テディベア その20
前回投稿した『その19』の続きをお届けします。
それではごゆっくりご覧下さい。
昼食として自動給餌機から供給されたキャットフードを食べ終えたふたりはキッチンを後にすると揃ってリビングへと戻る。
そして、ソファの前で歩みを止めたモカは座面部分に置かれたテディベアに目をやると徐に声を掛ける。
「ヤッホー、ディア。あたし達、ご飯食べ終わって戻って来たよぉ。」
喋れないと分かっている筈なのだがディアと言葉を交わそうと試みるモカ。
当然、ぬいぐるみであるが故にモカの声に応じる訳もなくディアは無言を貫くのだった。
「ねぇ、ディア。聞いてるの?」
「モカ、何度も言う様で悪いんだけどディアはぬいぐるみだから言葉をしゃべる事は出来ないのよ。」
そんなモカを見兼ね微妙な表情を浮かべたモモは優しい口調を意識し、言い聞かせようとする。
しかし、モモの忠告に聞く耳を持っていないらしいモカは引き続きディアへ話し掛けようとするのだった。
「ディア。無視しないでさぁ、ちょっとだけお話ししようよぉ。」
何時も以上に不可解な言動に走るモカに『困ったものだ』と言いたげにするモモ。
全くもって意味の無いその行為に対し溜め息の一つでも吐こうかと思った矢先、どういう訳かモカが変則的に自分へ向け目配せをしている事に気付くのだった。
「(はにゃ?モカったらどうしてあたしの事、チラチラと見てるのかしら?)」
謎めいた視線を送るモカの仕草に初めの内は疑問を覚えるモモであったが程無くしてその意図を理解する。
「(はっ!?モカったらひょっとして、あたしに対して『フリ』を投げ掛けているのかしら?)」
そう仮定した上でモモはそれを確かなものにすべく意図的にモカと目を合わせる事にする。
するとモカはそれに気付いたのかほんの一瞬だけ瞼を大きく開けた後、何やら意味深な笑みを浮かべ始める。
「(ふっふっふ。どうやらその様子だと気付いたみたいだね、モモ。あたしが『フリ』を投げ掛けている事に・・・。)」
「(その笑顔から見るにやっぱりそうみたいね・・・。)」
モカの心の声から察するにどうやら自分が求めている要望がモモへと伝わったのだと解釈した事で笑みを浮かべたらしい。
片やどこかニヒルにも感じられるその笑みを目の当たりにし、自分なりに確信を導き出したモモは足音を立てない様にしながら少しずつクマのぬいぐるみの背後に移動するとディアとしてモカと言葉を交わす事にする。
「ディア、モモとだけじゃなくてあたしともお喋りしようよ?」
「えへん。あー、あー、あー・・・。うん、良いよぉ。」
「ふにゃぁ。わーい、ありがとう。」
モモがテディベアの背後へと回り込んだのを見届けるとモカは催促する所作を装い準備が整ったかと尋ね掛ける。
それを受けモモは咳払いを1つし、モカがディアと称して話していた声のキーを探り始める。
そして、その声のキーと近いものを探し当てるとモモはクマのぬいぐるみ越しに今か今かと待ち侘びているだろうモカへ向け返答したのだった。
「モカ、今日のお昼は何食べたの?」
「『今日のお昼』?う~んとねぇ、今日はまぐろの味の『カリカリ』だったよ。」
喜びのあまり高揚しているであろうと察しつつディアに扮したモモは手始めに先程終えたばかりの昼食についての話題をモカへと振る。
勿論、モモ自身も同じ物を食べたのでそんな事を聞かずとも分かっているのだが、飽くまでディアとして接しているモカはその問いに笑みを交え答えた。
そして、ディアに扮したモモが相槌を打つと今度はモカがクマのぬいぐるみへ質問を投げ掛ける。
「ところでディアはご飯とか食べなくても平気なの?」
「ぼ、僕かい!?それだったら心配無いよ。」
「どうして?」
「えっと・・・。僕はご飯を食べない代わりにみんなが楽しい時や嬉しい時に自然と湧き出る気持ちを感じる事でお腹を満たしているんだよ。」
「へぇ、そうなんだぁ。」
想定外の問い掛けに役柄を忘れ『素』の自分に戻りそうになるもこの空気に水を差す様な真似はしたくないという想いからモモは即興で閃いた尤もらしい返答を述べる。
するとモカが満更でもない反応を示したと判断したのか気を良くしたモモは先の言葉に付け加える様にして続ける。
「それで言えば君達からはその気持ちをより強く感じる様に思うよ。」
「あたし達から?」
「うん。特にあのモモという子からは素敵なオーラも感じられるよ。」
「ふにゃっ?『素敵な』、『オーラ』・・・?」
和やかな雰囲気の中、他愛の無いやり取りを行っていたのにも拘らずディアに扮したモモがたった今放った一言を切っ掛けにモカは話の展開が妙な方向へと流れていく様な予感を覚え始める。
「そうさ。あの子から発せられる『プリティ』なオーラは凄く魅力的で僕としては気になって仕方無い訳であって・・・。」
飽くまでもディアとして話すモモであったがその表情からは幾分得意気にしている様にも窺える。
一方でその気配から何かを悟ったらしいモカはテディベアの役柄になりきり意気揚々と喋り続けるモモの声を耳にしつつ今居る場所から移動を始めた。
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