第76話:くらげと【ふわふわぷよぷよ】。
うさこを連れてルキヤ達を追いかけ受付まで辿り着くと、既に咲耶ちゃんがチケットを購入している所だった。
しかし何か揉めているようで……まぁなんで揉めてるのかは大体分かるけど。
「だーかーらーっ! 大人一枚学生四枚だって言ってるだろーっ!!」
「ですから大人の方はどこに……? 学生五枚でしたらもっとお安く……」
「あたしはこいつらの教師だぞーっ!?」
……私が予想した通りの展開過ぎて失笑しか出てこない。
それはその場にいるみんな同じだったらしく、騒ぐ咲耶ちゃんをよそに皆目を合わせては苦笑い。
結局のところ咲耶ちゃんが免許証を叩きつけ受付嬢をなんとか納得させ、無事にチケットを購入する事が出来た。
微笑ましいにも程がある流れなのに当の小さな教師はその幼い外見に見合わぬ凶悪な目付きでイライラしていた。
「まぁ咲耶ちゃん落ち着きなよ。水族館楽しみにしてたんでしょ? イライラしながら見たって楽しく無いよ」
「ぐぬぬ……確かに絵菜の言う通りだ。そうだな……せっかくの機会だから気を取り直して楽しむとすっかね」
咲耶ちゃんが大きくため息をつくと、急にスイッチが切り替わり「うおーすげーっ!」とか言いながら大きな水槽に向かってとことこ走っていってしまった。
まぁ、教師どころか大人に見えないのも頷けるんだよなぁ。最後涙目になって謝り倒してた受付嬢が可哀想になってきた。
「ねーねー、私達も見て回ろうよ♪」
「はいはい、奈那もこういうの好きだったのか?」
私の質問に、うさこが呆れ顔で「おねーさまは分かってませんの」とか言い出した。
「え、なにどういう事? 奈那?」
気になって奈那に回答を求めると、ちょっと恥ずかしそうに笑って言った。
「こういうのはね、誰と一緒なのかが大事なんだよ?」
あぁ、確かに私は分かってなかった。
やっぱりこいつ天使か何かだわ。可愛すぎる。
「ほら、早く行こうよ♪」
「う、うん」
奈那が私に腕を絡めて引き摺って行く。途中から反対側の腕をうさこにがっちりホールドされて私は二人に挟まれて移動する形に。
どう考えても歩きにくいけれど悪い気はしない。
なんだかモテモテのイケメンにでもなった気分だ。
ふとみんなで水槽のクラゲを覗いていると、ガラスに反射して背後からついて来ているルキヤのヘラヘラしただらしない表情が見えた。
こいつも楽しんでるなぁ。どうして私はこいつに萌えを供給しなきゃならんのだろう。
「ねぇ見て見てふわふわぷよぷよだよー」
そう言いながら奈那がその豊満な膨らみを私に押し付けてくる。
「……たしかにふわふわぷよぷよだなぁ……」
「ちょっとおねーさま? どこ見て言ってますの?」
「い、いや誤解だって」
「誤解って何? どうかしたの?」
やめろ奈那の無邪気フェイスが今の私には効く。ダメージが大きい。
「おねーさまが奈那さんのおっぱいを凝視しているんですの」
「おまっ、なんでそれ言うの馬鹿なの!?」
「えーっ? 気になっちゃった? 触ってもいいよ?」
奈那が自分の胸を両手で持ち上げながら小悪魔のように笑う。
「ば、馬鹿言ってないで次行くぞ次っ!」
「絵菜が照れてるーっ♪」
「やかましいっ!」
私が速足で次の水槽へ向かおうとすると、うさこが立ち止まって背後を気にしていた。
「うさこ? どうした?」
「いや、なんだかあこさんがしゃがみ込んでて……具合悪いのかも」
「あー、なんというかあいつはとりあえず放っておいていいよ。今声かけると多分可哀想だから」
私だっていろいろ前よりは知識が増えたのだ。
きっと今はそっとしておいてやった方がいい。今話しかけられたらいろいろあいつも大変だろう。
「ねーあこちゃん大丈夫? お腹痛いの?」
「あっ」
私が止める間もなく奈那が駆け寄ってルキヤの背中をさする。
「な、ななななんでも無いよ。大丈夫だから……!」
ルキヤはまるで助けを求める子猫のように私の方へ視線を投げてくる。
「はぁ……しょうがないなぁ」
「あこは私が見とくからちょっと先に行ってて。すぐに追いかけるよ」
奈那とうさこはそれでも心配そうにしていたが、「だ、大丈夫だから! 絵菜ちゃんとすぐにおいかけるからっ!」というルキヤの言葉を聞いてしぶしぶ先へ進んで行った。
「……うぅ、ごめんね」
「いいよ別に。それよりさぁ、それなんとかなんないの? 立てる?」
「ちょっとまだ無理」
まったく男ってのはよく分からないなぁ。
今はどう見たって女の子なのにそういう所ばっかりちゃんと男なんだから。
しかもこいつの性癖がぶっ壊れてるからよくわからん所で反応するし……。
そうか、よく分からんのは男じゃなくてルキヤだからか。
「お前さぁ、せっかく水族館来たんだからちゃんと楽しみなよ」
「う、うん……でも僕は絵菜ちゃんが幸せそうにしてるのが一番嬉しいから」
その力ない笑顔に一瞬ドキっとしてしまったのだが……それは間違いだったらしい。
「絵菜ちゃんが奈那ちゃんやうさこちゃん達といちゃいちゃしてるの見るのが僕にとって一番の幸せなんだよ」
「……そうですか」
「なんでいきなり敬語になるの?」
「うっせーばか」
一瞬でもドキっとした私が馬鹿だった。こいつはこういう奴だったのだ。
「もういいから早く二人を追うぞ。立て」
無理矢理ルキヤの手を取って引っ張り上げる。
「あっ、ちょ、ちょっと待ってまだ……っ!」
……私は見てしまった。
可愛らしいワンピースが不自然に、そう、なんていうか。
「さいってー。キモっ」
「ひ、ひどいや……」
涙目になってワンピースの前の部分をくしゃっと掴み顔真っ赤にしながら上目遣いこっちを見てくるルキヤ。
自分の中で何か新しい扉が開きそうになるのを感じてしまい、私はとてつもなく自己嫌悪する事になった。
私もどうかしている。
全部こいつのせいだ。こいつの秘密を知ったその日から私の人生どんどん変な方向へ進んでいる気がする。
いつか絶対もっとひどい目に合わせてやるからな……。





