テディベア その11
前回投稿した『その10』の続きをお届けします。
それではごゆっくりご覧下さい。
玄関にてレコーディングで使用するヤマハ製 SVB-550とフェンダージャパン製 プレシジョンベースを手にし、家を後にしたフミエを見送ったモカとモモ。
閉め切った玄関のドアを目に映しながら揃ってその場に留まる中、モモがモカへと話を振ったのをきっかけにふたりによるやり取りが始まった。
「ご主人様、今日は大荷物だったわね。」
「そうだね。きっとお仕事で使うものなんだよ。」
「それに何だか重たそうにも見えたわ。あれだとお仕事に向かう途中で疲れちゃうんじゃないかしら?」
大荷物を抱えレコーディングスタジオへと向かった主を心配するあまりモモはそんな言葉を口にする。
片や今の言葉に一定の理解を示すとモモを安心させる為、モカは少し悩んだ末に導き出した自らの考察を述べる。
「あ!もしかしたら、あのおば、お姉さんがご主人様の事を迎えに来るんじゃない?」
「ああ、成程!確かにそうかも知れないわね。」
ここでもまた安藤に対し『おばさん』と言い掛けるも『お姉さん』と訂正した上でマネージャーである彼女が担当ミュージシャンである主を仕事現場まで送迎してもらうのを前提としての行為ではないかと話すモカにモモは食い付く様に反応する。
「そうじゃなきゃあんなに大きな荷物を2つも持って行かないでしょ?」
「そうよね。いくらご主人様でもあんな大きな荷物を2つも持ったままでずっと歩いてなんていられないわよね。」
一連のやり取りの締め括りとして先の考察に付け加える様にしてモモを諭すモカ。
それを受けモモはモカによる見解に納得すると些か安心した様にも窺える表情を浮かべるのだった。
一方その頃、主のフミエはというと・・・。
「(やっぱ、ベース2台はキツかったかな?)」
モカの考察とは裏腹に思い付きで2台のエレキベースを持参してレコーディングに臨もうとしたらしいフミエ。
しかしながら皮肉にもモモが予測していた心配が的中してしまった事に加え自宅を出てから然程時間が経過していないのにも拘らず左右それぞれの手に持ったケースの重たさに応え始めると背後からけたたましいクラクションの音を察知する。
『プップー!』
突如として鳴り響く音に条件反射的に振り向くフミエの視界に入ったのは路肩に停車している1台のワンボックスカーであった。
「フミエぇ、こっちよ、こっち。」
見慣れたワンボックスカーの運転席の窓から顔を覗かせフミエに向かって呼び掛けたのはマネージャーの安藤。
先程のクラクションは彼女が鳴らしたものであった事を感知したフミエ。
同時に他のメンバーも既に乗車している事に気付くと助手席からカヤ、後部座席からサノ、コバヤシの姿を確認したのだった。
「安藤さん、どうして?」
「『どうして』も何もマネージャーとしてあんた達を迎えに来てあげたのよ!」
どうやら昨晩行われたレコード会社主催の忘年会の影響でフミエを含む担当ミュージシャン達がレコーディングに遅刻するのではないかと危惧した安藤は彼等をスタジオまで送り届ける為に自宅付近まで迎えに来た様だ。
「それより早くして、パトカーが来たら切符切られちゃうでしょ!」
安藤に急かされながらもワンボックスカーのトランクに機材を仕舞い込むとフミエはコバヤシとサノが居る3人掛けの後部座席へと乗り込んだ。
「フミエ、おはよう。」
「おはようございます、フミエさん。」
「おはよう。カヤ、サノ。」
ワンボックスカーに乗車すると共にカヤとサノに朝の挨拶を交わすとフミエはバンドメンバー達の顔色を観察する事にした。
先ずは、シンセサイザーを担当するカヤ。
助手席から振り返る様にして挨拶をした彼女の顔色からは僅かに疲れが見て取れるも連日のレコーディングと昨晩の忘年会の影響によるものと察しカヤについては至って何時も通りであると判断した。
続いてドラムを担当するサノ。
正面から見て向かって右側の座席に腰を下ろしたフミエの隣に居るサノの顔色からは特にこれと言った不調は感じられなかったが強いて挙げるとするならば二次会に参加したが故に睡眠不足が祟り眠たそうにしている心境が窺えた。
最後にギターを担当するコバヤシ。
乗車してから暫く経ったのにも拘らずフミエの存在に気付いていないのか青白い顔をさせ後頭部をドアに押し当て口を開けた状態でいたのだった。
「こ、コバヤシ?」
「ああ、フミエ。おはよう。」
「お、おはよう。」
この時点でようやくフミエが安藤の運転する社用車に乗り込んだ事に気付いた彼はフロントマンとしてせめてもの示しを着けるべくゆっくりとした口調でベースを担当するメンバーと挨拶を交わした。
「ちょっと、あんた大丈夫なの?」
「んん?まぁボチボチってとこかな。」
明らかに体調が良くないであろうコバヤシを気に掛けるフミエだったが当の本人はそれに対し実に抽象的な返答をするに留めたのだった。
後に安藤やその場に居たスタッフ達から聞かされた証言によると最終的にコバヤシは三次会まで参加したらしく、二日酔いと睡眠不足の相乗効果により結果としてこの様な結果となってしまった事を知るフミエなのであった。
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