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【196】子猫になっちゃった!



 そしていよいよ明日から、一日中夜に包まれる神無時の一週間が始まる。


「そろそろ寝る時間だな」


 リュカオンに促されて時計を見ると、確かに普段なら寝る時間だった。

 外が暗いと時間感覚もなくなっちゃうな。閉じこもってるからあんまり疲れもなくて眠くもないし。


「そういえば、フィズは部屋から出ない私達をなんて説明してるの?」


「シャノンは外が暗いのが怖くて、部屋の中で我にずっと引っ付いているということになってる。シャノンを刺激しないよう、部屋の中には誰も入るなとも」

「みんなよくそれで納得したね」


 私のことをどれだけか弱い生物だと思ってるんだろう。

 そして、それからほどなくして私達は眠りについた。



◇◆◇



 ――寝ている間に、どこか違和感はあった。

 なんだかうつ伏せの方が寝やすい気がしたり、なんだかふわふわしたものが鼻先に当たったり。普段と違う感覚はしていたのだ。


「――し、シャノン……?」

「シャノンちゃん、これは……」


 リュカオンと伯父様の声が聞こえ、意識が浮上する。しかもなんか動揺しているようだ。

 長寿であまり動じることのない二人がこんな反応をするなんて、一体何が……。

 目を開くと、リュカオンと未だに猫の姿の伯父様がこちらを見下ろしていた。瞳孔がまんまるになってとてもかわいい。


「……にぃ?」


 伯父様を呼ぼうとしたはずなのに、私の口から出たのはか細い鳴き声だった。

 んん?

 喉に手を当てようとしたら、目前にある毛玉がもぞりと動いた。なんだこの毛玉。

 ぽさぽさとした白い毛玉はなぜか私の意のままに動く。

 なんだか嫌な予感がしてその毛玉をひっくり返してみると、ベビーピンクのぷにぷにとしたものがついている。

 ま、まさかこれ……。

 すると、リュカオンがゆっくりと口を開く。


「――完全な猫に……なってるな……」


 だよね。



◇◆◇



「にぃ、にぁ……」

「か、かわいいぃぃぃ!! そうそう、もうちょっとで喋れるよ~」


 声を出そうと試行錯誤していると、目にハートを浮かべた伯父にゃんこがゴロゴロと頬ずりをしてくる。そんなことされると、伯父にゃんこの顔くらいの大きさしかない私はコロンと転がされてしまう。


「あぁ、ごめんね……!」

「にぃ」


 大丈夫だよ、と鳴き声を返しもぞりと手足を動かして起き上がった。

 人間の手のひらサイズの子猫になってしまった私は、少し押されただけでもすぐに倒れてしまう。まだポテポテ歩きなのだ。


「シャノン、シャノンおいで」


 名前を呼ばれたので顔を上げると、目尻を下げきったリュカオンが私に向かって手招きをしていた。

 仕方ない、リュカオンのところに行ってあげよう。

 と言っても、私と同じくベッドの上にいるリュカオンのところに行くのなんてものの十歩だけど。


「にゃ」


 一生懸命脚を動かした私は、ベッドの上であぐらをかくリュカオンの膝がすぐ目の前に見えるところまでやってきた。

 どうだ! 来たぞ! とドヤ顔をすると、リュカオンが即座に私を抱き上げた。


「~~っかわいいのう。よしよし、よく来られたな」


 長い指が私の頭をうりうりと撫でる。そして喉をカリカリとかかれれば、自然とゴロゴロと音が鳴る。

 おお、この音……私も猫ちゃんになったんだな。


「神獣様、ズルいですよ。シャノンちゃんを独り占めしないでください」

「ああ、すまんな」


 手の中で私を揉みくちゃにしていたリュカオンは、不満顔の伯父にゃんこに私を差し出す。


「ああ、もう、こんなに毛をボサボサにされちゃって可哀想に」


 伯父にゃんこはそう言って前足の間に私を置くと、ペロペロと私の毛繕いをし始めた。ザリザリとした舌がボサボサの毛並みを整えていく。あまりにもスムースな毛繕いだ。

 伯父様もだけど、私も意識が猫に引っ張られているからか毛繕いをされることにも全く抵抗がない。もっとやって~。


「おお、気持ち良さそうにしているな。かわいい」

「ふふん」


 私達の様子を微笑ましげに眺めるリュカオンに、伯父様はドヤ顔を返す。

 すると、外から勝手に窓を開けてフィズが部屋に入ってきた。


「皇帝か」

「やあ神獣様、俺だよ。ところで姫はどこ? そしてその腕の中にいる天使はなに?」

「これはシャノンだ」


 リュカオンがそう言うと、フィズは雷を受けたように一瞬固まった。


「……え、それが姫……?」

「ああ、神無時本番に入ったことでますます力が不安定になり教皇と同じ状態になったようだな」

「さすがにかわいすぎじゃない?」

「分かる」


 パンッと手を取り合うフィズとリュカオン。思わぬ友情が芽生えてるね。

 年齢の壁を超えた友情を築いたフィズは、未だに毛繕いをされている私の方に近付いてくる。

 そして、私の目の前にはふんわりと微笑む整ったお顔。


「わぁ、お目々がまんまる。毛もまだぽわぽわだね。ぬいぐるみみたい」

「にぃ」

「え!? なに今の声! 姫が鳴いたの? わぁ、天上の音楽かと思ったよ」


 舞い上がっているのかなんなのか、フィズの反応が大袈裟だ。


「撫でてもいい?」

「にゃっ」


 いいよ~とフィズに向けて頭を差し出す。

 するとフィズは人差し指で数回私の頭を撫でた後、両手で包むようにして私を抱き上げた。


「わぁ、ちいさな命。ぬくもり。柔らかい」

「語彙が死んでるぞ皇帝」


 それからフィズはふわふわと、壊れ物を扱うかのように私を撫でる。


「かわいい、かわいいねぇ。ずっと撫でてられるよ」


 こしょこしょと喉をかかれ、よしよしと頭を撫でられる。


 それから十分ほど、フィズは一心不乱に私のことを撫で続けた。


「――ところで皇帝、そろそろシャノンを解放してやれ。おねむだ」


 フィズの手の温かみで眠くなっていたのに気付かれたらしい。さすがリュカオンだ。

 目がとろんとしていて、フィズの手のひらの上で脱力しているので見れば誰でも気付くかもしれないけど。

 そんな風にくてっと力を抜く私を見て目を見開くフィズ。


「――あ、愛くるしさが限界突破してる……!!!」


 絞り出すように言い放ったフィズの言葉に、リュカオンと伯父にゃんこがうんうんと全力で頷いていた。







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書籍4巻6月5日発売!
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