【4巻発売記念小話】シャノンは何になら勝てるのか
それは、私が離宮の庭でのほほんと日向ぼっこをしている時のことだった。
庭に設置されたリクライニングチェアの上で脱力し、侍女達が入れてくれた紅茶を味わいながらまったりとする。
あ~、ごくらくごくらく。
弱冠十四歳にして余生のような過ごし方をしているけど、そんなことは気にしない。平和が一番だ。
隣のリクライニングチェアではリュカオンもヘソ天でリラックスしている。というか爆睡しているようだ。鼻がぷすぷす鳴っている。
野生の狼ではありえない姿だね。
――この時の私は思わなかった。そんな私達の平和を脅かす存在が現れることになるとは。
それから暫くの間リュカオンと隣り合わせで溶けていると、花壇の方からガサッと音がしてそれは現れた。
「キャンッ!」
「!?」
それは目にも留まらぬ早さでこちらに飛んできた。そしてフワリとした何かに激突された私は、ポテッとリクライニングチェアから落とされた。
地面に座り込んだ状態で後ろを振り返ると、私を追い出した元凶の姿が目に入った。
「キャンッ!」
まん丸で白いふわふわのそれは、ポメラニアンだった。
きゅるんとまあるい瞳でこちらを見たポメラニアンは私を敵ではないと判断したのか、その場でちょこんと座った。つい三秒前まで私が座っていたリクライニングチェアの上に。
「え?」
「キュッフン」
居心地が気に入ったらしいポメラニアンは、隣のリュカオンを見習ってちょこんと仰向けになった。
え、ええ……? そのまま居座っちゃうの?
地面に投げ出された皇妃は一体どこにいけば……。
とりあえずこのまま地面に座っているのはよくないと、よろよろ立ち上がる。
「あ、あの、ポメさん……それ私の椅子だからどいてもらえない?」
「キュン?」
私の言葉に首を傾げるポメラニアン。
そもそも言葉が通じていないのか、私の言葉を理解した上で無視されているのかどちらだろう……。
つぶらな瞳を私に向けるポメラニアンは、全くその場からどく気配がない。
ふむ、かくなるうえは力尽くでどかしてやる……!
「せいやっ」
ポメラニアンをどかすために脇に手を差し込もうとすると、前足がぺしんと私の手を払いのける。
……こ、こやつ、やりおる……!
この白いふわふわは中々の手練れだったようだ。
というか、人類最弱を自負する私は果たしてこの牙も爪もある生物に素手で勝てるのだろうか……。
ゴクリ
思わぬ強敵の出現に緊張が走る。
一方のポメラニアンは呑気にあくびをしているけど。目もトロンとしてきたし、もうすぐ寝ちゃうんじゃないかな。
「ああっ、寝ないで! 寝ちゃったら可哀想でどかせなくなっちゃう……!」
今にも意識を飛ばしそうなポメラニアン相手にわたわたしていると、こちらを見る紫と目が合った。
「リュカオン起きてたの? それなら助けてよ……」
「もっと獰猛な生き物に襲われていたら無論そうするが、この白い綿毛相手に我が出張るのか?」
チラリとポメラニアンを見遣るリュカオン。
この小さな毛玉はリュカオンの口よりも小さい。その気になれば一噛みで倒せるだろう。
「子どもの喧嘩に保護者が出張るような無粋な真似はせぬ」
「……」
確かに、この最弱王決定戦みたいな争いに世界最強の生物を持ってくるのはズルいかもしれない。
ここは自力で立ち向かうしかないのか……。
「ポメさん、せめてその椅子一緒に……」
「キャンッ!」
「ひぇっ」
一緒に使おうと提案しようとしたら一際強く吠えられた。
チラリと見える鋭い牙に、抵抗する気をなくす私。
「リュカオン……」
「おお、よしよし、こっちにおいで。我の腹の上に乗せてやろうな」
ちょいちょいと前足で手招きをされたので、仰向けになっているリュカオンの上に乗り上げた。
そして、ふわふわのリュカオンのお腹にムギュッと抱きつく。
わぁ、ふわふわ。あったかい……。
「……まさかポメラニアンにも勝てぬとは……」
私がモフモフに癒やされていると、リュカオンがポツリと呟いた。
聞こえてるよ。
ポメラニアンは私のリクライニングチェアで一頻り寛いだ後、勝手にどこかへ帰っていった。
後で聞いたら、ポメラニアンは最近皇城に来た聖獣だったらしい。
……後日リベンジに行こ。リュカオンに呆れられたままでは終われないからね。
だけど、リベンジでも私がポメラニアンに勝てることはなかった。
しょんぼりである。
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