキナの眉がぴくりと動く。
ピエトロは大爆笑していた。
「はっはっはっは! 面白い!」
「校長先生!」
「すまない!」
全然すまなそうだった。
シンは額を押さえる。
なんだか、とんでもない学園生活になりそうだった。




