テディベア その21
前回投稿した『その20』の続きをお届けします。
それではごゆっくりご覧下さい。
リビングにてモカとディアに扮したモモが他愛の無い会話を繰り広げているところではあるが此処で少し時間を巻き戻す事にしよう。
時刻は間も無く正午になろうとしていた頃、飼い主であるフミエはレコーディングスタジオにてメンバー等と共に所属するバンドが翌年にリリースを予定しているアルバム制作に勤しんでいた。
「M-13は取り敢えずこんな感じで良いね?」
「ああ、大体俺の作って来たデモの通りだから問題無いよ。」
ラージブースにてコバヤシが作成したデモを基にアルバムに収録予定の楽曲のベースとドラムの音入れの為、夫々の担当楽器の演奏を行うフミエとサノ。
シンセサイザー担当のカヤが私物のメモ帳に記したコード進行に誤りがないかチェックする一方でフミエはアウトロから数秒、間を空けた上でコントロールルームから演奏面での指示を出していたコバヤシへ今のテイクの良し悪しを尋ねる。
それを受けコバヤシはラージブースに居るリズム隊へまずまずの出来であった旨の返答をするのであった。
「細かいアレンジはまた違う時にするとして、昼飯を食ったら今度はM-14のベースとドラムの音入れをしよう。」
マネージャーの安藤から手渡された指定医薬部外品の『液キャベ』を服用した事で二日酔いによる影響が幾分、解消された様に窺えるコバヤシが放った言葉から察するに本日はベースとドラムのパートのレコーディングを中心に行うのに加えこれから昼食を兼ねた休憩を取るらしい。
(因みにコバヤシとフミエの会話の中で出て来た『M-〇』という言葉だが曲名が決まる前のデモテープの仮タイトルの事でアルバム等の楽曲制作の時に『M-1』、『M-2』といった具合に用いられるのを補足として述べておこう。)
「オッケー。」
「分かりました。」
コバヤシの言葉に返答するとフミエとサノは揃ってラージブースを後にする。
そして、同様にコントロールルームを後にしたコバヤシとカヤ、それに安藤やレコーディングスタッフ達と合流する形でミーティングルームへと移動した。
談笑を交えつつミーティングルームへと辿り着いた一同は室内に設置されたテーブルの上に用意されたデリバリーの弁当を発見する。
『焼肉弁当』、『幕の内弁当』、『唐揚げ弁当』、『シャケ弁当』の4種類を確認すると4人は少し迷った末に食べたい弁当を手にし始める。
内訳を見てみるとコバヤシは『焼肉弁当』、カヤは『幕の内弁当』、サノは『唐揚げ弁当』、そしてフミエは『シャケ弁当』を手にした様だ。
「あんた達、全員バラバラの弁当を選んだのね。」
マネジメントを担当するニューウェイブバンドのメンバー達が手にした弁当のラインナップを見るなり安藤はつい思ったままの事を口にしてしまう。
マネージャーによるその言葉を受けミュージシャン達は4人共が異なる弁当を選んだ事を確かめ合うと続けて安藤は
「ま、そういうところがあんた達の魅力の一つでも有るんだけどね。」
という所感を述べるのだった。
何やら感慨深そうにしているマネージャーを4人のミュージシャン達が黙って見る中、ふとコバヤシが手にしている『焼肉弁当』に目をやった安藤は先程の装いとは打って変わって彼に向けこんな言葉を投げ掛ける。
「それにしてもコバヤシ、あんた『焼肉弁当』なんて食べるの?」
「そうだけど?」
「さっきまで『二日酔い』でしんどそうにしてたのに、『焼肉弁当』だなんてねぇ。」
「安藤さん、藪から棒にどうしたの?」
マネージャーからの問い掛けに何気無く返答しようとするコバヤシだったが次第に彼女から異様な程の『圧』を感じ始める。
「どうせ食べるんだったら『豚カツ弁当』の方が良いんじゃない?なんなら私、今から買って来ようか?」
「いや、安藤さん。俺、『豚カツ』苦手なんだけど。」
「あら、そうだったの?」
「そうだよ。っていうか、何年もマネージャーやってんだから俺が『豚カツ』苦手な事ぐらい知ってんだろ?」
苦手な食材である『豚カツ』を用いた挙句、それを勧めて来る安藤にコバヤシは困惑しながらも意見する。
それにも拘らず至って認知していなかったというスタンスを貫く安藤の言葉にコバヤシは堪らず目の前で涼しい顔をさせている彼女へ反駁するのだった。
「ねぇ、もしかして俺に対して嫌がらせしてる?」
「んん?まさかぁ。」
じわじわと詰め寄られる様な心境なった事でコバヤシは耐え兼ねるあまりこの状況を打破すべく思い切って安藤に向け確信を迫るも当の本人は飽くまでも白を切るに留めるのだった。
片やそんな2人のやり取りを目の当たりにし、不穏な空気感になるのを懸念したカヤはこの雰囲気を変えるべくさり気なくフミエへと話を振る。
「それにしてもフミエ、久々じゃない?プレベも持って来るなんて。」
「うん。偶には良いかなって思ってね。」
「でもさっきの曲だけど、使ってたのは何時ものSVBだったね?」
「ん?ああ、そうだね・・・。」
カヤからの問われたのを切っ掛けに先のレコーディングにてフミエは嘗てのメインであったフェンダージャパン製 プレシジョンベースではなく長年愛用しているヤマハ製 SVB-550を使用していた事実に気付くのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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