【194】にゃんとびっくり!
なんか、ふわふわしたものが生えてる……。
ゆらゆらと動くそれは、紛れもなく自分のお尻の辺りから生えていた。
うん、間違いなく尻尾だ。
なんで私に尻尾が? ――と言いたいところだけど、心当たりは大いにある。なにせ、血縁者が猫になってるからなぁ。
神無時が間近に迫る今、神獣の血が比較的薄い私にも影響が出たということだろう。
私個人としては尻尾が生えたことで困ることは特にない。むしろなかなかない体験ができて嬉しいくらいだ。だけど――
「――この姿、人には見せられないなぁ」
無意識にゆらゆらと揺れてしまう尻尾が明らかに飾り物ではないので、見られたら言い逃れはできないだろう。
この部屋の外にいる人間で事情を知っているのはフィズだけだし、他の人に打ち明けるつもりはない。いらないトラブルは避けたいし、どこから噂が広まるか分からないからね。
私もこの部屋から出ないことは確定したけど、どうやってみんなに説明すべきだろうか。う~ん。
尻尾を揺らしながら考えていると、スヤスヤと眠っていたリュカオンが目を覚ました。
「ん……もう起きていたのか。早いな……って、シャノン?」
「おはようリュカオン、ねぇこれ見てよ! 朝起きたら生えてたの」
「あ、ああ……随分とかわいらしい耳だな」
「耳?」
なにを言ってるんだろうと思いつつも、嫌な予感がして自分の頭に手を持っていく。すると、あたたかくてフワリとした手触りのものを感じた。
まさか――
「僕と同じのが生えてるね」
いつの間に目を覚ましたのか、前足で目元をクシクシしながら伯父様が言う。
「やっぱり生えてる?」
「うん、さっきからピコピコ動いてるよ。作り物では無理だね」
「だよね」
軽く引っ張ってみたけど、やはりというべきかパカッと取れるようなことはなかった。
「さすが僕の姪、猫耳もよく似合ってる」
「似合うのはいいんだけど、これじゃあ人前に出られないよ」
「伯父様とまったり引きこもってようよ。神無時はもうすぐ終わるし、そうしたら元の姿に戻れるんだから」
ゴロンとシーツの上を転がる伯父にゃんこ。猫になった影響なのかは分からないけど、のんきだなぁ。
「でも、せめて引きこもる理由くらいは不自然じゃないのを考えないと……リュカオン、なにしてるの?」
「おお! 動いたな」
リュカオンが興味津々で私の三角形の耳を突いてくる。そして、スラリと長い指が恐る恐る私の耳をつまんだ。
「意外とぬくいのだな」
「……」
普段は自分にも同じものがついてるのに、何がそんなに物珍しいんだか。
「――にしてもシャノン、これはかわいい。あまりにもかわいらしすぎるぞ」
リュカオンが私を抱き上げ、膝の上に乗せる。そして、よしよしと私の頭を撫でるリュカオン。
「あ、ズルいですよ神獣様!」
その様子を見た伯父様がむくりと体を起こし、ぽてぽてとこちらに歩いてくる。そして、私の膝の上に乗り上げるとそのまま丸くなった。
わぁ、ふわふわ。ぬくい。
いつの間にかリュカオンに撫でられる私に撫でられる伯父にゃんこという奇妙な図が誕生していた。
「シャノンちゃんかわいい、かわいいねぇ」
ゴロゴロと喉を鳴らす伯父にゃんこ。
いや、どう考えても今かわいいのは伯父様じゃない?
ご機嫌でブランケットをふみふみし始めてるし。
「ふむ、こんなにかわいらしいシャノンを拒絶する輩がいるとは思えぬが、たしかに神獣の血が入っていることが世間に広まると面倒事が起きかねぬのも事実だ。神無時が終わるまでの間は我らと引きこもっておくのが無難だのう」
「だよね」
さて、言い訳はどうしようかな。理由もなく姿を見せないんじゃ侍女達がこの世の終わりくらい心配するだろうし……。
頭を悩ませていると、伯父にゃんこが私を見上げてにゃふんと微笑んだ。
「大丈夫大丈夫、それこそシャノンちゃんを猫かわいがりするあの男がなんとかするよ」
「あの男……」
思い浮かぶのは一人しかいないけど。
慣れ親しんだ綺麗すぎる顔が浮かんだ瞬間、バルコニーにつながる窓からコンコンと音が聞こえた。
リュカオンがカーテンを開ければ、そこにはにっこりと微笑むフィズ。
「――姫のピンチの予感がしたんだけど」
「うわ、でた」
「どうやって嗅ぎつけてきたんだ」
あまりにもできすぎたタイミングに現れたフィズに驚愕する伯父様とリュカオン。
そして、フィズの視線が私に向く。
「~~~姫!! なにそれ!! かわいい!!」
軽い足取りで走ってきたフィズが私を抱き上げる。
「わぁ、ほんとに猫の耳が生えてる」
ソッと私の頭に生えた三角形を撫でるフィズ。
「うわぁ、柔らかい。かわいい。よく似合ってるねぇ。もしかして天使?」
「ふふん」
ふわふわ、かわいい。天使だねぇと褒めちぎられて気を良くした私はふふんと鼻を鳴らす。
「子猫だからなのか毛がまだポサポサだね」
「おい皇帝、いつまでうちの子を独占する気だ。返せ」
「神獣様はもう堪能したでしょ。俺まだ来たばっかりだよ?」
「まだかわいがり足りぬ」
バチバチと言い合いをする年齢差千年以上の二人。
その間も、フィズが私の頭を撫でる手はとまらない。その絶妙な力具合に私はうっとりだ。今なら伯父にゃんこみたいに喉を鳴らせそう。
目を細めていると、ふと二人の言い争いの声が止まった。
ん?
パチクリと目を開けると、二人が微笑ましげな顔でこちらを見ている。
「かわいいのう。目に入れても痛くないほどかわいいとはこのことだな」
「試しに入れてみます?」
「こっちがお断りだよ」
フィズの言葉にそれもありだな、という顔をしたリュカオンをすかさず止める。
私に人の目に飛び込む趣味はございません。





