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第75話:風と【おっぱい】と車酔い。★


「ねぇ絵菜見て見て~っ! 凄いよ海だよ!」


「めっちゃテンション上がってんね」


「そりゃそうだよだって海だよ海! 一緒に海来たかったんだぁ~♪」


 やたらと大騒ぎしている奈那の横顔はとても明るく可愛らしい。


「うぅ……うぇっぷ」


「おいうさこ大丈夫か?」


「は、はい……がんばりますぅ……」


「咲耶ちゃん、うさこがしんどそうだからちょっとスピード下げて」


「あぁん? これでも法定速度守ってんだぞ? しょうがねぇなぁ……どっかで一度休憩すっか」



 今私達は咲耶ちゃんの車で古潟の海へ向かっている。

 海が見えて来たところで奈那のテンションがおかしな事になり、うさこは道中で車酔いしてヘロヘロ。高速道路上なので簡単には停まれずにかわいそうな感じになってる。


 後部座席には私を真ん中にして右側にうさこ、左側に奈那が座っている。


 で、助手席には……。


「……すぴー」


 気持ちよさそうに寝ているルキヤ。こいつはいつでもマイペースだなぁ。


 ……時々目が覚めても私達のやり取りに耳をそばだてている気がするが。


 昨日私が海に行かないかとみんなに連絡入れたところ、ルミナは今回スケジュールが合わないとかで電話越しに大騒ぎだった。


 出発前にルミナの奴が私の家に来て、海での様子をしっかり撮影してくるようにとビデオカメラを渡されてしまったが……どうしたものかねぇ。


「ねーねー絵菜、走ってる車の窓から手を出すと風がおっぱいと同じ感触って聞いた事ある?」


「あー、聞いた事くらいはあるな。実際どうかしらんけど」


 奈那も突然妙な事を言いだすもんだなぁと思ったら「やってみよう!」と言うが早いか窓を開けて掌を突き出す。


「うわっ、急に窓あけるんじゃねぇあっちーだろうが!」


 確かに咲耶ちゃんの言う通りめちゃくちゃ熱された空気が一気に車内に流れ込んできた。


「おー? これは……確かにちょっとおっぱいっぽい!」


「マジか。どのくらいの?」


「んーとね……絵菜よりは大きくて、私よりは小さい……うさこちゃんくらいかな?」


「お前らふざけてねぇで早く閉めろ!」


 咲耶ちゃんがブチ切れてしまったので奈那が慌てて窓を閉める。


「えへへ、怒られちゃった~」


「でもほんと外あっついなぁ……こんな暑さの中外で遊ぶとかできるのかねぇ」


「なにおばあちゃんみたいな事言ってるの? 海は別だよ別! だって海に入っちゃえば気持ちいいじゃん♪」


 まぁそれはそうなんだろうけどさ……。


「う、うう゛ぉえぷ」


「咲耶ちゃーん! うさこがヤバい!」


「待て待て待てあたしの車の中に吐くんじゃねぇぞ!? 絶対だ! 吐いたらぶん殴るからな!」


「無茶言ってないで早くなんとかしてあげて!」


「もうちょっとでサービスエリア着くから我慢しろ! 気合いだ! 出そうになったら飲み込め!」


 その後、なんとかギリギリサービスエリアまで到着し、慌てて私がうさこを担いでトイレに駆け込んだ。



「う、うぅ……おねーさま、ごめんなさいですの……」


「いいから。誰だってこういう事はあるんだから気にしなくていい。それより私は何か飲み物でも買ってくるから車に戻って涼んでろよ」


「わ、分かりましたわ……」


 私もうさこが元気無いと正直調子が狂う。

 いつものようにバカやっててくれた方が気が楽だ。

 それこそ、やっと自由になったのだからこれからはもっと自分の為に生きてもらわないと。


 その後もたびたびうさこが危険な状態になって途中で休み休み移動し、なんとか二時くらいに古潟の海まで到着した。


「まだ時間があるからマリンピック寄って行こうぜ。あたし久しぶりだからここに寄る為に早く出たんだよ」


 マリンピックというのは古潟の海岸近くにある大きな水族館だった。


 あの凶悪教師が水族館に行きたくてわくわくしてる様子はなんというかちょっと微笑ましい。

 パッと見その辺のお子様である。


「ほらお前ら早く行くぞ?」


 咲耶ちゃんが助手席のルキヤを叩き起こし、全員を車から放り出す。


「うさこ、大丈夫か?」


「は、はい……もう何も出て来ないので大丈夫ですの……」


 それは大丈夫と言えるのだろうか。


「私こんな大きな水族館初めてーっ! ほら絵菜早く早くーっ!」


 咲耶ちゃんと同じくらいウッキウキな奈那は小走りで入り口の方へ走って行ってしまった。


 本当に元気だなぁ。

 咲耶ちゃんもここに到着したら暑さなんて気にならなくなっちゃったみたいだし……。


 私なんてこの直射日光にやられて溶けてしまいそうだ……。


「はぁ、はぁ……海をバックに見るおねーさまも素敵ですの……!」


「……元気になったようで何よりだよ。うさこはその方がいいと思ってたんだけど……うーん、間違いだったかなぁ」


「何を言ってるかよくわかりませんけれど、私の前以外でそんなに胸元をはだけないで下さいまし! 今は二人だけなので構いませんけれど!」


「……どこ見てんだよバカ」


 あまりに暑くてタンクトップの胸元をパタパタやってたら急に接近してきて覗き込まれた。


 まったく……でもやっと本当に日常が帰ってきたって感じがするな。


「絵菜ちゃん、もう二人チケット買ってるよー? 早くおいでよー!」


「うっせー。すぐ行くから待ってろ」


 ルキヤは勿論今日はあこ。

 水色と白いフリルのついた爽やかかわいいワンピース。女子力が満ちている。


 はぁ……なんでこんなに可愛いんだこいつむかつくなぁ。



挿絵(By みてみん)


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