テディベア その23
前回投稿した『その22』の続きをお届けします。
それではごゆっくりご覧下さい。
モカに促される形でテディベアの腹の上に後頭部を乗せるモモ。
隣同士で寝そべりつつその柔らかさを確かめるかの如く頭を動かしていると何処からともなく何者かの声がモモの耳へと届いたのだった。
「はにゃ?モカ。今、何か声が聞こえなかった?」
「ふにゃっ?別に何も聞こえなかったよ。」
「そ、そう・・・。(気のせいかしら・・・?)」
根拠は無いが何となく聞き覚えるの有る声について真相を探るべくモモは条件反射的に左側に首を傾けると相変わらず後頭部越しにてテディベアの柔らかい感触を堪能しているモカへ尋ねる。
だが、これに関してもモカの耳には届いていなかったらしくモモは自分の想い違いであったという解釈をし、やり過ごす事にした。
そんな中、満腹感との相乗効果も有り鬱陶しい程の睡魔がふたりの思考を支配し始める。
「それにしてもあたし何だか眠くなって来ちゃった。」
「そう言えばあたし達、今日はまだお昼寝してなかったわね。」
その会話の後、欠伸を1回ずつさせたふたりは揃って瞼を閉ざすとディアの腹部に頭を乗せたまま眠りへと落ちるのだった。
一方、愛猫達が忘年会の景品で手に入れたテディベアの腹部を枕代わりに昼寝をし始めた事等知る由も無い飼い主のフミエは午前中に引き続き所属するバンドが翌年にリリースを目指しているアルバムのレコーディングに勤しんでいた。
「なぁ、今日は割と進んだし、早めに終わろうか?」
時刻は午後3時。
小休憩の時間となった事に加えレコーディングの進行具合を見た上でフロントマンであるコバヤシはコントロールルームからラージブースに居るバンドのリズム隊であるフミエとサノへそんな提案を投げ掛けた。
「うん、良いんじゃない。」
「そうですね、偶にはそうしましょう。」
「早く帰って家でのんびりするのも悪く無いかもね。」
昨日、所属するレコード会社の忘年会に参加した事も関係してかフミエとサノをはじめコントロールルームに居るカヤ、更にはレコーディングスタッフ達も特に反対する様子も無くコバヤシの提案に二つ返事で承諾するのだった。
「ところであんた達、帰りはどうする?なんなら私、家の近くまで送って行くけど?」
忘年会の翌日という事で遅刻して来るのではないかと予知し、事務所の社用車でマネジメントを担当するバンドメンバー達をスタジオまで送り届けた安藤は帰りも同様に夫々の自宅付近までの送迎を買って出る。
「ああ、安藤さん。ゴメンだけど私、バスで帰るからいいよ。それにちょっと寄りたい所が有るし。」
「俺も行きつけのカフェに行って珈琲豆を買ってから帰ろうと思うんで大丈夫です。」
折角のマネージャーからの厚意ではあるがカヤとサノは済まなそうにしながらもそれを丁寧に断ると安藤はミュージシャンである前に年相応の若者である彼等のプライベートを大事にすべきという想いから特に気にした素振りも見せず「そう。」と一言だけ返答すると今度は視線をコバヤシの方へと向けこんな言葉を口にする。
「という事は、送っていくのはフミエとコバヤシだけね。」
「ええ?安藤さん。俺まだ何も言ってないのに!」
マネージャーの独断にコバヤシは驚きながらも咄嗟にまだ送迎が必要か否かの返答を出していない旨の意見を述べる。
すると安藤はギロリとした目付きをさせると声のトーンを低くする事を意識し、コバヤシへこう問いかける。
「コバヤシ。あんた今朝、二日酔い丸出しの状態だったわよね?」
「あ、いやぁ、そういえばそうだったっけ・・・。」
昨晩の忘年会にて三次会まで参加した事が原因で二日酔いとなってしまったコバヤシ。
安藤が事務所の社用車にて自宅まで迎えに来た為、遅刻は免れたが彼女の厚意が無ければ最悪の場合、レコーディングに『穴』をあけていた可能性も有ったであろう。
「今、レコーディングの真っ最中なのよ?今日はフミエとサノのパートを中心に録っていったから何とかなったけど、あんたのパート録りだったらどうなっていた事か・・・。」
「うっ!?」
朧気ながらも今朝の出来事が頭の中でフラッシュバックした事で顔が青ざめ始めるコバヤシを他所に淡々とした口調で自身の意見を述べていく安藤。
そんなマネージャーにコバヤシは一瞬、言葉を詰まらせるもその事に気付かないフリをしている安藤は引き続き彼に対し意見を述べる。
「あと、『暫く酒止める』とか言ってたけど、あんたの事だから絶対誰かとどっか飲みに行くかもしれないしね?」
「安藤さん、俺どんだけ信用されてないんだよ?」
「信用してるわよ。だからこうして心配してるんじゃない。」
安藤の的確な指摘に慄くもせめてもの抵抗とまではいかないものの申し訳程度に反論を試みるコバヤシ。
だが、それも虚しく安藤は相変わらずコバヤシへ向け圧を掛ける様な(本人にとっては愛の籠った)言葉を放つ。
片やメンバー及びスタッフ達はというと言うまでもなくその様子を傍観者的な目線で見守った末に何とも複雑な気持ちを覚えるのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
ご意見ご感想等が有りましたらお気軽にお寄せ下さい。




