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テディベア その10

前回投稿した『その09』の続きをお届けします。

それではごゆっくりご覧下さい。

与えられたキャットフードを食べ終え時折「ミャウ、ミャウ」と鳴き声を放ちつつキッチン内をうろつく愛猫達を横目に朝食を取るフミエ。

幼気なその姿に穏やかな気持ちを覚えながらも朝食を終えると食器を洗う為、調理スペース内へと移動する。

そして、流し台へ食器を置くと右手に持ったスポンジに市販の食器用洗剤を適量付け『クシュ、クシュ』と2回程握り泡立てた上で洗い物を開始する。

単調なその作業の傍らフミエは本日食べたトーストに塗る際に使用したバターの味について振り返り始める。


「(あのバター、『ロージーバター』って言ったっけ?結構美味しかったな・・・。)」


どうやら先日、スーパーにて買い物をしている際、偶然にも発見し購入に至った『ロージーバター』なる製品について満足したらしい。

因みに、『ロージーバター』とは『ロージー牛乳』や『ロージーコーヒー』等を手掛ける乳業メーカー『北条乳業』が数年前から新たに加工品部門を立ち上げた際に生み出された製品である。

長らく飲料部門を主軸として経営して来た北条乳業にとって売れ残った乳製品についての活用方法について良案を見出せず泣く泣く廃棄処分という苦渋の決断に甘んじていたものの新工場の設立と共にこの度導入した機械により加工品の製造に着手。

それにより同部門を新設した事によりバターを始めチーズや生クリーム等の製品を世に送り出す事となった。

また相乗効果として兼ねてから行っていたプリンやヨーグルト等のデザート事業も組織、消費者共に見直されロールケーキやアイスクリームといった定番に加えシュークリームやクリーム大福等の製品を新たに開発し、売上を伸ばす事に成功したのだった。


「(そう言えば最近、お菓子系の商品も増えて来たよな。)」


バターの味についての感想から派生し、数日前に仕事部屋でデモ音源を作成していたフミエはその合間に閲覧した北条乳業が運営するネットショップにてロージー牛乳を使用し製造されたスイーツ系商品のラインナップが過去に比べバラエティに富んでいた事を思い出した。


「(何個か買って、今度スタジオに持って行こう。)」


先の言葉を前置としてフミエはバームクーヘンやマドレーヌの他に饅頭といったロージーブランドの和洋菓子の内、極力日持ちがするであろうものを幾つか購入してレコーディングスタジオに持参し、それをメンバーやスタッフ達と食べ比べを行ってみる事を思い付くのだった。


洗い物を済ませると今度は脱衣場に在る洗面台にて歯磨き、洗顔、メイクを行っていく。

ここ何日間、自宅とスタジオを往復する生活を送っているフミエではあるが『人に見られる』という想いの表れにより清潔な印象を与えるべく身形(みなり)を整えるその姿からは『アーティスト』という職業を生業としている彼女なりのプロ意識が見て取れた。

そんな一面を覗かせる中、寝室にて着替えを済ませたフミエは最後に仕事部屋へと移動しデモ音源のデータが保存されたUSBメモリをカバンに入れると続いて複数の弦楽器と共にギタースタンドに立て掛けられているヤマハ製 SBV-550を専用のケースへと仕舞う。

これにて全ての準備が整ったフミエは家を後にし、レコーディングスタジオへ向かおうとするも何を思ったのか不意にその場で足を止めると今し方、メインベースであるSBV-550を手に取った辺りに視線を向けた。


「久しぶりにこっちも使ってみようかな。」


そう言うとフミエは以前、メインとして使用していたエレキベースを手にする。

フェンダージャパン製 プレシジョンベース。

一般的な略称としてプレベと呼ばれるこのタイプのエレキベース。

元々、ギタリストであったフミエは現在所属しているバンドに加入するのをきっかけにベーシストへと転身。

それに伴い、レンタルではなく自分が所有する機材が有った方が良いだろうという判断により購入したものである。

因みにインディーズとしての功績が認められキャンユーレコードへと移籍する形でメジャーデビューした後にリリースされたファーストアルバムのレコーディングは全てこのプレベを使用して録音されている。

先に述べた通り現在はヤマハ製 SBV-550をメインとして使用しているが専属のローディーの手によりメンテナンスが施されているので今でもライブは勿論、レコーディングで使用するのに申し分ないポテンシャルを備えているのだった。

スリー・トーン・サンバーストのボディカラーにべっ甲のピックガード、メイプルネックにローズ指板といったスペックであるこのプレシジョンベースも持って行く事に決めると此方に関しても専用のケースに仕舞う。

結果として大荷物を抱える事となってしまったものの今度こそレコーディングスタジオへと行くべく、玄関へと移動する。


「それじゃぁモカ、モモ、行って来るね。」


玄関マットの上にちょこんと座り宛ら自分の事を見送ろうとしている愛猫達へフミエは出掛ける前の挨拶をする。


「「ご主人様、行ってらっしゃ~い!」」


仕事へと出掛ける主へ元気よく見送りの言葉を掛けるモカとモモだったが当然、その声が聞こえる筈も無く何時も通り「ミャウ、ミャウ」といった鳴き声を耳にしながらフミエは家を後にしたのだった。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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