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プレナ・オートマティック  作者: 右子


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第11話 「お嬢様の選んだ道」

 ジミーとの騒動を終えた後。

 シンとルキナは少し急ぎ足で試験会場へ向かっていた。


「間に合うか?」


「ギリギリですわね」


「お前、全然焦ってないだろ」


「焦っても仕方ありませんもの」


「その余裕どこから来るんだよ……」


 そんな会話をしながら街を抜ける。

 そして。

 二人の目の前に現れた。

 巨大な円形闘技場。

 まるで古代のコロシアム。

 石造りの巨大建築。

 数万人は入れそうな観客席。

 そこには既に多くの人が集まっていた。

 受験生。

 観客。

 商人。

 騎士。

 様々な人々が試験開始を待っている。


「すげぇ……」


 シンは思わず見上げた。


「学校の入試だよな?」


「オルド・アルカナ学園ですから」


「規模がおかしいだろ……」


 ルキナは当たり前のように歩く。

 その時。

 会場中央から声が響いた。


「次の受験者」


 ゆっくりと現れた男。

 細身。

 長い白髪を後ろで束ねている。

 腰まで届く白髭。

 銀色の甲冑。

 だが動きに一切の無駄がない。

 老いてなお鋭い眼光。

 観客がざわめく。


「アモル様だ」


「今年も試験官か」


「相変わらず恐ろしいな……」


 シンは首を傾げた。


「有名人?」


「ええ」


 ルキナの顔が少し固まる。


「アモル・フィディス」


「王国騎士団元副団長」


「現在は王家直属の執事長です」


「へぇ」


「そして……」


 ルキナが言葉を止めた。

 その時だった。

 フィディスが観客席を見回す。

 そして。

 目が止まった。


「…………」


 ルキナ。


「…………」 


 フィディス。


 数秒の沈黙。

 そして。


「お嬢様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 会場全体に響き渡る大絶叫。


「!?」


「え!?」


「誰だ!?」


 観客席が騒然となる。

 フィディスは全力疾走。

 ありえない速度。

 一瞬で二人の前へ到達した。


「どこへ行っておられたのですか!!」


「私は心配で!!」


「心配で!!」


「胃に穴が3つ空きましたぞ!!」


「お久しぶりですわね」


 ルキナは平然。


「平然としておられる場合ですか!!」


「王妃様も泣いておられましたぞ!!」


「お父様もお兄様も!!」


「帰って来いと言っております!!」


 シンは完全に置いてけぼりだった。


「え?」


「お嬢様?」


「何?」


 ルキナはため息を吐く。


「紹介しますわ」


「私の昔からの執事」


「アモル・フィディスです」


「執事!?」


「そして」


 ルキナは少しだけ視線を逸らした。


「私の旧姓は、ルキナ・アルテシア・レクス」


「…………は?」


 シンが固まる。


「レクス?」


「王家の性ですわ」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 観客まで振り返るほどの叫びだった。

 その後。

 試験開始まで少し時間があった。

 観客席。

 シンは事情を聞いていた。

 ルキナは静かに語る。

 幼い頃から剣が好きだったこと。

 騎士になりたかったこと。

 だが王族の娘として反対されたこと。


「女だからではありません」


「王族だからです」


 王族は守られる側。

 戦う必要はない。

 そう言われ続けた。

 しかし。

 ルキナは納得できなかった。


「守られるだけなんて嫌でしたの」


 だから家を出た。

 だから旅に出た。

 だからバルバに弟子入りした。


「後悔は?」


 シンが聞く。

 ルキナは即答した。


「ありませんわ」


 その目に迷いはなかった。

 そして。

 試験開始。


「受験番号27番」


「ルキナ・アルテシア」


 会場がざわつく。

 フィディスが中央へ立つ。

 木剣を構える。


「帰って来ていただくつもりでしたが」


「まずは試験官として」


 フィディスも木剣を構える。


「成長を見せていただきましょう」


 ルキナが笑う。

 珍しく。

 本当に楽しそうに。


「望むところですわ」


「始め!」

 

 その瞬間。

 フィディスが消えた。


「っ!?」


 観客席がどよめく。

 次の瞬間には。

 既にルキナの目前。

 木剣が振り下ろされていた。


 ガァン!!


 ルキナが受ける。

 石畳が砕ける。

 衝撃で砂埃が舞う。


「相変わらずですね」


 フィディスが笑う。


「初手から全力ですの?」


「手加減など失礼でしょう」


 再び激突。


 ガガガガガガッ!!


 木剣同士が火花を散らす。

 観客席が沸く。


「速い!」


「本当に木剣か!?」


「見えねぇ!」


 シンも驚いていた。


「なんだあれ……」


 今まで一緒に修行をしていた。

 だが。

 こんなルキナは見たことがない。

 フィディスが突きを放つ。

 喉。

 胸。

 肩。

 膝。

 一切無駄のない連続攻撃。

 だが。


「甘いですわ」


 ルキナは全て捌く。

 流す。

 逸らす。

 受けない。


「ほう……」


 フィディスの目が細くなる。


「私の剣を完全に覚えておられますな」


「当然ですわ」


 ルキナが踏み込む。


「教えてくださったのは貴方ですもの」


 ガァン!!


 初めてフィディスが後退する。

 観客席がざわめく。


「アモル様が押された!?」


「ありえん!」


 フィディスは笑った。

 心底嬉しそうに。


「素晴らしい……」


 だが次の瞬間。

 空気が変わる。


「では……」


「ここからは本気です」


 ドン!!


 石畳が砕ける。

 フィディスが突進。

 まるで弾丸。


「っ!」


 ルキナの頬を木剣が掠める。

 髪が数本宙を舞う。

 観客席が息を呑む。


「避けましたか」


「危なっ……」


 初めてルキナの表情が崩れる。

 フィディスは止まらない。

 連撃。

 連撃。

 連撃。


 ガガガガガガガガガッ!!


 まるで嵐。

 防戦一方になるルキナ。

 シンは思わず拳を握った。


「ルキナ……!」


 だが。

 ルキナは笑っていた。


「やっとですわね」


「?」


 フィディスが目を見開く。


「私が家を出た理由」


 一歩。

 踏み込む。


「覚えておりますか?」


 二歩。


「守られるだけの人生なんて」


 三歩。


「私は嫌だったんですの」


 ガァン!!


 剣を弾く。


「だから私は!」


 踏み込み。


「戦う道を選んだ!!」


 渾身の一撃。


 バキィィィン!!


 フィディスの木剣が真っ二つに折れる。

 静寂。

 誰も声を出せない。

 折れた木剣が地面へ落ちる。


 カラン。


 フィディスはしばらく黙る。

 そして。

 優しく笑った。

 昔の小さな少女を思い出すように。


「本当に……」

 

「本当に強くなられましたな」


 ルキナの目が少し潤む。


「ええ」


 フィディスは木剣を捨てた。

 そして。

 会場全体へ向けて宣言する。


「合格です」


 大歓声。


「ルキナ・アルテシア・レクス様」


「いや――」


「ルキナ・アルテシア」


 フィディスは深く頭を下げた。


「貴女はもう」


「誰かに守られるだけのお嬢様ではありません」


「貴女は立派な剣士になられました」


 ルキナは少しだけ目を見開く。

 そして。

 微笑んだ。


「ありがとう」


 それは。

 シンですら初めて見る。

 心からの笑顔だった。

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