テディベア その22
前回投稿した『その21』の続きをお届けします。
それではごゆっくりご覧下さい。
「私、前から思ってたんだよ、SVBってフミエのトレードマークみたいだなって。」
「ええ、そう・・・?」
メジャーデビューから数ヶ月後に決行したツアー中、会場であるライブハウスの近くに所在する楽器店にて販売されていたSVBを試奏したのを切っ掛けに購入に至ったフミエ。
以後、加入当初から使用していたプレシジョンベースに代わりフミエのメインベースとなったのだった。
そういった経緯も有ってかカヤは前々から抱いていた思いの丈を口にするとフミエは謙遜する様にも見える反応を示す。
「あ、それ分かりますよ。何年か前に宣伝用のポスターやチラシにも起用されてましたしね。なんなら俺、専門学校の頃、楽器屋や練習スタジオでフミエさんのポスター見かけましたよ。」
2人のやり取りを受け先のカヤの言葉に共感した上でサノはバンドに加入する以前の専門学校時代、フミエがSVBを演奏している姿を収めた写真を用いて配布された広告用のポスターを目にしていたエピソードを披露した。
「同業者でも『フミエさんが弾いているから』っていう理由でSVBを買った子が居るぐらいだから『トレードマーク』って言っても過言じゃないと思うぜ。」
先刻まで安藤によって言い寄られていたコバヤシも彼女の隙をつきフミエへ所感を述べた。
メンバー達の言葉を踏まえフミエは愛器のヤマハ SVB-550をギタースタンドに立て掛け退室したラージブースの方へ一旦目を向けた後、デリバリーの弁当を食べ始めるのだった。
此処で元の時間に戻す事にしよう。
リビングにてディアに扮し、モカへと語り掛けるモモだったがその内容はあからさまに自分を持ち上げる様なものであった。
放っておけば更にエスカレートするであろうと判断したモカは相棒による暴走を阻止すべくテディベアの背後へと歩み寄ると此方の存在に一向に気付く様子の無いモモへこんな言葉を掛けた。
「ちょっと、モモ。自分の事、滅茶苦茶良い風に言おうとしてない?」
「はにゃっ!?モカ、何時の間に・・・。」
「もう、モモってば・・・。」
モカの存在に気付き吃驚したモモは程無くして的確な指摘をされた事により少しバツが悪そうにする。
片やそんなモモを目の当たりにし、モカは今の気持ちを集約するかの様な一言を述べるに留めた。
「そうは言うけど、モカだってディアのフリして自分の事、盛ってたでしょ?」
「ふにゃっ。ああ、そ、そう言えばそうだったっけ・・・。」
数分前、クマのぬいぐるみに扮して自分に向け語り掛けていたのにも拘らずそれを棚に上げるかの如く呆れた表情を浮かべるモカにモモは反論としてたった今抱いたばかりの意見を述べる。
するとモカは拙いところを突かれたと言わんばかりに視線を反らすとそれ以上の追言を控えるのであった。
互いに指摘し合うところは有ったもののクマのぬいぐるみに扮して会話をするという遊びをそれなりに満喫したふたり。
そして、再びテディベアに目を向けるとふたりしてその容姿を黙って見詰め始めた。
愛らしい表情。
ポッコリと膨れた腹。
赤子の握りこぶし程の尻尾。
それ等のフォルムを目視した上でモカはテディベアの腹部を何度か優しく押す様にして触れる。
「それにしてもディアってモフモフしてとっても柔らかいなぁ。」
「ちょっとモカ、気を付けてよ。あんまり触るとディアがボロボロになっちゃうかも知れないわよ。」
「平気だよ、爪を立てない様にしてるから。それよりモモ、あなたも触ってみなよ?すっごく柔らかいよ。」
何かの拍子に表面の繊維が破れ中に詰め込まれた綿が出て来る事を危惧し、モモはモカに忠告を施す。
それを受けモカはその忠告をあしらうと自分と同じく腹部を触ってみる様に促す。
「ええ?でも、良いのかしら?」
「大丈夫だよ。あたしみたいに爪を立てなきゃ問題無いよ。」
躊躇う様子を見せるもモカに諭された事でモモは恐る恐るテディベアの腹部に触れる。
そこから何度か撫でる様にして感触を確かめるとその柔らかさに目を見張るのであった。
「はにゃぁ、モカの言う通りとっても柔らかいわぁ。」
「でしょ、でしょ?」
モモが自分の言う事に共感している様に思えたのか心成しか喜びに似た感情を覚えるモカ。
すると今度は体位を180度回転させるとゆっくりとテディベアの腹部に頭を乗せた。
「ふにゃぁ、気持ち良いなぁ。」
「・・・・・・。」
後頭部から伝わる柔らかさにモカは心地良さを感じる一方でモモはその光景をどこか羨ましそうに見る。
するとそれを察知したらしいモカは何気無い感じを装いモモに声を掛ける。
「頭乗せてみなよ、モモ。凄く気持ち良いよ。」
やや戸惑う素振りを見せるも先刻までとは違いモカに素直に従う形でモモは仰向けの状態になりテディベアの腹部に頭を乗せた。
「はにゃぁ、本当だわぁ。触り心地も良かったけどこうして頭を乗せてみるともっと良い気持ちね。」
モモがそんな感想を口にする中、テディベアの腹部に乗せている頭を時折、無造作に動かしつつも2匹の子ネコは寄り添う様にしてその心地良さを共有し合う。
するとまたもや何処からともなく何者かによる声がモモの耳へと届いた。
「《うっ、重い・・・。》」
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