テディベア その12
前回投稿した『その11』の続きをお届けします。
それではごゆっくりご覧下さい。
前日に行われたキャンユーレコード主催の忘年会にて明け方にお開きとなった三次会まで参加したが故にほのかに酒の匂いを漂わせつつ辛そうな表情を浮かべるコバヤシ。
「(頼むから『リバース』だけは勘弁してよね。)」
マネージャーである安藤が運転する社用車に乗り込んでから暫く経った頃、明らかに二日酔いであるコバヤシの姿を目にした事でフミエはそんな彼へ向け細やかな願いを込めていた。
「よし。フミエも乗せた事だし、それじゃぁ行くとするわよ!」
ミュージシャン達へ掛け声を送り車のギアをドライブに入れサイドブレーキを解除した安藤はウインカーを右方向へ入れゆっくりとアクセルを踏みながらハンドルを切った上で路肩に停めていたワンボックスカーを走行させるのだった。
それから少し時間が経過した頃・・・。
主が不在となったアパートのリビングにてフミエの愛猫であるモカとモモはこれから何をして遊ぶか話し合いをしていた。
「ねぇモモ、今日は何する?」
「う~ん、何しようかしら?」
「だったらこれやってみようよ?『バレンタインの予行演習』。」
「またぁ?モカったらそれ前にやったじゃない。それに今はバレンタインじゃないわよ。」
手始めにモカは以前行った『バレンタインの予行演習』を再びしてみようと立案するもモモは何やら気乗りしないらしい。
「それなら『モノマネ大会』やってみる?」
「はにゃ、『モノマネ大会』?」
「うん。あたしとモモが順番にお題を出し合ってふたりの内、どっちが似てるかを競うの。」
「へぇ、何だか面白そうね。」
先の反応を受け代案として『モノマネ大会』を提示されたモモは一転して気乗りした様子を見せるとモカは手応えを感じながらも早速実践に移ろうと試みる。
「それじゃぁ先ずはあたしからモモのモノマネを披露するからモモはモモのモノマネをしてね。」
「はにゃ、何よそれ!?どうしてあたしがあたしのモノマネをする事になるのよ?」
自分で自分のモノマネをするというシュールかつ不可解な要求にモモは堪らずモカに意見する。
「ふにゃ?だって同じモノマネをしないと競い合えないじゃん?」
「だからと言ってあたしがあたしのモノマネをしてもそれはあたしであってモノマネとは言えないんじゃないの?」
些か疑問を抱くもそれに見合っているだろう返答を繰り出したところからふざけている訳ではなさそうだと確信しつつモモは引き続きモカへ異議を唱える。
片やモカはそんなモモの心境を見透かしてか宛ら諭す様にして語った。
「モモ、分かってないなぁ。モモがモモのモノマネをしたからと言って100パーセントモモに近付けるとも限らないんじゃない?」
「モカ、あなたさっきから何を言ってるの?あたしはあたしなんだから100パーセントあたしであってあたしこそが限り無く本物のあたしで・・・。って、はにゃあ、何だか訳が分からなくなって来ちゃったわぁ。」
正論をぶつけようとするも悉く跳ね返された事で混乱状態に陥り頭を抱えるモモの姿を目にし、少し気の毒に思ったのかモカは控え目な口調で別の提案を投げ掛ける。
「なら『お昼寝』は?」
「ええ?『お昼寝』って、それ遊びじゃないじゃない。しかもまだ午前中よ。」
「ふにゃ?でももう起きてから大分経つし、2度寝にはならないよね?」
「まぁ、確かにそうだけど、仮に『お昼寝』がしたかったらなにもふたりでしなくても夫々のタイミングで良いんじゃないかしら?」
最早、『遊び』とは呼べない行為を立案された事で眉を顰めながら結果的にそれを却下するモモ。
一方で先程から立案しているのにも拘らず却下され続けている状況に不満を覚えたらしいモカは此処へ来てモモへ向け反論を始める。
「もう、モモってばあたしに考えさせてる割には文句ばっかじゃん!そんなに言うんだったら、モモが何か提案してみてよ!」
「はにゃっ!あ、あたしが?」
「そう、モモが!」
ムキになり詰め寄るモカに幾分慄いたモモは僅かに悩んだ末、即席で閃いた自らのアイディアを提示する。
「あ!じゃぁこういうのはどうかしら?『ふたりで水を飲みに行く』っていうのは?」
「いや、それも遊びじゃないし何だったらそれこそ『お昼寝』みたく自分のタイミングで良いじゃん?っていうかあたし今、喉乾いてないし。」
「は、はにゃあ・・・。」
モカが立案した『お昼寝』同様、到底『遊び』とは呼べない行為ではないのに加え態々ふたり揃ってやる様な事柄ではないと指摘されモモは一連の流れの総括として精一杯の苦笑いを浮かべるのだった。
そして、傍からすれば滑稽に思えるやり取りを繰り広げたふたりは気を取り直しソファの上にドスンと陣取る様にして座るテディベアに目を向ける。
「この子、よく見ると可愛い顔をしているね。」
「そうね。」
ぬいぐるみであるが故、微動だにせずその場に留まり続けている傍らある一定の方向へ視線を送っている様にも見えるテディベアの容姿を愛らしく思い始めるふたり。
そんな中、モモは何気無い装いを維持させつつこんな事を呟いた。
「この子とお喋り出来たらなぁ。」
不意に耳に入ったその言葉を受け徐に表情を変えたモカは少々考えた後、モモに気付かれぬ様に注意を払いつつその場から居なくなるのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
ご意見ご感想等が有りましたらお気軽にお寄せ下さい。




