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【195】隠し通さねばならぬ




 神無時の影響で耳と尻尾が生えてしまった私を、フィズが高い高いする。


「あはは、かわいいねぇ。元々生えてたみたいによく似合う!」


 満面の笑みのフィズが両腕で私を持ち上げたままゆらゆらと揺らす。本当に子猫になった気分だ。

 自然と私のぽさぽさとした尻尾も左右に揺れる。


「ふふ、耳と尻尾があるとご機嫌が分かりやすいね。遊びも猫と同じのがいいのかな」


 フィズはソッと私を下ろすと、ポケットをゴソゴソと漁ってリボンを取り出した。

 なんでこんなもの持ってるんだ。あ、伯父様と遊ぼうと思ったのか。

 ピンク色のリボンを取り出したフィズは、そのリボンをヒラヒラと振ってみせる。

 普段はリボンが揺れてるなぁ、くらいにしか思わないそれだけど、今日はなぜか目を引く。無性に追い掛けたくて仕方がない。


「……ていっ」

「おっと」


 私がリボンに飛びつくと、すかさずフィズがシュルリとリボンを引く。なので、リボンを掴みにかかった私の手は空を切った。

 なんと。

 遊んでくれるんじゃないのかと目を丸くしてフィズを見上げると、リボンの持ち主はもう片方の手で自分の口元を覆っていた。


「か、かわいい……!! なんでこんなにかわいい生物がこの世に存在するんだ……!」


 口を覆ったままなにやら呟くフィズ。


「……フィズ、遊ばないの?」

「遊ぶよ!!」


 即座にリボンを構え直したフィズが再びリボンを揺らしてくれる。

 絶え間なく揺れるリボンに狙いを定めた私は、タイミングを見計らって揺れるそれに飛びかかった。


 ぽてぽてぽて


「……遅いな」

「かわいいけど、野生じゃ到底生き残れないね」

「室内飼い専用ですね」


 順にリュカオン、フィズ、伯父様の発言だ。

 みんな随分好き勝手言ってくれるね。いや、我ながら遅いのは自覚があるけど。

 確かにこのスピードじゃあ何も捕まえられない気がする。ちょっとションボリ。


「私、猫の才能ない……」

「え!? なんでちょっと落ち込んでるの!?」


 耳と尻尾をへにょりと下向きにすると、フィズがすかさず私を抱き上げた。すぐそばで見ていたリュカオンと伯父にゃんこもなにやらオロオロとしている。

 そして、私を抱き上げたフィズは赤子をあやすようにユラユラと揺らし始める。


「大丈夫大丈夫、姫は猫の才能あるよ。こんなにかわいいんだもん、立派な室内猫になれるよ」


 室内猫なのは確定なんだ。


「うちの子がかわいいな」

「抱っこされているとより子猫っぽさが増してかわいいですね」


 ソファーで脚を組んでこちらを見守っているリュカオンの隣には、香箱座りをしてうんうんと頷く伯父にゃんこがいる。

 後方保護者面の猫なんて初めて見たよ。


 そして、フィズにあやされた私はリボン遊びを再開した。

 飲み込みのいいフィズは私がギリギリ追いつくくらいの絶妙なスピードでリボンを動かしてくれたので私も大満足だ。





「――シャノン、疲れただろう。そろそろ休憩したらどうだ?」

「……リュカオンはどこの王様なの?」


 ベッドの上で腕を枕に横向きになったリュカオンは、もう片方の手で伸びきった伯父にゃんこを撫でている。うっとりと目を閉じて喉をゴロゴロと鳴らす伯父にゃんこは既に立派な家猫だ。猫歴は数日のはずなのに既にプロの猫のような堂々たる振る舞いをしている。


「ほら、こっちにおいで」

「はーい」


 リュカオンに手招きされた私は、のそのそとベッドの上に乗り上げる。

 あー、久々にちゃんと運動したなぁ。

 ひとしきり遊んでもらい心地良い疲労感に包まれた私は、伯父にゃんこをぬいぐるみよろしく抱きしめてベッドに横になる。

 ぐでーんとシーツの上で伸びる私を見て、フィズが目尻を下げた。


「こうして見ると、やっぱり二人は似てるね。毛の色も耳の形もそっくりだ」


 そう言われ、私と伯父にゃんこは顔を見合わせた。

 伯父にゃんこのクリクリのお目々が三角形の耳が生えた私を映し、ピンと伸びた髭がヒクヒクと動く。

 ……私、こんなに毛深いかな。


「ん? なんだい?」


 ジッと見つめる私に対して目をまんまるにしてキョトン顔をする猫ちゃんは、とってもかわいらしかった。


 猫になったままの伯父にゃんこを抱きしめ、首元をカリカリとかいてやる。

 すると、伯父の喉から徐々に低い音が鳴り始めた。


 ゴロゴロ

 ゴロゴロ


 どうやって出してるんだろう、この音。でもなんか聞いてると落ち着くんだよなぁ。

 そして、そのまま無心で伯父様を撫で回す。

 ……なんか……異常に眠い……。

 伯父にゃんこの背中に頬ずりしていると、抗いがたい眠気に襲われる。


「シャノン、眠いのか?」

「ねむい」

「そうかそうか、この姿では外にも出られぬからのう、ゆっくり寝なさい」


 傍らのリュカオンがよしよしと頭を撫でてくれる。


「あはは、もうお目々が開いてないね。猫は一日の大半を寝て過ごすって言うし、姫にもその特性が出始めてるのかな」


 頭上からフィズのクスクスとした笑い声が聞こえてくる。


「よーしよーし、寝ちゃいな~」

「ん……」


 フィズにもちもちと耳を揉まれるけど、眠すぎてそれすらも気にならない。


「う~ん、耳と尻尾がついてるのもそうだけど、こんなにかわいい姫を人前に出すのは不安だなぁ。神無時が終わるまで姫も隠れててもらおう」

「いけるか?」

「俺に出来ないことがあるわけないでしょ。離宮内の人間を誤魔化すのには少し骨が折れるけど、なんとかするさ」


 フィズは全く気負った様子もなくサラリと請け負ってくれる。


 なんとも頼りになる旦那様だ。







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